第36話 ダンジョン清掃 第1階層③
「……あ、落ちてる落ちてる」
「プリンちゃん、なにやってるの?」
「あっ、その、ご、ゴミ拾い……えへ、へ」
「スライムの残骸を? ばっちくない?」
「う、うん……でも、せっかくシェイクが倒してくれたんだから、持って帰って点数にしないともったいない、し、ふふへ」
「真面目だなぁ。でも、確かにそうだね。うん、シェイク君もありがと! 倒して回収したゴミは高得点、だもんね。わたしも拾うよ!」
「ひ、ひひ、拾うとき気をつけて。体液に触れると火傷しちゃう、よ?」
プリンとココアのやり取り。
それを目の当たりにして、シェイクはすっと前に出た。
ココアが、わあーでっかー、とか呟きつつ拾い上げようとしていたスライムの粘膜の残骸。
それを、さっ、と手を出して拾い上げる。
横から獲物をかっさらわれた形のココア、顔をあげてシェイクに笑いかけてきた。
「シェイク君もゴミ拾い手伝ってくれるんだ。悪いねえ。倒してもらった上に後始末まで」
「……君は何者なんだ? なにを企んでいる?」
「え? んん!?」
「プリンとの仲を深めて、どうするつもりだ?」
「なに言ってるのかよくわからないけど……友達と仲良くなるのは当たり前じゃない?」
「そうか……。それで、スチールのところの魔術使と知り合いのようだったが、あいつからなにか聞いてるんじゃないのか? もしくは頼まれてるとか」
「さっきも言ったけど、あんな魔法バカ、知ったことじゃないってば。赤の他人」
「……俺のことを調べるように言われて、プリンに近付いたんじゃ?」
「シェイク君のことを調べる? シェイク君のなにを調べろっていうの?」
「……俺の幸運の源、とか」
「シェイク君、そんなに運がいいの?」
「いや、別に……。と、とにかく。なにか下心があってプリンに近付いたんなら、俺は許さないからな」
「……えー? ちょっと待って? もしかして、わたしがプリンちゃんと仲良くなるの、本気で嫉妬しちゃってるの? 冗談じゃなく?」
「嫉妬じゃない。そういう感情じゃない。ただ俺はプリンの身を案じて……その、プリンを惑わして傷つけるつもりなら、パーティから出て行ってもらいたいってだけだ」
「……プリンちゃんも、なんでそんなパーティ全体のことをシェイク君1人に決められなきゃいけないの? DV彼氏が女の子から親も友達も取り上げて孤立させた挙句、自分に依存させようとしてるみたい。シェイク君はプリンちゃんに誰とも仲良くなってほしくないんだ? 重いなあ」
「誰とでも仲良くなってくれていいさ。それに値する相手なら、な。けど、今はまだ君のことを、プリンにとっていい相手かどうか見極められない。だから、もう少しプリンと距離をおいてほしい」
「……あのさぁ、シェイク君」
「なんだ?」
「そんなにシェイク君1人でプリンちゃんのこと独占しないで。ずるいよ。プリンちゃんだって、そんな風にシェイク君から干渉されてばかりじゃ、いずれ喧嘩になって友達じゃなくなっちゃうよ」
そこへ、部屋のあちこちにはじけ飛んだスライムの残骸を拾い集めてきたプリンが声をかけてくる。
「シェイク、ココアちゃん、大分綺麗になったよ。……て、あ、あれ……? ふ、2人……どうかした、の?」
「なんでもないよ~。ねえ、プリンちゃん、ちゅっちゅしよ、ちゅっちゅ!」
「え、ふへ!? え、へ、へへっ、そ、それは」
「嫌だって言わないってことはいいってことだよね! ちゅー!」
「あっ、あっ、まっ、へ、えへ、しぇ、シェイク……?」
抱き着いてくるココアを両手で押し返すかのように抗うプリンは、だが、非力だ。
いずれココアにちゅっちゅされてしまうだろう。
そんな光景を前にして、シェイクは動かない。
先程、ココアに言われた言葉に心揺らされていたからだ。
『俺が独占してる……? プリンを?』
シェイクは言われてみて、はっとしたのだ。
『俺だけがプリンの秘密を知っている』
『そして、その効果を独り占めしている』
『プリンがもたらしてくれる幸運の恩恵は、俺が一身に受けている……』
『これって俺が心配していた、プリンの力を利用して自分だけ得をしようと考える悪党と同じことをしているんじゃないか……?』
『……俺はそんな浅ましい了見でプリンの力のことを秘密にしているわけじゃ……』
『……でも、結局やってることは同じ……?』
「……ちょっと? なに固まってるの、シェイク君?」
ココアに呼びかけられて、シェイクは我に返った。
咳払いして、気を取り直す。
「いや、別に……」
「ひどいよ、シェイク! ぼくがココアちゃんにちゅーされてる間、黙ってみてるなんて!」
「シェイク君はそういうのの間に挟まらないくらい紳士なんだよ、ねえ、シェイク君?」
「いや、俺は……て、なにっ!? 本当にキスを……親密になり過ぎじゃないか!?」
シェイクはますますココアのことを警戒の目で見てしまうことになる。
なお一方で、暗がりからシェイク達のことを刺すように見つめる目がいくつもある。
そして、シェイク達はそのことに全く気付いていない。
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