第35話 ダンジョン清掃 第1階層②
人の背丈ほどの大きさになったスライムを前にして、シェイクは叫ぶ。
「みんなは下がってろ! こいつ、直接攻撃しても効果は薄い」
「シェイク君だって、その剣だけでどうするの!?」
「……なんとかなる」
ココアの問いかけにシェイクは短く答える。
実際、どうやって倒すかはまるで思いついていない。
スライムの体液は酸で、斬り付け続ければ逆に剣などボロボロにされてしまうだろう。
それでもシェイクは恐れてはいなかった。
それはプリンへの信頼の故か。
プリンのもたらしてくれる幸運が、武器の通用しない敵相手でも勝たせてくれると信じているからだ。
ココアが傍らであわあわしているプリンに鋭く問う。
「プリンちゃん! 魔法での炎付与ってできる?」
「えっ、う、うん、あっ、あっ、でも、光輝の矢の方がダメージ出せる……スライムを攻撃するなら……」
「仲間の力を信じて! シェイク君の剣に炎の魔法をかけるの!」
「じゃ、じゃあ、火炎の双手よ、その剣に絡みて力と為せ……」
プリンの杖の先に細長い炎が灯る。
そして、プリンはその杖をおっかなびっくりシェイクの剣にくっつけようと近付いていった。
「! その魔法、剣に直接接触しないとかからない奴だろ!? こっちに来るなって、プリン! お前に危険が及ぶ!」
スライムはシェイクを体ごと包み込もうと体当たりしてきたり、体の一部をびゅっと伸ばして叩きつけようとしてきている。
シェイクならそれらを躱したり剣で弾いたりできるが、プリンは標的になったら為す術もないだろう。
「で、でも、シェイク……」
「大丈夫だって。俺達は決して負けはしないさ。プリンは危ないから下がって……」
そこへココアの鋭い声が投げかけられる。
「シェイク君もプリンちゃんを信じてあげて!」
「俺が?」
「そうだよ! プリンちゃんの魔術使としての腕、信じてないの、シェイク君は!?」
「! 俺はいつだってプリンを信じてる」
「なら、しっかりプリンちゃんの魔法を受け止めて! プリンちゃん、今!」
「か、火炎の双手、剣を掴め!」
スライムの隙を突き、プリンはシェイクの傍まで駆け寄って杖を突き出した。
その杖の先端に、シェイクは剣を重ねる。
杖から炎がヘビのように絡まっていき、剣が燃え盛り始めた。
「……これは……」
スライムがプリンの動きに反応した。
ぼよん、とばかりにスライムは揺れ動き、二つに分裂。
一方がプリンを飲み込もうと膨れ上がる。
「ひひゃ!?」
「させるか!」
「信仰の盾!」
プリンが悲鳴を上げるのと、シェイクの片手剣が一閃するのと、ココアが呪文を唱えるのとが同時に起こる。
じゅっ、と湿った音がしてスライムが千切れ跳んだ。
スライムの体液が撒き散らされる。
プリンはたった今現れた不可視の盾に護られて、酸性の体液による被害を受けなかった。
「……火が効くなら遠慮はいらないな」
シェイクは今の手応えに確かなものを感じる。
そして、二体に増えたスライムに対して構え直した。
燃え盛る炎の剣が乱舞する。
スライムは蒸気を発し、びしゃびしゃと細断されていった。
すぐに、その場に残るのはシェイクだけになる。
「……もしかして、ぼくの魔法役に立った?」
「プリンちゃんは味方に付与を授ける能力に長けてるみたいだね。変に威力のある魔法を使おうとするより、仲間を強化する魔法の方が確実そう」
目をぱちぱちしていたプリンに、ココアが笑いかける。
それにつられて、プリンの顔もぱあっと明るくなった。
「……ぼく、はじめてかも。こんなふうに支援を任されるなんて。そう、こういうの、こういうのが冒険だよね!」
「一人の力で全部解決するんじゃなくて、それぞれが協力して乗り越える。そういうのがプリンちゃんの好みだもんね?」
「う、うん、そう! 嬉しい……! これまで仕事を任せてもらえたことってなかったから……あ、あの、ココアちゃん」
「ん? どうかした?」
「……こ、こんなぼくを1人の冒険者として見てくれて、あ、ありがと……」
「あはは! お礼なんか言わなくていいよ~。当たり前のことでしょ? ほんと、プリンちゃんは変な子!」
「へ、えへへ……」
スライムを倒し、なごむ2人。
それを見ているシェイクはなぜか胸騒ぎがしていた。
『あれ? なんか……プリンとココア、仲良くなりすぎじゃないか……?』
『俺はプリンの盾になると言って……結果、プリンに何もさせなかった? ただの過保護だった?』
『ココアの方がよっぽどプリンのことを喜ばせてる……』
プリンが嬉しがっているのを見て嬉しい反面、それをもたらしたのが自分でないことに、シェイクはもやっとする。
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