第34話 ダンジョン清掃 第1階層①
「……くそ、手ごたえがない」
剣を振るってから、シェイクは毒づいた。
ダンジョン第1階層。
スチール達と勝負の取り決めをした後のことだ。
探索を進めていたシェイク達は、目を引く扉に行きあたっていた。
豪華な金張り。
怪物の姿がデザインされた鉄細工。
ダンジョンの第1階層には似つかわしくない扉だ。
最下層のラスボスの潜む部屋の扉だったら相応しいかもしれない。
そして、最も目を引くのはその扉に掲げられた案内板。
『この奥、宝箱。先着一名様、早い者勝ち』
そう書かれている。
実にわざとらしい。
やった! もう宝箱を見つけられるなんて! とはしゃぐプリン。
これもダンジョン管理者が設置した扉だろうから……十中八九罠だろう、とシェイクは見てとった。
「わたしもそう思うよ」
ココアもシェイクの見当てに同意する。
そして、肩を竦めて見せた。
「でも、わたし達の中に盗賊はいない。どうやって罠を解除するの? それとも手をつけずに、このいかにも裏のありそうな扉を無視して別の場所を探す?」
「罠感知に罠解除、俺がやる」
「え、でも、シェイク君は剣士でしょ?」
「軽戦士だ。剣が得意なのはその通りだが。盗賊の真似事も少しは齧っている」
プリンにできないことを補うために、シェイクは色々と浅く広く手をつけていた。
そして、それで十分だった。
なぜなら、シェイクがなにかを試すとそこには幸運がもたらされるのだから。
プリンのお陰で。
その結果、
「……扉自体に罠はない。鍵はかかっている。が、難しい造りじゃない」
シェイクは罠と扉の鍵の鑑定に容易く成功した。
そして、素早く開錠。
「開いたぞ」
「ふぁあ、さすがシェイクだね! 頼りになる!」
「さぁて、扉の先には本当に宝箱があるのか。それともそれは嘘で、本当は落とし穴だらけの部屋でも用意されてるのか……楽しみだね、プリンちゃん」
「えへへ、うん!」
がちゃり。
シェイクは扉を開け、その先を確認する。
「……残念ながら、どっちも違う」
シェイクはそう言いながら、扉を大きく開け放し、プリン達にその先を見せてやる。
そこには壁があった。
僅かに割れ目が入っているが、紛うことなき壁だ。
どこにも通じていない。
「……なぁんだ、行き止まりか」
「わざわざ壁に立派な扉を取り付けて、時間を無駄にさせるなんて意地が悪いね、ダンジョン管理側は」
「……これもゴミとして拾っていこうか?」
「シェイク君、扉はダンジョンの付属品だから壊して持っていったら弁償でしょ?」
そうやってみんなが気を抜いた時だった。
シェイクは扉の先の壁から水がしみ出してきているのに気づく。
壁の割れ目からぶちゅぶちゅと粘性の水が流れ出ているではないか。
シェイクは眉を顰め、その水をよく見ようと顔を近づけ……ようとしたところで、うっかり扉に肩をぶつけてしまった。
押されて扉が閉まりかける。
そこへ、びゅるっと勢いよく割れ目から水が噴き出してきた。
びしゃあっ、と扉に張り付く水。
そして、そこからぬるぬると動き始める。
たまたま幸運にも扉が閉まりかけなかったら、その水はシェイクの顔に張り付いていただろう。
シェイクはそれを見て、はっとする。
いや、これは水ではなくて……。
「スライムか!?」
不定形でひたすら食べるためだけに存在している魔物。
その体は僅かな裂け目も通り抜けることができるという。
扉を開けた盗賊を待ち伏せて、油断したところを割れ目から飛び掛かるこの仕様。
「盗賊殺しの罠だ」
シェイクは素早く剣を抜き、割れ目から染み出し続けるスライムに切りかかった。
そして、その手ごたえの無さに、自分ではこの魔物を傷つけることができないと悟る。
スライムはみるみる大きくなっていった。
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