第32話 ダンジョン清掃⑤

 ダンジョンへの入り口はもうすぐそこだってのに……。

 

 立ちはだかるスチール達を前に、シェイクは面倒くささを覚える。

 スチールは勝手に盛り上がっているようだ。

 鼻息も荒く威圧的。

 そこでシェイクは努めて冷めた声で言った。


「それより先に金を払え」

「……なに?」

「昨日、ダンジョンから連れ出してやったろ。その時お前ら、俺達を雇うって言ったじゃないか。金貨で払うんじゃなかったのか」

「……いや、それはそうだが、俺達はわざわざ待ち構えてまで復讐の宣言をしているわけで、もっとこう……あるだろ? なに⁉ とか、デスゲームとはどういう意味だ!? とかそういう反応が……」

「いや、こういうのはきっちりしておかないと。冒険者同士、金のことでモヤモヤが残るといざという時遺恨となる、と座学でも学んだからな」

「いや……それはそうかもしれないが……今言わなくても……」

「払う気になったらもう一度来い。じゃあな」


 よし。

 うまいこと相手の気持ちを盛り下げて、この場から立ち去れそうだ。

 これ以上相手にせず、さっさとダンジョンに入ってしまおう。

 そんなシェイクの思惑を軽々と叩き潰すプリン。


「あっ……ほ、報酬とか別に、へへ、いいですよ? お金とか大変、ですもんね? き、気にしないでっへへ……」

「おい、プリン。勝手になかったことにするな」

「え、でも、シェイク。スチールさんもきっと、その、懐が苦しそうだし……。ね、ねえ、スチールさん? う、うふ……その鎧、し、新調したんでしょう? へ、へひ、ひっとお高いですもんね。昨日はぼっ、ボロボロにされて……ふ、ふへ、素敵、ですね」

「なんだとっ!?」

「ひゃい!?」


 昨日の無様な姿を煽られたと激高するスチールに、怒鳴られて震え上がるプリン。


「俺の懐具合など貴様の知ったことではないわ! 我が家を侮るなよ!」

「は、はい! すみ、すみませ……っ!」

「と申しますか、根本的なことを申し上げますと、昨日の件、契約書とかありましたっけ? ねえ、スチール様? 文書が残っていないなら払う謂れはありませんよ。金貨で払う、なんて言いましたっけねえ?」


 いかにも心外だ、という表情を張り付けてスチールの横の僧侶──グッドマンが助言する。

 そう言われてスチールは渋面になった。


「おい、それはさすがにみみっちいぞ。俺達が小銭に拘る小物っぽくなるからやめろ」

「さすがスチール様! 器が大きくていらっしゃる!」


 揉み手のグッドマン、スチールを持ち上げる。


「……とにかくちゃんと金は払う。だが、今はその話じゃない。今は決闘を申し込むって話だ」

「くそ、話が戻ってしまった……」


 シェイクは悪態を吐く。

 その横で、ココアが、あれ? と声を上げた。


「レッドアイじゃない? なんで?」

「……話しかけないでもらおう」

「あー、はいはい。そうだね」


 ココアはスチール側の魔術使と短く言葉を交わす。


「……知り合いなのか?」

「別に。よく知らないけど」


 シェイクの問いかけにココアは肩を竦めて見せるばかり。

 そんなことをしている間に、プリンがおずおずと聞いてしまった。


「あっ、あのっ、さっき言ってたデ、デスゲームって……なんのこと、ですか?」

「あ、バカ……」

「そうだ、その話だ」


 スチールが身を乗り出す。


「せっかくのゴミ拾いだ。簡単な実習のまま終わらせてはつまらない。もっと冒険者らしく、俺達で勝負しよう」

「なぜそうなる?」

「勝負って……ど、どちらがゴミ拾いで多く得点できるか競争……ですか?」

「プリン、話に乗っかるな。無視しろ」

「点数を競うんじゃない。言ったろう? 冒険者らしく勝負しろ、と。ダンジョンといえば宝探しだ」

「! 宝探しっ! い、いひ、いいっ、ですね!」

「ここは訓練用のダンジョンだ。第1階層にもダンジョン管理者側が設置した宝箱がある。それを見つけて持ち帰った方が勝ち。というのはどうだ?」

「……そんな勝負して、なんのメリットがあるんだよ」

「勝てば、俺達の方が貴様等より冒険者として有能だと証明できるだろうが!」

「それはお前達はそれで満足できるかもしれないが、俺達にはなんにも得がないだろ。ていうか、それのどこがデスゲームだ」

「じゃあ、勝った方は負けた方になにか1つ命令できる! これでいいだろ! それに宝箱を見つけるだけで終わりじゃないんだぞ? ここまで持って帰ってこれるかどうかの勝負……つまり、妨害や強奪もあり、相手を殺してでも勝ち残る、まさにデスゲームだ!」

「デスゲーム言いたいだけだろ。それ全然違うからな」

「うるさい! とにかく決闘だ!」

「いや、そんなもの勝手に……」

「い、いひ、いいですよっ! やりましょうっ!」


 目を輝かせたプリンが勝手に受けてたった。

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