第29話 ダンジョン清掃②
「……教官達、本当にダンジョンに潜るのか。……単なるメンテナンスや定期的な見回りって感じじゃないな……」
教官達の物々しい雰囲気にシェイクは呟いた。
と、シェイクは気付く。
義眼白髪の教官がしっかと自分の視線を受け止めているではないか。
『……あの教官、視線を感じ取る特殊技能でも持っているのか?』
地獄耳ならぬ地獄の目のような。
そんなことを思っていると、
「こちらへ来い、シェイク訓練生」
義眼白髪の教官が静かな声で指示してきた。
課題に挑戦しようとする大勢の訓練生が周りでざわめいているのに、だ。
そんなざわめきの中でも、その静かな声はシェイクの耳まで届く。
シェイクは指示に従った。
ん? あれ? どしたの、シェイク? ともたつきながらプリン、その後にココアもついてくる。
「君に直接確認したい」
教官は目の前までやってきたシェイクに詰問するように聞いた。
「君は昨日、第2階層でリッチに率いられたスケルトンの集団に遭遇した。間違いないか?」
「間違いないです」
「そして、それらを君1人で討伐した。それも間違いないか?」
「間違ってますね」
「ほう?」
教官は義眼の方の目はそのままに、もう一方の目でシェイクをじっと見透かす。
「俺と、プリン。2人で討伐しました」
「プリン訓練生と……?」
「え!? は、はへっ!?」
教官からの冷たい視線を受け、プリンは口ごもった。
教官は再びシェイクに視線を戻す。
「資料では、君1人で討伐したように点数が付けられていたのだがな」
「ホークアイ教官! プリン訓練生はリッチ討伐には関わっていませんよ。シェイク訓練生の陰に隠れて、魔法に失敗していただけです。その様子は、自分が確認しました。監視球の記録に残っています」
教官の横から、暑苦しい顔の教官が口を出してきた。
続けて、憎々し気な口調で、
「自分としては、シェイク訓練生がリッチを討伐したのも疑わしいと思いましたがね。しかし、偶然であっても相手の自滅であっても、リッチが倒れたのは間違いありません。そして、その際戦っていたのはシェイク訓練生1人でした」
「なるほど。シェイク訓練生、君1人の技量でリッチクラスの魔物を倒せるとは私は思っていなかったが、どうやら君は特別な幸運に恵まれたようだな」
「……俺は、俺1人で倒したとは思っていません」
「それで、だ。シェイク訓練生。君のその幸運はどこからやってきたものなのか、私に説明できるか?」
シェイクはその問いかけに周囲を見回した。
誰が聞いているとも限らない。
そもそも教官だってなにを考えてこんなことを聞いてきたのか……?
「……幸運かどうかなんてわかりません。ただ、たまたまそうなっただけです」
「なにか特別なアイテムでも所持していないか? それともそういった特別な魔法か?」
「……心当たりはないです」
「なるほど、そうか。シェイク訓練生、君にはここを辞めてもらう。退所届が書けたらいつでも私のところへ来い」
「な……!?」
突然の退学宣告にシェイクは目を見開く。
すぐ横でプリンは、え? え? ときょろきょろし、ココアも、こっわ……! と身を竦めた。
……プリンを置いて、俺にここから出て行けと言うのか? そんなことできるか!
そう思ったシェイクは奮い立つ。
「……どうして!? 横暴だ!」
「君は仲間を危険にさらしている。君には君自身にも不明な御しえぬ力が備わっているようだ。君のその力は、仲間にとっては不運となって降りかかるかもしれない。よく考えることだ。どうするのが仲間にとって最善の道なのかを」
「ホークアイ教官。そろそろ……」
義眼白髪の教官の隣の、魔女姿の教官がそう促す。
すると、義眼白髪の教官は頷いて見せた。
「以上だ。なにか言いたいことがあれば、後日私のところまで来るように」
そうして、教官達はダンジョンの奥へと消えた。
ただ1人、魔女姿の教官がなにか思いついたように立ち止まり、振り返る。
その際、こぼれそうな乳が揺れた。
「シェイク訓練生、あなた達もダンジョン清掃に参加するの?」
「……そのつもりでした。ですが、退学になってしまっては……」
「あなたはまだこの訓練所に在籍しているわよ」
「え?」
「あなたは退所届をホークアイ教官に提出していない。だから、まだ退所したわけじゃない。ダンジョン清掃を頑張って……そして、今度ホークアイ教官に会う時までに、彼を納得させられる答えを用意しておくことね。そうすれば退学宣告も取り消されるでしょう」
それだけ言うと、魔女姿の教官もダンジョンへと続く両開きの扉へと消えた。
その後ろ姿はまったくもってケツでかプリンプリンだったという。
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