第28話 ダンジョン清掃①

 シェイク達は訓練所の端にある建物、ダンジョン管理棟へとやってきた。

 シェイクとプリンの横にはココアの姿もある。

 そのココア、ダンジョン管理棟内を見回して首を捻る。


「なんだか騒がしいね?」

「……昨日はほとんど訓練生がいなくて暇そうだったんだがな」


 結局、シェイクはココアの同行を認めていた。

 その理由は2つある。

 まず、プリン自身がそう望んだこと。

 ねえ~いいでしょ~? 一緒に行っても。ねえ~? と誕生日の子供みたいにねだられたのだ。

 プリンはココアから『おもしれー女』扱いされたのが結構嬉しかったらしい。

 プリンちゃんのそういうとこ好き、とべたべた引っ付かれて、えへ、へへへ……とにやけ面してたくらいだ。

 ちょっと好意向けられたらすぐ勘違いしやがる。チョロすぎるだろ。

 と、シェイクは内心苛ついた。

 が、それを表に出してしまうと、なんだか体裁が悪い。

 だから、全然気にしてない風に「いいぜ、プリンがそうしたいなら」とクールにやせ我慢して見せたものだ。

 そして、シェイクがココアの同行を認めた2つ目の理由。

 それは、ココアがプリンと一緒に冒険することを厭わないからだ。

 それどころか望んでいる。

 プリンを役立たず・無能と蔑んで、一緒に行くことを望まなかった他の連中とは明らかに違う。

 そう思ったシェイクは、ココアの好意はある程度本物だと認めた。

 そして、自分達に同行させ、様子を見ることにしたのだった。

 そう、様子見だ。

 もちろん、ココアがプリンの力に勘付いていて、その力を利用しようと近付いてきた悪人の可能性もある。

 もし、ココアにそんな意図があるなら、近くで泳がせて自分の目で確かめてやろう。

 シェイクはそんな心づもりだ。


『大丈夫。ココアを受け入れてなにかあっても俺がフォローする。……もしプリンを拉致監禁しようとか害を及ぼそうものなら、俺が……後始末をつける』


 シェイクがそんな暗い決意を固めていることなどつゆ知らず。

 ココアは周りの訓練生達に、なになに? なにがあったの? などと事情を聴いている。プリンは地蔵のように固まっている。

 と、その内の1人、おしゃべりそうな旅芸人風の男子訓練生がココアの問いに応えてくれた。


「……ダンジョン清掃?」

「そうそう、今日は特別らしいのう」


 その訓練生も詳しいことを知っているわけではないようだったが、彼が言うには今日の実習課題はダンジョン内の大掃除だけなのだそうだ。


「アベレージ3以上の全課題がダンジョン内の清掃作業になっていてのう。今日だけの限定課題ってやつじゃな。ま、清掃って言っても床を磨いたりゴミ拾いするだけじゃない。うろついてる魔物がいたら、それも片付けろってことじゃろな」

「でも、大掃除なんて課題で随分みんな張り切ってるのね?」

「そりゃ、これはボーナスみたいな課題だからのう。パーティ組んでダンジョンに潜れさえすれば、ゴミ拾ってくるだけで課題クリアじゃぜ? 極端な話、やばそうな魔物を見つけたらその掃除は誰かに任せて逃げちゃえばいいしのう」


 その話を横で聞いていたプリンが俄然目を輝かせる。


「あっ、あのっ! 本当にゴミを、あ、そ、そのう、拾ってくるだけで、へ、へへ、得点もらえる……んですか?」

「そうそう。これなら魔物を何体討伐してくるとか危ない橋渡らずに実習クリアできるからのう。そりゃみんな、今日は目の色変えて集まるわい」

「ふ、ふわぁ、へ、えへ、なら、ぼくも……得点して星2に……!」


 そこでシェイクも口を出した。


「それにしても、なんで今日に限って大掃除なんて課題が出たんだ?」

「さあのう? でも、今日は教官達がダンジョンの深い階層に潜るらしいから、その関係じゃないか? 今日のダンジョン、教官達が潜る第2階層以降は訓練生立ち入り禁止らしいんじゃ。で、教官達が深い階層を探索している間に、俺達で第1階層を綺麗にしとけってことじゃろな。教官様はキレイな第1階層をお望みじゃ」

「教官達が? ダンジョンに入るのか?」

「そう聞いとるが。ええと……ほら、あそこ」


 旅芸人風の訓練生が指差す方向。

 それはダンジョンに通じる両開きの扉がある場所だった。

 その前に立っているのは、暑苦しい教官に妖艶な魔女教官、そして元白金級冒険者だったとかいう義眼白髪の教官だ。

 その誰もがにこりともしていない。

 厳しい顔つきだった。

 シェイクは胸騒ぎを覚える。


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