第27話 出会った少女②

「俺達と一緒に行きたいって? 本当に?」


 シェイクは、プリンと一緒にやってきた星3つ訓練生ココアの顔をまじまじと見る。

 午前の座学が終わった後の、訓練所内大食堂でのことだ。

 ここでは訓練生達が思い思いに食事をしたり雑談、相談をしている。

 午後の実習にて、共にダンジョンへ潜る相手を探している者も多い。

 加わるべきパーティが見つからず、未だ実習に取り掛かっていない訓練生の表情には焦りも見える。

 それも当然か。

 なにしろ、たった1日でもう星の数を増やした訓練生が出たのだから。

 多くの訓練生は、自分が出遅れていることに危機感を覚えただろう。


『このココアって子も、そういう焦りから自分達に同行したいと言っているのか? 星6つの俺がいるなら、自分の実習点数も簡単に稼げると思って?』


 と、シェイクはココアの表情を読もうとした。

 そのココアはシェイクを見ていない。

 プリンを見ている。


「プリンちゃんと一緒なら、実習も面白いと思ったんだ。ねえ、プリンちゃん、いいでしょ? 一緒に行っても? プリンちゃんって、その傍にいたらすごく楽しそう! わたしのこういう予感、当たるんだよね」

「あっ、はい、で、でも、ぼくだけじゃ、へへ、決められないっていうか、えへ、シェイク、どう……? いい……?」


 シェイクはココアの言い分に引っかかりを覚える。


「……星6つ訓練生の俺と一緒に実習を受けたいわけじゃなく、プリンと一緒にいたい……ってことか?」

「え? ……あ、もしかしてシェイク君、わたしがシェイク君目当てでパーティに入りたいって言ってると思ってる? あはは! それはちょっと……自意識過剰かな?」

「……そういうわけじゃない」

「ごめんね? なんか……ごめんね?」

「そ、そういうわけじゃないって言ってるだろ!」


 シェイクは思わず口ごもる。

 だが、確認せずにはいられないことだ。

 ココアの目的がプリンだとしたら、それはなぜか?


『……プリンのこと、この子はなにか勘付いてるのか? 赤い目の魔術使も俺の幸運についてなにかあると勘ぐっていた。あいつから聞いたのか? あいつと繋がっていて探りに来た、とか?』


 だとすれば、迂闊な真似はできない。

 そう、シェイクは警戒を強める。

 ココアはプリンの力のことを知っても大丈夫な相手なのかどうか見極めないと。

 屋敷に閉じ込められ、闇の中、日の光も見られなくなるプリンの姿を想像し、シェイクは怖気だった。

 そんな気持ちを振り払うように咳払い。


「……んんっ……つまり、ココア、君はプリンが目当てなのか? プリンの魔術使としての将来性を見抜いたんだな?」

「プリンちゃん目当て……って言われるとちょっと照れちゃうけど、まあそうだよ。プリンちゃんのこと好きだから~」

「ひゃい!? あっあっありがと、ござ、あっあっいい匂……ふ、ふへ、へ」


 目の前でべたべたスキンシップ取り始めるココアと、顔を赤らめながら拒否せず満更でもなさそうなプリンを前に、シェイクは苛立ちを覚える。

 わざとらしく咳払い。


「……ん、んんっ……! 君には見る目がある、といいたいところだが……プリンは君の前で術を見せたわけでもないだろう? それなのに、なぜだ? 誰かからなにか聞いたのか? なにか、そう……プリンには特別な力があるとでも?」

「え? いや、全然? ていうか、わたし、プリンちゃんの魔術使としての能力とか全然期待してないよ。星1つだもんね」

「はひっ、は、ははっ、そ、そうです、ぼくなんか星1つで、す、すみません……」

「あはは、またあ! でも、そういうとこが好きだよ」


 シェイクは考え込む。


「つまり……君は純粋な好意で、プリンの傍で一緒に実習にもいきたい、と?」

「そうだよ」


 あっけらかんとしたココアの言葉。

 本当だろうか? とシェイクは思ってしまう。


『本当にココアが好意を抱いているなら、プリンに悪いことはしないだろうけど……好きだとか嘘を吐いて、俺達の中に入り込もうとしてるだけかも……?』


 そんなシェイクの様子を見ているココアは面白そう。


「……なーんか考え込んでるね? シェイク君はなにをそんなに慎重になってるの? なにか隠し事?」

「いや、別に」

「もしかして……プリンちゃんを取られそうで焼きもちかな?」

「え? へ? シェイク、そうなの?」

「そ、そんなわけあるか! なんで俺が……」


 ココアの笑みが顔に広がる。


「シェイク君も面白いね。わたし、プリンちゃんだけじゃなくてシェイク君とも相性悪くないと思うな♪」

「俺とも……?」

「今後ともよろしく、ね?」


 シェイクは虚を突かれたように言葉を失った。

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