第25話 星6つになった男③

 プリンを見失ったシェイクの頭の中に、あらぬイメージが次々湧きあがってくる。


『きみ、プリンちゃんだよね?』

『は、はひっ!?』

『気になってたんだ。きみ、かわいいし』

『かっ、かはっ!?』

『ねえねえ、ちょっと俺と付き合ってくんない?』

『あひっ、ぼく、えっ、へへ』

『いいからいいから』

『はっ、へひっ、し、しらにぃ人、ついて行っちゃだめ、へへ』

『知らなくないよ、おんなじ訓練生じゃーん?』

『あっ、あっ、ふひへ、そ、そう、ですね』

『そうそう、知らない人じゃないっしょ? だから、ね? 俺とちょっと遊ぼうよ?』

『はっ、へっ、えっへへ、じゃ、じゃあ、いい、かなあ、なんて。えへ』


「……いいわけあるかっ!」


 シェイクは盛大に独り言を漏らし、右拳で左手のひらを激しく打った。


 ……プリンの奴、押しに弱いところがあるから、強引に連れられていってしまったかもしれない……!

 まったく、自分を大事にしろといつもいっているのに……。

 ふらふらと、ちょっと目を離すとすぐ心配かけるんだから。

 誰かに優しい言葉でもかけられたのか……?

 でも、誰がプリンにそんな言葉……。


 と、シェイクは、はっ、と思い当たる。


『君の成功の要因……それは幸運ではないのか?』


 そう問いかけてきた赤い目の魔術使。

 あいつがなにか勘付いたのでは……?

 そしてあいつは簡単に人を売る奴だ。

 俺のことはもちろん、プリンのことだって売るだろう。


「……攫われたんじゃないだろうな」


 シェイクは押しつぶされたみたいに息苦しくなった。


  ◆


 一方その頃、プリンは震えていた。


「どうなんだよ!?」

「ひぇ」


 強い口調で問われ、プリンは言葉を返せない。

 校庭で、教官から解散を告げられた後。

 ちょっと話があるから、と女子訓練生数人に囲まれ訓練所へと連れ込まれたプリン。

 廊下のはずれ、物陰になっているところに立たされた。


「あんたと同室のフリージアさあ、あたし達のパーティメンバーだったんだけど……」

「なんか突然顔面に大けがして実習出られないって、なにそれ?」

「どういうわけかしら? プリンちゃん、なんか知ってるんじゃない?」

「たとえば、あんたがやったとかさあ!」


 女子訓練生数人に代わるがわる怒鳴られ脅され、プリンはしどろもどろ。


「ち、違っ、その、へ、へへ、変な話で、うふ、ベッドの足が折れて、あ、あふ、ってそれ、ぼくのベッドなんだけど、だ、だかっら! あっ、はへ、ほほ、本当はぼくが怪我してた、んだよ、へへ……」

「あ? なに言ってんだおめえ?」

「うーん、ちょっとなに言ってるかわかんないなあ?」

「お前の所為じゃねえかって聞いてんだよ、こっちは!」

「ひゃいっ! 元はぼくのベッド、だから、えへ、ぼくの、せい……?」

「……やっぱ、おめーがやったんだな?」

「あっ、あっ、違うっ! 違っ、ベッドを交換したっの、フリージアさんで、ふ、ふへ」

「……こいつわけわかんねーな」

「とにかく、こっちはメンバーが一人欠けて困ってんだよ。落とし前つけてもらわないと」

「え、あ、あの、へへ、落とし前って……?」


 プリンを囲む女子訓練生の中で一番かわいい子がにっこり微笑んだ。


「プリンちゃんさあ? シェイク君と仲いいよね? だから……シェイク君にわたし達のパーティへ入るよう説得してくれないかなあ?」

「え、シェイク?」

「シェイク君だって、プリンちゃんと一緒にダンジョンに行くより、わたし達と一緒に行ったほうが楽しいよ?」

「そ、それは……」

「おいおい、できねえって言うんじゃねえだろうな? こっちはフリージアを潰されてんだ。その落とし前が付けられないなら……お前にも潰れてもらう」

「指を折るか、足を折るか……プリンちゃん、冒険できなくなっちゃうね?」

「はっ、はひ、ひえ……」


 プリンは壁際に背を押し付けて、身を縮こまらせる。

 そこへ、


「ちょっと、そこでなにしてるの?」


 そんな救いの声が投げかけられた。

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