第23話 星6つになった男①

「気をつけ!」


 むくつけき体の教官が号令をかける。

 早朝の校庭。

 既に整列していた訓練生達は背筋を伸ばした。

 居並ぶ訓練生達を前にして、教官は顔を歪める。


「……本日の授業に入る前に、伝えておくことがある。……シェイク・ウィンター訓練生!」


 呼ばれて、シェイクは教官を見た。

 教官は舌打ちを堪えているような、なんともいえない表情。


「……貴様を星6つ訓練生とする。……今後とも励むように」


  素っ気ない声だったが、それが訓練生達に与えた影響は大きかった。


「……あの星5つ、1日で星6つになったのかよ……!」

「……実習を何回クリアしたんだ……?」

「……さすがシェイク君だ! やはり僕らと一緒のパーティに……!」


 整列していた訓練生達が顔を見合わせ、ざわめき出す。

 それが面白くなかったらしい。

 教官が怒鳴った。


「黙れ! 誰が貴様らろくでなしどもに発言を許可したか!」


 そして教官はシェイクの前まで歩み寄り、その正面に立った。

 暑苦しい顔をシェイクの顔に、ぐいっ、と近づける。


「……たとえ貴様が実習で評価されようと、俺は騙されんぞ。貴様は同期のセンブリ訓練生をここから追い出したんだ。仲間を顧みない奴はいつか仲間を焼くことになる。貴様は冒険者になってはいけない人間だ」

「……教官。それだけなのか?」

「ああ!?」

「星の数を増やしたのは俺だけなのか? 他にも……誰か評価された奴がいるんじゃないのか?」

「……貴様だけだ。嬉しいか? 誇らしいか? 仲間と成果を分かち合うこともなく、1人だけ評価されてさぞ嬉しかろう? ああ?」

「……それはおかしな話だ。俺だけ星が増えるいわれはない。俺は1人でダンジョン実習に挑んだわけじゃないんだから」


 シェイクは教官を睨みつける。

 と、横から、


「そうだ! おかしい! 教官殿、なぜそいつが星を1つ増やせるのですか?」


 星4つ訓練生のスチールが口を出してきた。

 さすが実家が貴族様ゆえか、もう真新しい重装鎧に身を包んでいる。

 

「そいつが昨日クリアした課題はアベレージ3のものだったはずでは? 星3つの者でも星を4つに増やすには、アベレージ3の課題を2回か3回はクリアしなければならないと聞きました。なのに、星5つ訓練生がアベレージ3の課題を1回クリアしたくらいでなぜ星6つに?」

「ほう、さすがスチール訓練生だ。昨日、アベレージ4の課題に挑んでなんのポイントも得られなかっただけのことはある。詳しいな。人のことより自分のことを優先すべきなのに、わざわざシェイク訓練生のことをそこまで気にかけてやるとは、実にお優しいことだ! もしかして好きなのか?」

「ぐ……!」


 スチールが呻くようにして黙る。

 そして、教官はわざわざシェイクの耳元でがなり立てた。


「スチール訓練生のその優しさに免じて、昨日のシェイク訓練生の実習評価を教えてやろう。まず、アベレージ3の課題達成による評価ポイントは500だ。もちろん、これだけではシェイク訓練生が星5から星6へ昇格するのにはポイントが全く足りない。だが、これにシェイク訓練生が討伐した魔物達の分のポイントが加算される」


 教官はシェイクから顔を離す。

 今度は周囲の訓練生達に言い聞かせるように言った。


「魔物の討伐で得られるポイントは、課題達成によって得られるポイントに比べれば微々たるもの。それは確かだ。だが、それも高レベルの魔物の討伐となれば話が違う。シェイク訓練生は評価ポイント50のケーブベアを3匹討伐。それに加えて、15ポイントのスケルトンを20体、350ポイントのヒドラを1匹、そして、リッチを1体倒している」


 ……リッチ!? と主に僧侶系の訓練生達からおぞましげな呻きが漏れる。

 不死の王とも呼ばれるそのアンデッドの悪逆非道さは、僧侶達の心に滅すべき敵として刻まれているからだ。そして、その強さと恐ろしさも。


「リッチのポイントは750だ。これら討伐によるポイントと課題クリアによるポイントを合計すれば2000を超える。こうなれば星6つに昇格するには十分なポイントとなる。……そういうわけで、貴様が星6つになるのはポイント上、仕方がないことだ。……俺は認めんがな」


 そう教官に言われて、シェイクの眼差しが一層鋭くなった。

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