第19話 実習第2階層⑤
ヒドラなら自分達も倒した!
と、プリンが横から話に首を突っ込んだのも、彼女なりの考えあってのことだ。
プリンはプリンで、シェイクとスチールがどうも剣呑な雰囲気なのを察知し、なんとか場を和やかにしようと会話を頑張っているつもりなのだ。
頑張って話を盛り上げよう、話を繋ごう、と一生懸命言葉を捻り出す。
「そ、そのう……危なかったんですよ、ぼく達。シェイクも何度も噛まれかけて……へへ、運よく牙は通らなかっ、かっ、たんですけど! えへん、その、やっぱり、す、スチールさんが言う通り、装備を整えておけばよかったなあ、なんて、ふふ、へ」
「……ああ?」
「え!? あ、い、いや、ふひ、だ、だってもっといい鎧、き、着てたら、噛まれても固いし、だ、大丈夫……だったかな? って、へ、へへ」
スチールが無言で自分のボロボロの重装鎧をプリンに見せつけてくる。
「そ、そうです! それ! スチールさんが着けてるみたいな鎧、そ、その、素敵っですよね。すごくそれって本当に、えひ、ひ、大事だなって。最後に命を守ってくれる、大事な命綱、ですから! い、いやあ、スチールさんの助言は正論だったなぁって」
「……バカにしてるのか……?」
スチールの深く低い声に、プリンは子ネズミの如く飛び上がった。
「ひぇっ!? え、違っ、違うくて!? ぼくは本当に、その、冒険者としての覚悟とか、惜しみなくお金を使って、す、少しでも生き残る確率あげるとか、それが大切なことだと本気で……い、生きてこそ、ですし……」
「そうやって金をかけて準備して万全の態勢で臨んだ俺達がこうなって、みすぼらしい装備でダンジョンを舐め腐った態度のお前らが課題をクリアして……装備や金なんか意味ないって言いたいんだろ? あ?」
「えええ!? そ、そんな、そんなんじゃ……」
「思ったより底意地の悪い陰険な陰キャだな、お前」
「ひ、ひゃふ、ちがう、ぼくは……」
「あのう、お話し中のところすみませんが……」
見かねたようにグッドマンが2人の会話に割って入り、こう言った。
「そんなことより、そちらが倒したというヒドラ、うちに貰えませんかね?」
にこり、とグッドマンの薄っぺらい笑顔。
即座に、
「なんでだよ!」
シェイクが鋭く言い返した。
グッドマンは、いやいやいや、と首を振る。
「だって、そちらはアベレージ3の課題で必要なのはケーブベアだけでしょう? ヒドラは必要ないではないですか。一方、わたし達はヒドラを倒せてないのでヒドラが欲しい。そちらのいらないものをわたし達にくださいといっているだけですよ、ええ」
「いや、そういうまるで理路整然と自分達に都合のいいこと言ってみた、とかじゃなくて。なんで俺達を第1階層で囮にして見捨てていった奴らに、俺達がご親切にヒドラ討伐の功績を譲ってくれると思えるんだ? どこからその図々しさが出てくる?」
「ええ? ダメですか?」
グッドマンが不思議そうに首を捻る。
一方、プリンはあわあわとおたついてスチールを見た。
「あ、あれ? あの、ふへっ、す、すみませ、ヒドラ倒してなかったんです、か? ご、ごめんなさい、しらなくて、てっきり……」
「ぐ、このっ……!」
「おい、プリン、あんまり煽るな」
「ひえ!? ち、ちが、そ、そんなつもりじゃ、え、えへ、違うんです、よ……?」
シェイクに注意されて、ますますプリンは余計なこと言ってしまったと委縮する。
スチールは奥歯噛み砕かんばかりに歯を食いしばった。
「ぐぐぐ……っ! おい! グッドマン! さもしい真似するな! こんな奴らからヒドラ討伐の功績を譲ってもらわなくても、次こそは必ず俺達でやれる! それを、みっともねえ……!」
「さすがスチール様! ご安心ください、ダメもとで言ってみただけですよ、ええ。うまくいったら儲けものですから」
「しれっとした顔で厚かましいやつだな。都市エルフみたいだ」
シェイクはグッドマンにそう一瞥をくれた。
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