第17話 実習第2階層③
魔物達相手に魔法を発動し損ねたプリン。
シェイクの反応を窺うように上目遣いになる。
「……使っちゃったのか」
ヒドラの攻撃を受け流しながら、シェイクがやっと一言呟いた。
「だ、だって……シェイクを助けたかったから……そうじゃないとぼく、なんの役にも立たないばかりで……」
「……いや、これもきっと必要なことだったんだ。俺達が生き残るためには、プリンがここで魔法を使うのが最適な答えだったに違いない」
「え? どういうこと? 魔法失敗しちゃったのに?」
「俺にもわからない」
シェイクは襲い掛かってきたヒドラの首の1つを弾き飛ばした。
「でも、きっとそれでよかったんだ。俺は俺達の勝ちを信じてるし心配してないぜ」
「シェイク……あ、あれ?」
プリンが身を竦めた。
狂乱状態のケーブベア―2匹が争いながら、プリン達の方に向かってくる。
周囲のスケルトン達を巻き込みながら。
目の前のヒドラ、横からケーブベア達。
シェイクの剣を握る手が強張った。
「……脅かしおって!」
ローブのスケルトンが冷や汗を拭う。
傍にある宝箱に手をついて、ふう、と一息。
「というか、この程度の魔法なら、そもそも大して効かんわ」
周囲のスケルトン達も心身ともに緊張していたのが緩和していくようだ。
やれやれ助かった、とばかりに身をほぐしている。
「ファイヤーボールみたいな馬鹿の一つ覚えの魔法でも使ってくるかと思えば、こんなマジックミサイル系の魔法か。心配して損したわ」
ローブのスケルトンはプリンの方を見て、嘲笑った。
「しかも発動すらできぬとは! ろくに魔法も使えない未熟者が! 才能ないよ? 田舎帰ったら? 生きて帰れたらだがな!」
かちゃかちゃかちゃかちゃ。
周りのスケルトン達が声なき笑いを上げた。
肩透かしを食らい、胸を撫で下ろしたのだ。
安心しきっている。
すっかり寛いで、緊張を解き、カチャカチャと談笑する始末。
中には、煙草に火をつけ、胸の奥深くに吸い込んで大きく紫煙を吐き出すという、軽く一服を洒落込むやつまでいた。
スケルトンの中には生前の記憶や習慣がこびりついている個体もある。
そういうスケルトンは、生きていた頃と同じ行動をなぞってしまうことがあるのだ。
そして、戦闘中にくわえタバコしはじめるスケルトンを見たローブのスケルトンは目ん玉飛び出させた。
「おまっ! タバコ!」
ローブスケルトンは自分のすぐ脇の宝箱に目をやり、
「火ぃつけたのか!? あほっ! はよ消」
宝箱の中には焼死体を作り上げるために設置していた罠、可燃性ガスが仕込まれていた。
僅かな火気でも周囲一帯を焼き尽くし、たいまつを掲げたり、箱を開けて発火装置を作動させたりした冒険者を黒焦げにするためのデストラップ。
ローブのスケルトン達はこの高温加熱致死トラップ付きの宝箱を設置するために遣わされた先遣隊だった。
引火。
カッ……!
「こんなアホな死に方……! まさかこれは古の呪法ファイナルデッドコー……!」
業火に包まれ、一瞬で黒い影になりながらローブのスケルトンは消えた。
閃光と爆炎と轟音。
アンデッド達はなぎ倒され四散した。
「ひゃぁい!?」
部屋全体を包みこまんばかりの業火に、プリンは目をつぶる。
その肩に手をかけて、ぐっと引き寄せたのはシェイクだ。
自分の身体を盾に、プリンを抱きしめ、背を丸めた。
爆発的な衝撃に、プリンとシェイクはごろんごろん転がる。
まざって一つになってしまいそうなほどだ。
そうして、ようやく収まった。
シェイクが頭を起こしたとき、すでに周囲に動く者はいなかった。
ヒドラもケーブベアも焼け焦げた骸を晒している。
むしろ、これら魔物達が丁度プリン達の前や横に立ちはだかっていてくれたお陰で助かったのだ。
魔物達が爆炎を防ぐ盾となってくれたのだから。
「……ほら、助かったろ?」
シェイクはまだ目を回しているプリンを助け起こしながら、そう言った。
プリンは眩暈を振り払うかのように呟いた。
「……めちゃくちゃだよ。ぼく、死にそう……」
「でも、死ななかった」
「結局、ぼくは魔法を発動させられなかったし」
「魔法を成功させて死ぬのと、魔法を失敗して生き残るのでは、どちらが冒険者として優れていると思う?」
シェイクがケーブベア2匹の牙を剥ぎ取り始める。
「生き残るっていうのは才能なんだ。プリンはだから大丈夫さ。課題も無事クリアしたしな」
「……こんな事故みたいにして死んだケーブベア……これで課題クリアと認めてくれるのかな……?」
プリンは一抹の不安を抱えながら呟いた。
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