第16話 実習第2階層②
スケルトンの一団とケーブベア2匹に、極めつけにはヒドラ。
プリンとシェイクのたった2人でこの魔物達と戦わなくてはならない。
そんな状況なのに、シェイクは相変わらず落ち着いている。
「とにかくプリンは後ろに下がっててくれ」
「わ、わわ……あ、ま、魔法! ぼくも魔法で援護するよ!」
「いや、いい。切り札はいざという時のために取っておこう」
「これ、いざという時じゃないの!?」
杖を掲げて、プリンは言った。
それをローブ着用スケルトンが目ざとく見つける。
「魔法使いだ! そいつに魔法を使わせるな! 下手な魔法を使われたらヤバいぞ!」
スケルトン達はその命令にかちゃかちゃと頷く。
スケルトンの弓手が弓を引き絞った。
その狙いはもちろんプリン。
しゅっ、と放たれた矢は、しかし、シェイクの剣で弾き返される。
眼前に迫ったスケルトンをシェイクが薙ぎ払った際、プリンめがけて飛ぶ矢にその剣先がたまたま当たったようにも見えた。
そして、弾かれた矢はくるくるくるー、ぷす。
「なんだ!? 今の剣技は!? 矢返しだと!?」
「たまたまさ」
ローブのスケルトンが目を丸くするのに対し、シェイクは律儀に答えてあげた。
「たまたまスケルトン相手に剣を振るったら飛んできた矢に当たって、それが弾かれて、たまたまそこにいたケーブベアに刺さっただけだ」
……ごあああああっ!
尻に矢が刺さったケーブベアが尻から出る血に狂乱した。
見境のない怒り。
ぱきゃっ、と手近にいたスケルトンの頭を叩き割る。
ごあごあ? ごあごあごああ。
もう1匹のケーブベアが、おいおい落ち着けよ、と言わんばかりに同族の肩に手を置いた。
宥められた方のケーブベアさん、聞く耳持たず。それどころかしゃしゃり出てきた同族に右フック一閃。
炸裂。
ぶしっ、と鼻面から血を垂らしながらもう1匹の方のケーブベア、
ごあっ、ごーあごっあっあ。
ふっ、いいのもってんじゃん? と言わんばかりににやりと笑い、
……ごああああああああっ!
狂乱した。
やんのかこらあ⁉ とばかりに。
ケーブベア同士のガチのステゴロが始まる。
「あ、あ、ばか! 味方同士で! あー! スケルトン達を巻き込むな!」
取っ組み合い、爪を振るい合い、噛みつきあう。
そんなケーブベア達の戦いに、周囲のスケルトン達はバラバラになっていった。
ローブのスケルトンの顔色は青くなるやら赤くなるやら。
「やめろやめろやめろー!」
「は、あれ……へ、えへ、なんか勝手に戦ってくれてる?」
「な? 魔法使わなくても大丈夫だったろ?」
「くっそ……誰だ、こんな狂乱持ち味方にして解き放ったバカは! だが調子に乗るなよ! こっちにはまだヒドラがいるのだからなあ!」
ローブのスケルトンの勝ち誇った声と共に、ずるぅ、と巨体が前に出てくる。
4つ首のヒドラは大蛇の身をくねらせて、プリン達の前に立ちはだかった。
「ね、ねえ、これって強いんでしょ? やっぱり、ぼくの魔法が……」
「大丈夫だから。とにかく、俺の後ろにいてくれ。……お前は運がよくないんだから……」
「う……だ、大丈夫だよ。今回は
シェイクはプリンに応えない。
ヒドラの4つ首による噛みつき攻撃を捌くのに忙しくなったからだ。
1回でも噛まれれば致命の毒を流し込まれかねない。
そんな攻撃が4つの首で途切れなく続くのだ。
とても躱しきれないような噛みつきが、シェイクを何度となく襲った。
そのたびにヒドラの毒牙はたまたまベルトのバックルに当たったり、袖口に潜ませておいた投げナイフの刃に当たったりで、シェイクの肌には至っていない。
だが、それもいつまで続くか。
なにしろ、シェイクはヒドラの攻撃を捌くばかりで、自分から攻撃を一回もしていない。防御に専念せざるを得ないのか、なにか狙いがあるのか。
いずれにせよヒドラは無傷で、このままではシェイクの体力を削り切ってしまうだろう。
『……このままじゃシェイクがやられちゃう……!』
『……どうにかしてシェイクを助けないと……』
『……ヒドラにぼくの魔法、光輝の矢を撃ち込めれば……』
「ははははは! すばらしい! 圧倒的じゃないか! でもちょっと待って? そいつ焼死体にしたいから毒で殺さないで? 聞いてる?」
『……あのローブのスケルトン……』
『……あいつがヒドラに命令を下してる……』
『……なら、あいつを倒せれば、もしかしてヒドラも追い払える……?』
そう考え至ったプリンはローブのスケルトンに向けて杖を掲げた。
はっ、と息を呑むローブのスケルトン。
「あ、やべえ! 魔法使いの魔法……!」
「光輝の矢よ……!」
プリンの傍に光り輝く矢が何本も現れる。
それらは清浄の光でできた魔法の矢だ。
「我が敵を貫け……!」
音もなく、光輝の矢はローブのスケルトンとその周囲のスケルトン達の体に吸い込まれ、
「ぎゃああああああ」
……たかに見えた。
「あああああ……あ?」
ローブのスケルトンは自らの身体を確かめる。
どこにも傷はない。
「……え、えへ、へへ……
魔法の発動を途中で失敗したプリンは困ったように笑った。
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