第15話 実習第2階層①

 プリン達はケーブベアを倒した。


「でも、これ、たまたま他の魔物がクマを倒しただけで、ぼく達がやったわけじゃない……よね?」

「この首から牙でも剥ぎ取って持って行こう。ケーブベアを倒した証として。きっと教官も認めてくれるさ」


 シェイクは足元に転がるケーブベアの首に屈みこみながらそう言った。

 そして、言葉通り牙を剝ぎ取る。


「これで一匹、と……」

「課題クリアにはケーブベア3匹討伐……だったっけ?」

「そうだな。あと2匹」


 シェイクは部屋の奥に目を凝らした。

 そこには第2階層へと続く階段がある。


「強い魔物は下の階層に行くほど出やすくなる。降りてみようぜ」

「いいけど……大丈夫かなぁ」

「いけるよ。プリンは自信もっていい」

「そ、そう? ……えへへ、じゃあ、降りちゃおうか!」

「それに先に下に降りたスチール達に追いついて、文句の1つも言ってやりたいしな」


 こうしてプリン達は第2階層へと続く階段を下った。

 辿り着いた第2階層は、石造りの地下室といった趣きだ。

 魔法的な明かりに階層全体が照らされていた。


「第1階層とはまたちょっと雰囲気が違うね」

「とはいえ、1層下ったくらいではそこまで出てくる魔物に違いはない……?」


 急にシェイクが口を噤む。

 きょとんとしたプリンだったが、そのプリンの耳にもカチャカチャと軽い音が聞こえてきた。

 とある一室の中からだ。


「……よし、そこに仕掛けろ。間抜けが引っかかれば大爆発だ」


 しわがれた声。

 シェイクが中を覗き込む。

 プリンもその後ろからこっそり頭を突き出した。

 そこにはいたのはスケルトンの一団だ。

 大きな部屋の片隅にローブを着たスケルトンがいて、それが周りの全裸のスケルトンたちに命令を下している。


「ブレイジング・スケルトン作りには焼死体が必要だというのに、まったくお前らはどうして焼け死ななかったのだ? 使えぬ奴等よ」


 ローブ姿のスケルトンは周囲のスケルトン達に文句を垂れている。

 その脇には大きな宝箱があった。

 いかにも曰くありげな宝箱だ。


「……ひぇ、スケルトンがいっぱい……あれ? でも、アンデッド系は今、浅い階層には出ないって管理員さん話してなかったっけ?」

「……下の階層からここまで遠征しに来たのか? なんにしろ俺達の課題には関係なさそうだし、見つかる前にここから離れるか……」

「……あ、見て……! あそこにいるの……!」


 プリンに促されて、シェイクが部屋の奥を見る。

 そこには薄暗がりに設置された大きな檻。

 そして、その中でうろついているのは。


「……ケーブベアか……」

「……しかも丁度2匹いるね……」

「……スケルトン達に捕獲されたのか? ……なにかの素材用に……? それにしても都合よく見つかったな。これもプリンのお陰だ」

「へ、へへ、目がいいでしょ? ……って、戦う気?」

「プリンがいれば負けないさ」

「根拠ないよ!?」


 プリンの懸念をよそに、シェイクは剣を抜く。

 と、部屋の中のローブ姿のスケルトンがくるりと首を巡らした。

 骨の眼窩に赤黒い光が灯っている。


「ほう、これはこれは……。ブレイジング・スケルトンの素材になりに来てくれたようだな。早速我がフレイムオーブで焼死体に加工……あ、やべ」


 ローブ姿のスケルトン、傍らの宝箱に目をやり、器用に舌打ち。


「くそ、丁度こんなタイミングでやってくるとは! 面倒だが、捕らえてから焼き殺せ! 行け、お前ら!」


 かちゃかちゃとスケルトン達が動き出す。

 手に手に剣や槍を構えて、プリン達の居る戸口に向かってきた。


「わ、わ、き、来ちゃったよ、シェイク!?」

「スケルトンくらい、何体来ようが大した敵じゃないぜ」

「あ、そうなの? ほーん、じゃあ追加で。そいつら、檻から出せ」


 ローブ姿のスケルトンがそう指示すると、部屋奥の檻がガラガラガラ。

 中からケーブベア2匹が咆哮を上げて飛び出てきた。


「シェイクが余計なこと言うから敵が増えた!?」

「大丈夫だって」


 さらに檻の奥で、それまで横たわって隠れていたヒドラがぬっと起き出した。

 4本首をそれぞれもたげ、しゅーしゅーと空気を鳴らす。


「あ、あれ、アベレージ4の課題だよね?」

「……」


 シェイクは無言で応えた。


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