第14話 実習⑤

 激怒するケーブベアと共に第1階層に取り残されたプリン達。

 プリンは目をぱちくりする。


「え? え? これどういうこと?」

「いいように利用されたわけだ。あいつら、第1階層にヒドラはいないとみて、下へ降りたかったんだろう。だが、下へ向かう階段の前にはケーブベアがうろうろしてる。ケーブベアの目を盗んであいつらが下へ行くための囮として、俺達は使われた」

「え? じゃあ、クマの後ろから挟み撃ち作戦は?」

「そんなもん、あいつら最初からやる気なかったに決まってる」

「そんなぁ……」

「そんなにがっかりしなくてもケーブベアは倒せるさ。もともと、俺達だけでやるつもりだったろ?]

「でも、せっかく仲間と連携して、作戦で魔物を倒すみたいなのできるかと思ったのに……」

「プリン。仲間との絆、みたいなそういうの好きなのか?」

「1人じゃ倒せない。けど、みんなの役割を決めて、みんながその務めを果たし、みんなで目標を達成する……ってそういうのすごくプロっぽくない? そういうかっこいい冒険者ができるかと期待してたんだよ、ぼくは」

「……そんなことに拘ってたなんて暢気だな。魔物なんて倒せればなんでもいいじゃないか。まあ、スチール達に舐めた真似をされたのは俺も正直ムカつくけど」


 ケーブベアの猛攻を躱し続けながら、シェイクは言った。

 躱し続けながら、というかケーブベアが勝手に攻撃を外し続けているようにも見える。

 威力を高めるためかケーブベアの爪攻撃はやけに大振りだし、激高していて狙いも正確でない。

 おまけに僅かに受けた傷から流れ出た血が目に入り、周りもよく見えていないようだ。

 だから、シェイクはなんだか悠然と突っ立っていながら無傷でいる。


「……まあ、あいつらは自らプリンの元を離れたんだ。きっとロクな目に遭ってないだろうけど……」


 そんな独り言を呟いていられるくらい無傷だ。


「でも、いくらシェイクでも1人でこんな大きなクマを倒せるの?」

「倒せる。プリンが俺の力になってくれるから」


 じゃあ、そろそろ倒すとするかー。

 と、ばかりにシェイクは反撃。

 剣を振る。

 だが、どうしたことか。

 その剣先は床面をうがった。


「あれ? 外した?」

「……いいんだよ、これで」


 と、シェイクの剣に穿たれた部分から床面がひび割れ始める。

 それまでケーブベアが力任せに振り回していた爪も、繰り返し床面を削っていた。

 岩をも粉砕する、ケーブベアの重さの乗ったクロー攻撃だ、

 それが何度も叩き込まれ、そして今、シェイクの剣先が引き金となり。


 ぴしっ……ぴしぴしっ……。

 どぉんっ。


 床面が崩落した。

 それも丁度ケーブベアが立っていたところだけぽっかりと。


 ぶごおおおお!


 ケーブベアが怒りと狼狽の吠え声を上げる。


「あ、落ちた」

「丁度、あいつのいた床の下に空洞があったみたいだな」

「なに? この穴、なんの穴だろ?」

「……おそらく、魔物の通り道だな。地中を掘り進む魔物はダンジョン内にも穴をあけることがあるらしい」


 プリン達はケーブベアが落下した穴を縁から覗き込む。

 そこは延々と続く横穴だ。

 深さは3~4メールトほどか。

 落下したケーブベアが唸りながらプリン達を見上げていた。

 なんとか横穴の側面をよじ登って、プリン達を殺そうという試みを止めようともしていない。

 と、


 ぷあああああん。


 そんななにかの鳴き声と共に、ケーブベアの全身が強い光で照らされる。

 横穴の先の方からだ。

 不意を突かれたのかケーブベアは硬直した。

 だんだんと近づいてくる轟音。

 ケーブベアは横穴の先、暗闇から次第に大きく強くなる光の塊を凝視し、次の瞬間。


 バンッ!


 と、音がしてケーブベアの体が四散した。

 くるくるくるびしゃあっ、とケーブベアの頭部がプリンの足元に飛び込んできてへばりつく。


「うひぇ!?」


 ごうっ、となにか長いものがすごい速さでプリン達の下を通過していった。

 空気の流れが凄まじい。

 プリンは強風に顔を覆う。

 そして、目をあけたとき、すでに地下の穴に細長いなにかの姿はない。

 ぷあああああん、という鳴き声と、がたんごとん、という足音だけが遠ざかっていった。


「な、なに今の?」

「おそらくアンダーワームの一種だな。ものすごい速度で地中を掘り進む超巨大な虫だ。目から強力な光を放って地中を照らすそうだ。その光は浴びたものを麻痺させるとも恐慌状態をもたらすとも言われている」

「じゃあ、ケーブベアはその巨大ワームの地中トンネルに落ちて、そのワームに轢かれた?」

「たまたま床が落ちて、たまたまそこがワームの通り道で、たまたまワームが丁度やってきて、たまたま轢かれただけだな」

「へえー。戦わずに済んだみたいだし、ぼくら運がよかったね」

「……ただの偶然だろ」


 シェイクはそう言って肩を竦める。

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