第13話 実習④

 スチール達に連れられて、ダンジョンの奥へと向かうプリンとシェイク。


「この先の大きな部屋にケーブベアがいますよ。なあに、わたし達全員でかかればきっと倒せます。ねえ、スチール様?」

「ああ、そうだとも」


 仲間であるグッドマンの問いかけにスチールは請け合った。

 スチールのもう一人の仲間、魔術師は先ほどから何も喋らない。名乗りもしない。


「あ、えへ、手伝ってくれて、ほんとにありがとう」


 プリンが笑いかける。

 そうして彼等が辿り着いたのは洞窟めいた、ごつごつと岩がむき出しの大部屋。

 その奥から、唸り声が響いてくる。

 と、それが大地を震わすような吠え声に代わった。


「……! 狂乱してるのか?」


 シェイクがその声に含まれる怒りを感じ取って呟いた。

 狂乱したケーブベアーは見境がなく、より危険だ。


「ええ、まあ、そのようですね。スチール様」

「追い払おうとちょっと手を出したら怒り出してな。まったく大人げない」

「お前らがやったのか。やつに血を流させたな?」

「なにか問題か? どうせ、誰かが討伐を試みるならいずれ狂乱状態になるだろ。ケーブベアを狂乱状態に陥らせる前に一撃で殺せるわけないんだから」

「……そうとは限らないんだがな」


 シェイクはぼそりと呟いた。


「あ、あの、それでどうやって……?」

「作戦ですか? わたし達が奴の後ろに回り込んで、挟み撃ちの形にします。この大きさの部屋ならそれができるだけのスペースがありますからね」

「回り込む? 怒り狂ったケーブベアがそれを暢気に見逃してくれるのか?」

「そこでシェイクさんとプリンさんには奴の目を惹きつけておいてもらいます。ねえ、スチール様?」

「そうだな。俺達が奴の後ろに回り込むまで耐えてくれ。その後、後背からの攻撃でケーブベアは為す術もなく倒れるだろう」

「それは囮ってことじゃ……」

「わあ、へへ、わかりました! 連携攻撃、ですね! 楽しそう」


 プリンが声を弾ませる。

 それに対して、シェイクは肩を竦めた。


「まあいいさ。プリンは下がってろ。俺が壁になるから」

「うん? 頼んでおいてなんだが、壁役がそんな軽装備で務まるのか?」

「……だったら囮役、お前らがやってくれよ。その堅い鎧はなんのためだ?」

「なに? 文句があるのか?」

「いやいやいやいや! ここは是非星5つ訓練生シェイクさんにお任せしましょう、ねえ、スチール様? 仲良く、助け合いで、ねえ?」


 グッドマンの慌て声。

 シェイクは落ち着いた声で返す。


「要は、相手の攻撃を惹きつけておけばいいんだろう。攻撃を食らわなければ大したことない」

「一撃も食らわない、と? あのケーブベア相手にね。なるほど、それができる自信があるというわけだ。なら任せた」


 スチールはおとなしく引き下がり、グッドマンは胸を撫で下ろす。

 こうして一行は二手に分かれた。

 スチール達は回り込みに向かい、シェイクとプリンは合図とともにケーブベアの前に姿を現す。


「く、くまー! こっち、こっち、くまー!」


 プリンの上擦った挑発に、ケーブベアは激怒した。

 咆哮あげて突進してくる。


「ひぇ、そ、そんな、怒んなくても……!」

「うまくいったじゃないか」


 そう言ったシェイクが前に立ち、ケーブベアと対峙する。

 ケーブベアは狂乱状態でなりふり構わず仁王立ち。

 ぶおおおお、という咆哮は獣くさい。

 それから両腕を振り回して力任せの爪攻撃を繰り出してきた。

 かすっただけでも皮膚がベロンとはがれる勢い。

 それをシェイクは紙一重で躱す。

 躱す。

 躱していく。

 ぶんぶんと両腕を振り回すケーブベアの方が必死過ぎてまるで余裕がなく見える。


「わ、わ、わ」


 その勢いに気圧されたか、シェイクの後ろで魔法を使うことも忘れて縮こまっていたプリン。

 その視界に、ケーブベアの後ろに回り込んだスチール達の姿を捉えた。

 やった! これで反撃!

 そう思うのもつかの間。

 スチール達は部屋の奥へとたどり着く。

 そこには下の階層へと続く階段が見えた。

 スチール達はその階段を下っていくようだ。

 え? あれ?

 下り際、グッドマンが薄っぺらい笑みを浮かべて手を振ってくれた。

 

「では、あとはよろしくお願いしますよ。わたし達、ここでケーブベアと戦って消耗している暇はないんで。なにしろわたし達はアベレージ4の課題でヒドラの討伐をしないといけないんですから、ねえ? どうか、そいつは倒しておいてください。我々が帰ってきたとき、そいつと戦う必要がないように」


 スチール達は第2階層へと姿を消した。

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