第11話 実習②
両開きの扉から階段を下りていくプリンとシェイク。
階段はダンジョンの第1階層へと続いている。
壁には等間隔で明かりが灯されていた。
「じめっとしてるな。プリン、寒くないか?」
「それ、昨日入ったとき、ぼくも思った。……やっぱり、準備不足だったかな」
言いながら、プリンはダンジョン管理員のあきれ顔を思い出す。
『食料や飲み水も用意してきてないの?』
『え、へへ、はい……』
『防寒具やたいまつは? 寝袋も?』
『そ、そのぉ、は、はは、夕飯までには帰るつもりなので、へ、へひ』
『……放課後日帰りダンジョン探索ができるのはこの訓練所の売りではあるけれど、いざという時のために準備は怠らない方がいいわ。ケガをしたり道に迷ったり……なんらかのトラブルでダンジョンからすぐには出られなくなったとき、命に関わるもの』
『あっ、はは、そ、その通りで……シェイク、今日はやめとこっか……?』
『……大丈夫。俺達は絶対、無事に帰ってこられるから』
シェイクの落ち着いた口ぶりに、ダンジョン管理員はそれ以上なにも言わなかった。
そして、ダンジョンへと続く扉を開けてくれたのだ。
「……はやいところケーブベアーを討伐してここから出たいねぇ……というか、ぼくたちだけでケーブベアーなんて倒せるのかな?」
「俺達ならやれるよ」
ダンジョン第1階層の通路を見渡す2人。
ケーブベアーはおろか、昨日大量に湧いていた虫系の魔物1匹見当たらない。
「……ふふ、シェイクのその自信、いつも頼もしいよ。なんか、できるかな? って思えちゃう」
「できるさ。だって今までやってこれただろ?」
こともなげに答えるシェイク。
……これもシェイクの特別な力なのかな? とプリンは思う。
周りを安心させてくれる、なにか不思議な魔法でも使っているのかも……。
と、シェイクが振り返り、プリンの肩を手で押さえてきた。
「……ん?」
突然のボディタッチ。
身体も密着させてくる。
プリンに覆いかぶさるかのようだ。
ちょっと冷えるから体で温めに来た? などとプリンはシェイクの体温を感じながら思う。
「へ、ふへ、ど、っどどどうした、の?」
「……静かに……気配がする」
シェイクはプリンの顔を見ていない。
通路の先に目を凝らしている。
気配など微塵も感じ取れないプリンは、ひぇ、と足が震え出しそうになる。
な、なにが出るの!? という未知への怯え。
が、すぐに、シェイクの温かさに安心し、落ち着いた。
「……くそ……っ……」
「……階段の前に……」
「……こんなところで消耗するわけには……」
「んん? 人の声……?」
「どうやら、俺達がダンジョンに入る前に先に潜っていた先客がいたみたいだな」
「え、ど、どうするの?」
「同じ訓練生だ。挨拶くらいしておくさ」
シェイクはプリンを後ろに隠すようにして、それから3人の人影の方に向かう。
それで3人の方も気付いたようだ。
「……新手の魔物か!?」
「いや、あれは確か……」
お互いの顔が見える距離まで近づいた。
シェイクは手をあげる。
「よお」
「星5つ訓練生のシェイク・ウィンター……だったな?」
3人の中で最も重装の騎士が問いかけてくる。
他の2人は僧侶と魔術使だ。
それぞれ随分と身なりがいい。
「俺はスチール・ナイト、星4つ訓練生だ」
重装の騎士が名乗った。
明らかに金のかかった重装鎧。
家紋の入った盾を持ち、いかにも堅そうだ。
貴族の子弟といったところか。
だが、それにも物怖じせず、シェイクは尋ねる。
「なにかあったのか? 面倒ごとについて話し合っていたみたいだが」
「……まあな。俺達は全員星4つでね。アベレージ4の課題を受けてるもんだから色々大変なのさ」
スチールはどことなく鼻にかかったような声をだした。
と、その顔がしかめられる。
「というかお前ら、なんだその格好は? 着の身着のままか? 荷物は? まさか手ぶら? 食料やランタンは? ロープや罠探しの棒は? 信じられない、ダンジョンに潜るのにろくな準備もしてきてないじゃないか!」
「あ……えへ、その、実はそういうの用意するお金が無くて……」
「ダンジョンを舐めてるな? 命には代えられないんだぞ! そんないい加減な気持ちでダンジョンに入るな!」
怒鳴り付けられて、プリンは身を縮こまらせた。
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