第10話 実習①
訓練所の端に石造りの建物がある。
城のような外観。
だが、実際にそこにあるのはダンジョンだ。
地下にダンジョンが広がり、地上部分はそのダンジョンを管理するためのもの。
プリンとシェイクはその建物内に入った。
視界は薄暗い。
ひんやりとした空気。
大広間のようにがらんとした空間の奥に木製のカウンターがある。
そのカウンターの中で、酒場の女主人みたいな雰囲気で若い女性がだらけていた。
頬杖ついて、つまらなそうな顔。
だが、プリン達の姿に気付くと背筋を伸ばした。
手招きしてくる。
「実習受ける? なら、こっちへどうぞ」
プリン達にとって彼女は初めて見る相手というわけではない。
ダンジョンを使った最初の試練の際、ダンジョンへと続く厳重に閉ざされた両開きの扉を開けてくれたダンジョン管理者だ。
シェイクがカウンターの前に立ち、その後ろに隠れるようにプリンがついてくる。
「早速、ダンジョンに潜るのね? 誰が潜るの? あなた達2人だけ?」
「ああ。プリン・サマーコールドとシェイク・ウィンター。2人でパーティを組みたい」
ダンジョン管理者は手元の水晶球と台帳を見比べている。
「……星5つと星1つ……そりゃアベレージ3にはなるけど、本当に潜るの? 実質、星5のあなた1人でダンジョンに挑むようなものじゃない?」
「ふ、へへ、そう、ですよね……」
「余計な心配をしないでほしい。俺達は2人で行く。もう決まってることだ。それが認められない規則でもあるかい?」
プリンが困ったように笑うのと、シェイクが身構えながら問いかけるのはほぼ同時。
ダンジョン管理員は小さく溜息を吐いた。
「……それは確かに自由だけど……いいわ。あなた達も各地方のギルドから期待の新人としてここに送り込まれたんでしょうから。自分達でしりぬぐいはできるわよね」
「そのつもりだ」
「頼もしいこと。なら、理解しておいて。ダンジョン内でなにかあっても助けが来るのを期待しないように。自力でどうにかするようにして」
ダンジョン管理員は事務的な口調に努めているようだ。
「ダンジョン内の第5階層までは監視の水晶球が設置されているわ。けれど、それ以降は私達管理員や教官達指導員の目も届かない。第5階層より下に潜って課題をクリアしようと試み未帰還となった場合……誰かが助けに行くこともないわ。単に行方不明者として処理される」
「ひぇ……じゃ、じゃあ、第5階層より下に潜らなければ、い、いいの?」
「さあ、どうかしら」
ダンジョン管理員はその問いに明確には答えない。
むしろ、別の話をはじめて誤魔化すかのようだ。
「それから注意事項。ここのダンジョンは30階層まであり、15階層、25階層、30階層にそれぞれ魔物が彷徨い出てくるゲートがあるわ。それぞれ世界に危機をもたらすようなゲートではないから、訓練用のため残されているのゲートなの。それらは破壊禁止よ」
「……ゲートを破壊しなければ敵の数が多すぎて死ぬような場合でも、破壊しちゃダメなのか?」
「……規則ではね」
シェイクの問いに、ダンジョン管理員は抑揚なく呟く。
それから首を振って、言葉を続けた。
「それで今のダンジョンの状況だけど、15階層のゲートが活発に作動してるみたい。自然系の魔物の姿が多くみられるからね。今のところ、25階層と30階層のゲートから出てくるアンデッド系や異形系の魔物は5層付近まで上がってきていないわ」
「……剣が通用しない、魔法しか効かないような魔物は少ないってところか」
「そうね、おそらくは。それで、あなた達2人で受けられる課題はアベレージ3用の課題のみ。課題内容はケイブベアを3体の討伐よ」
「ケ、ケイブベア? それも3体? えへへ、へ、け、結構凶暴なやつですよね……? 血を見て狂乱したケイブベアに一瞬で皆殺しにされたパーティの話とか……そ、それがアベレージ3の課題なんですか? 一番簡単な課題……?」
プリンがつばを飲み込む。
「アベレージ3.5の課題ならブレードスパイダーの討伐、アベレージ4ならヒュドラの討伐ってところね。止める?」
「いいや」
「そう……。課題を達成したら、その内容を評価した上で点数が与えられるわ。一定の点数に到達したら星の数が増えるから頑張って。それと途中で倒した課題と関係のない魔物についても、その強さによって点数がもらえるわよ。ただ、課題をクリアして得られる点数の方がずっと多いから、ザコの魔物を狩って点数稼ぎとか時間がかかるばかりで効率が悪いからお勧めしないわ」
それだけ言うと、ダンジョン管理員はカウンターから出てきた。
その手にはカギが握られている。
「それじゃあ、いよいよ実習を始めてもらおうかしら」
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