第9話 実習前の出来事②

 太めの魔術使カードの訴えに、シェイクは腕を組む。


「俺を仲間に入れたいのなら、1つ条件がある」

「なんだい? 課題をクリアしたときの点数の配分とかかい? そりゃ、君を優先したいけど訓練所の決まりで点数は平等に人数割りって決まってて……」

「いや、そこはどうでもいいんだ。そうじゃなくて、こっちのプリンも仲間に加えてくれるか?」

「え? あ、へ、へへ……ど、どうも……」


 名前を出され、プリンは頭を下げる。

 シェイクはセンブリに誘われた時と同じ条件を出した。

 それに対し、カードは瞬き。

 それから、首を振る。


「その子、星1つだろ? 僕らと君ら、全員合わせて5人でパーティを組んだとして……アベレージ3になっちゃう。人数的には丁度いい5人かもしれないけど、アベレージ3じゃ課題を受けられる最低限のランクだ。それじゃ意味ないよ……」

「でも、プリンが入れば絶対に……その、うまくいく。誰も怪我しないし、課題はクリアできるんだ。きっと体調だってよくなる」

「なんで? その星1の子、治療師かなにかだったっけ? それとも、料理が得意だったりする? 美味しいものを食べられればそりゃ気分も良くなるけどさ」

「う、あは、は、ぼく魔術使……料理はその、あー、えへへへ……」

「プリンは料理に心得があるわけじゃないが、作れないわけじゃない。だろ?」

「……うん……自信……あるよ……」


 プリンは頬を人差し指で掻きながら、横を向き、視線を逸らした。

 その様子を見て、カードは難しい顔になる。

 シェイクは咳払いした。

 カードの関心を自分に向けさせようという試みだ。


「とにかく、だ。プリンは役に立つ。一緒に連れて行ってくれ」

「……だめだよ、この子はだめだ」


 カードは再び首を振る。


「君は確か、最初の試練で魔法発動に失敗してたよね? だから星1つ評価なんだろ?」

「へ、あー、そうかも……」

「魔法の使えない魔術使なんて、まるで役に立たないじゃないか。君、ダンジョン課題に挑戦できるレベルじゃないよ……」

「……えへへ、そ、そうだよね、すみません……」

「……なるほど、わかった。プリンとは組みたくないんだな?」

「悪いけど、シェイク君、君の出した条件はちょっと受け入れられないかなあ」

「そういうことなら俺もお前達とは組まない。俺達の前から消えてくれ」

「いや、そう言わずに……」

「なんと言われても、お前とは絶対に組まない」


 シェイクはきっぱりと言い切った。

 それからプリンの手を引く。


「ダンジョンへ行くぞ。実習だ」

「ふぇ? え? いいの?」

「あ、ちょっと待って……! 話し合おうよ……!」


 シェイク達はカードをその場に置き去りにし、校庭を横切っていく。


「ね、ねえ、シェイク。どうする気?」

「どうもこうもない。俺達2人で実習を受ける。俺とプリンで星のアベレージ3にはなるんだ。最低レベルの課題なら受けられる」


 プリンは振り返る。

 カードが肩を落としているのが見てとれた。


「……よかったの?」

「なにがだ?」

「あの人達とパーティ組むの断っちゃってさ。ぼくなんかより強い仲間と組めば、すぐに難しい課題にも挑戦できるでしょ? そしたらきっと訓練生代表になれるよ」

「前にも言っただろ。俺にはプリンが必要なんだ。プリンがいなかったら、俺はこんなに強くはなれない。プリンのお陰で俺は強くなれる。小さい頃からそうだった」

「ええ? そうかなぁ? ううん……そんなことってある?」

「あるんだよ。プリンこそが俺の力の源なんだ。それから離れるわけにはいかないだろ。だから、あいつらとは一緒には行けない」

「……ぼくにとっては、シェイクこそがぼくの守護神で離れられないんだけどなあ」

「俺が?」

「えへへ、そうだよ。シェイクにはすごい力があるもん。ぼくを絶対に護ってくれる、きっとそんな力を持ってるんだよね? 小さい頃からずっとそう感じてた」

「そうか。じゃあ、これからもずっと一緒にやってこうぜ、相棒」

「ええ? うーん、ずっと一緒って言われると微妙かなあ。相棒っていうのもなんかやだ」

「なんでだよ」


 シェイクは渋い顔をした。

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