第8話 実習前の出来事①
午前中は座学が中心になる。
昼休憩を挟んで、午後には訓練所付属のダンジョンに潜っての実習。
プリンとシェイクは午前の座学をそれぞれ受講したあと、訓練所の大食堂で落ち合った。
「プリン、大丈夫だったか?」
「ええ? ただ机の前に座って魔物の種類とか攻撃手段の話を聞いてただけだよ。なにもあるわけないよ」
「俺もプリンと同じ講義を受けたかったんだけど……」
「星の数が違うんだし……シェイクがぼくと同じ講義を受けても、たぶんそれってシェイクはもうとっくに知っていることだと思うよ」
「講義の内容はどうでもいいんだ。俺はただ、お前を1人にしておくと危なっかしくて嫌なんだ」
「それって、ぼくが講義中に迷子になったり、変なもの拾って口に入れたり、蟻の行列を見守り続けて熱中症になったりするんじゃないかってこと?」
「そうだね、プリンが知らない人についてどこかに行っちゃうんじゃないかと心配だ」
「いやいや……ぼくももう、ちっちゃい子じゃないんだから……」
プリンが小さくむくれる。
そんなプリンに、シェイクは椅子を引いて座らせてやる。
そうして、2人分のオートミールの皿をテーブルに並べてやった。
2人して摂り始める昼食。
その途中、シェイクが黒パンを飲み込みながら尋ねた。
「……それで、誰か知り合いはできた?」
「う……ん、それはその……」
「同じ講義を受けた訓練生と仲良くなったりしなかった?」
「……へへ……誰とも、一言もしゃべらなかった……」
「ふうん……」
「そ、それにしても食堂でただでご飯が食べられるのはいいね、へへ……」
へらっと笑いかけてくるプリンに、シェイクが鼻の頭を掻く。
「じゃあ、午後の実習は俺と2人で……」
「……おい、あいつ……」
シェイクが言いかけたところで、くぐもった声がしてきた。
「……点呼の時、かっこいいから冒険者になりたいって……」
「……舐めてる……そんな甘いもんじゃ……」
「……魔法も使えない……軽い気持ちでやられちゃ迷惑だって……」
「……無能……無謀……やめてくれねえかな……」
声だけでなく、視線も刺さってくる。
プリンは俯いて、困ったように笑った。
「……へ、えへへ……」
「……なるほど、これじゃプリンも誰とも喋れないな」
言いながら、シェイクはこれ見よがしにプリンに非友好的な目を向けてくる連中にじっと目を凝らしてやった。
何人かは素知らぬ顔で目をそらし、数人はあたふたと席を立って行ってしまった。
「……プリン、食べ終わったらダンジョンに行こう」
「え、うん?」
「ここに残っていてもいいことはなさそうだ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 話しを聞いてくれないか、シェイク君?」
と、シェイクに思い切って声をかけてきた者がいる。
太めの魔術使だ。
「ねえ、シェイク君。僕だよ、僕」
「……いや、すまない。誰だっけ?」
「最初の試練の時あっただろ? カードだ。カード・ソング。星3つ訓練生! ワーム2匹倒したんだけど、覚えてない?」
「ごめんだが……」
「ま、まあいいや。君、もうダンジョン課題に挑む仲間は決めた? もしよかったら、僕らと一緒に行かない?」
「一緒に?」
「ああ! 今のところ、僕と他の2人、みんな星3訓練生でさ。君が一緒に行ってくれたら助かるんだけど……」
「なるほど……」
「シェイク君は星5つだったろ? 君が仲間になってくれれば、僕らの星のアベレージ3.5になる。そうしたら僕ら、一段階上のダンジョン課題に挑めるんだ!」
太めの魔術使は勢い込む。
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