第6話 星1つに降格した男

 教官に詰められたセンブリは舌打ちで返す。


「弁明? なぜ、そんなことを? 私には疚しいことなどないのに」

「ほう? ではたった今、同期訓練生に殺傷力の高い魔術を発動したのには納得のいく理由があるというのだな? それを話したまえ、センブリ訓練生」

「彼女達の言動に、我がウッドフォレスト家への侮辱があったからです。我が家の名誉を守るためにやむを得なかった。その点、重々ご承知おき願いたい」

「へ、え? そ、そんなぼく、そんなつもり全然ない……」

「言いがかりだ」


 プリンとシェイクの抗議にも、教官のどこを見ているかわからない義眼にはなんの感情も映らない。

 平坦な声だけが返ってくる。


「なるほど、侮辱か。それは許しがたいことだ」


 教官の同意の言葉に、センブリはせせら笑った。


「そうでしょう? 私がウッドフォレストの人間だと、教官も良くおわかりではありませんか。感心いたしました。……ふん、わかっているならもうその手を放してもらえますかね? 教官殿?」


 センブリの肩に置かれていた教官の手にぎゅうっと力が込められる。


「……それで?」

「それで、とは?」

「それはどのような侮辱だったのだ、センブリ訓練生? 君は家名を鼻にかけるだけの未熟者だと指摘されたのか? それとも、シェイク訓練生が君の誘いを断った、すなわち君の思い通りにならなかったのが不快で、それが自分に対する侮辱だと感じたか? 我儘な子供のように?」

「……なにを言って……訓練所務めの木っ端教官が、我が家を侮辱するなど許さんぞ……!」


 と、教官はセンブリから手を放し、頭を下げた。


「センブリ訓練生、謝罪させてくれ」

「あ……? ふん、謝るくらいなら最初から偉そうな口を利くな」

「謝罪を受け入れてくれるか? ならば改めて、君を星5つ訓練生と判定して申し訳なかった」

「……なに?」

「我々の目が曇っていたことを恥じ、君への不当な評価を改めさせてくれ。君は星1つだ」

「……私が星1つ……!? そこの無能と同じ……!?」

「君の実力や適性を見抜けず、ただ君の家柄や実家が裕福であるかばかりに囚われていた。冒険者として芽が出なくても生活ができるくらいの支援を実家からしてもらえるかどうか、冒険者を引退したあとも実家の力で食べていけるかどうか、そんなことばかり評価のポイントにしていた一部の指導教官の不明を詫びる。君自身の能力や性格、個性を全く無視していた。その点を今適正に判断すると、君は間違いなく星1つ訓練生だ」

「それは……私の星5つ判定は単に家柄や実家のお陰で、私自身の力ではなかったと……?」

「そう聞こえなかったか? すまなかったな。もっと早く、君が自身の見栄のためにしか行動できない、仲間を危険にさらす人物だと見抜いていればこんなことにはならなかっただろう」

「そんなはずはない! 私は優れた魔術使だ! 第3階層の魔術を使いこなせるのだだぞ!」

「その魔術がどこに向いているか、なんのためにその魔術を使うのか、それがわからない人物に星5つ評価を与えてしまった我々のミスだ。君にも自分が優秀だという錯覚をさせてしまい、本当に申し訳なく思う」

「ふざけるな! このような無礼……! こんな不当な仕打ち、ウッドフォレスト家が知ったら……」

「嫌なら辞めてもらう」

「な、に……? 私に……? 辞めろ、と? ……ウッドフォレストの名が怖くないのか……?」

「冒険者の適性に欠く者は一刻も早くここから消えてもらった方がいい。君も、ご実家に帰りたいだろう」

「……訓練所で代表になるどころか、中途退所して……そんな恥をさらすわけに……」

「実家からの期待に応えられず新しい道を探すなら早い方がいい。正式に退所届を提出するならいつでも私のところへ来るように」

「……くっ」

「さて……」


 泥を噛み締めたような顔になったセンブリから目を離し、教官はシェイク達に向き直る。


「喧嘩両成敗といったな。諸君らはなにか弁明することはないか、プリン訓練生、シェイク訓練生?」

「は、あ、あの、えっ……へへ、ぼくはなにも……」

「俺達はセンブリに襲われただけで被害者です。なにも罰せられるようなことはありませんよ」


 シェイクがプリンを守るように前に出る。

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