第5話 星5つの者達③
まさか、センブリが火球を放つとは。
人の目のある訓練所内で、しかも相手は自分と同じ訓練生だというのに。
その迷いのない殺意にプリン達は意表を突かれていた。
子供が虫を殺すかのような罪悪感の無さ。
自分は決して罰せられないという、悪い意味での深い自信に満ちている。
家の力でどうとでも揉み消せると思っているのか。
「あ」
プリンの口から空気が漏れる。
そこにシェイクの叫び声が重なった。
「下がれ!」
プリンは自分が引き倒されるのを感じる。
尻もちをついた。
と同時に、目の前にシェイクが盾となって立っているのを見る。
ほんの一瞬でここまで移動しているシェイクの素早さは人間とは思えないほどだ。
だが、そんな人間離れしたシェイクでも火球の直撃を受けては無事で済むはずもない。
……だめ……!
火球に照らされるシェイクの陰で、プリンは咄嗟に思う。
火球の向こうには薄ら笑いを浮かべるセンブリの顔。
ここまでで僅か1秒もかかっていない。
と、プリンの前のその光景が、巨大な影によって唐突に遮られた。
咆哮めいた叫び声が、プリンを震わす。
「……因果律を捻じ曲げ、貴様が魔剣を手に入れる前に倒しに来てやったぞ、冒険者! 時空を超えた不意打ち、防げるものならぎゃああああああ!?」
突然現れた巨大な影。
それはシェイクの前にどこからか立ちはだかったドラゴンだった。
邪悪そのものに見えるブラックドラゴン。
その咆哮が、爆音とともに悲鳴に代わっている。
「ま、待ち伏せだとぉ!? これも罠だったのか!? ば、化け物め……!」
見知らぬドラゴンは背後からの予期せぬ火球の直撃に苦悶の声を残し、現れた時と同じように唐突に消えた。
ぱっ、と煙のように。
その場に残ったのは呆気にとられたセンブリとプリン、そして安堵のため息を吐くシェイクだけ。
「……な、なんだ!? 今のドラゴンは!?」
センブリの声には狼狽が見てとれた。
まさか自分の火球を、唐突に出現したドラゴンに防がれるとは思ってもみなかったのだろう。
「なんなんだ!? 一体なにが起きた!?」
「俺にもわからないさ。プリンにもな」
だが、プリンにはなにか思い当たることがあったようだった。
「……これって……たまにシェイクを守ってくれる、例の不思議な魔法かな?」
「……さあね。でも、1つだけ確かなのは、センブリの魔法は俺達には効かなかったってことだ。怪我1つ負ってないだろ?」
「ほんとだ。……えへへ、よかったぁ」
肩を竦めるシェイクに、肩の力を抜くプリン。
納得いかないのはセンブリだ。
「あのドラゴンが庇った……? だが、あれはどこからきてどこへ行った? 何者だったんだ? 答えろ!」
「だから知らないって。あのドラゴンはきっとたまたまどこかから瞬間移動してきたものの、たまたまお前の火球の前に出てしまって、たまたま俺達の代わりに焼かれてくれたってことだろう」
「そんなたまたまがあってたまるか!」
「ふふ、んふ、ぼくたち、運が良かったね」
「……意味不明過ぎてイライラする! 認められるか、こんなこと! ……今度はちゃんと消し炭になってもらおうか、星1つの無能め!」
「ひぇ……」
「まだやるか……!」
センブリは再び身構える。
火球のような強力な魔法を詠唱できるだけの力がまだ残っているということだ。
が、そこへかけられる抑揚のない声があった。
「……そこまでにしておいてもらおうか、訓練生諸君」
すっ、と現れた白髪義眼の教官はセンブリの肩に手を置き、プリンとシェイクには見えぬ目を向けている。
そして、センブリの耳元に口を寄せ、囁いた。
「……訓練所内での私闘行為。喧嘩両成敗だ。なにか弁明することはあるか?」
その問いかけはプリンとシェイクにも氷の刃のように突き刺さった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます