第2話 星2つの少女


「ハッピー・ストレート訓練生、星2つ!」

「ブロッサム・バースデー訓練生、星3つ!」


 冒険者訓練所に暑苦しい教官の声が響き渡る。

 整列してそれを聞くのは訓練所の第17期生達。


「シェイク・ウィンター訓練生、星5つ!」


 おおー……と、訓練生達から溜息とも感嘆ともつかぬ声が漏れる。

 今回の試験結果発表で初めて出た星5評価の訓練生だからだ。

 だが、当の本人シェイクは周りの声をよそに微動だにしない。


「プリン・サマーコールド訓練生、星1つ!」


 くすくす……と、訓練生達から失笑が漏れる。

 星1つ評価の訓練生は今のところプリンだけだ。

 プリンも辺りを見回しながら、困り顔で笑う。


「えっへへ……」


「センブリ・ウッドフォレスト訓練生、星5つ!」


 再びの星5つ評価に、訓練生達がざわめく。


「……やっぱ名門の魔術使は違うな……」

「……もう実際に冒険者として銀級くらいの実力はあるって……」


 周りに騒がれて、優男の魔術使が慇懃に礼をして見せた。

 小馬鹿にしたような薄笑いを張り付けている。


 それまで名前と星数を読み上げていた暑苦しい教官が下がった。

 代わりに前に出てきたのは老人の域に達しそうな教官だ。


「……以上が、現時点の諸君ら第17期訓練生への忌憚ない評価だ。各訓練生は明日からの実習において、自らの星に相応しいダンジョン課題を選択すること。座学における講習内容は星の数によって受けられるものが違う。その点は注意しろ。以上、解散」


 そうしてその義眼白髪の教官は、熱の無い声で訓練生達に寮へ戻るよう指示する。

 元々は金級、白金級の冒険者だったという噂の教官だ。

 周りの他の教官達からも敬意……というか畏敬の念を持たれており、ある意味近寄りがたい。

 そんな教官に異を唱えた者がいた。


「ちょっと待ってよ!」

「なんだ、カシス訓練生」

「どうしてあたしが星2つなの!?」


 覆面姿の女盗賊が怒気も露わに食って掛かる。

 対する教官の声は冷たい。


「総合的な判断の結果だ」

「納得いかないんだけど?」

「このオーディン冒険者訓練所における最初の試し。訓練所付属のダンジョン第1層に潜って魔物を倒してもらうという試練の内容を、我々指導者はすべて見させてもらった。カシス訓練生、君は自己の評価を優先し、感情的な行動が目立った。苛立ちのせいで集中力を欠き、狙っていた魔物を横取りされていたな? だから君は限りなく星1つに近い星2つだ」

「な……!? あたしはこれでもノースエンドの街じゃ新人で一番の腕利きなのよ!?」

「そういう触れ込みなのは承知している。そうでもなければこの王都の訓練所に入れるわけもない。つまり、ノースエンドという田舎町の冒険者ギルドは極めて低レベルの人材しかいないということがわかる」

「く……っ! うちのギルドのことを悪く……!」

「嫌なら辞めてもらう。適性のない冒険者がパーティに混ざるとパーティ全体が危険にさらされる。今のうちに適性のない者には消えてもらう」


 教官の見えない義眼が訓練生達の顔を見回していく。

 ぴたり、と止まった。

 その義眼の先にはプリンがいる。


「プリン訓練生。君もだ。君に至っては星無しに限りなく近い星1つの評価しか与えられなかった。冒険者としての適正に非常な疑問を持たざるを得ない」

「え……へへ、す、すみません……」

「どうして君はここに来た? どうやってギルドからこの訓練所への推薦を貰えたのだ?」

「え……あ、あの……」


 しどろもどろになるプリンから教官は顔を背けた。


「プリン訓練生、カシス訓練生、ここを辞めるならなるべく早く私のところへ報告に来い」


 訓練所校庭が静まり返る。

 義眼白髪の教官は片眉を上げた。


「先ほどの指示が聞こえなかったのか? 解散しろと言ったのだが?」


 促されて、訓練生達はどこか後ろめたいかのような素振りでその場を後にしていく。

 一方、カシスと呼ばれた覆面の女盗賊は拳を握り締め、立ち尽くしていた。

 プリンは周囲を見回す。

 誰もカシスに話しかけようとしない。

 気の毒な気がして、プリンはおどおどとカシスに声をかけた。


「あ、あの……女子寮に、も、戻らないと……戻りましょう……?」

「……あんたのせいで……」

「は、はい?」

「あんたのせいで失敗したんだからね! あんたが尻もちついて邪魔してたからあたし……!」


 カシスは燃えるような目でプリンを睨みつけると、ふんっ、とばかりに顔を反らした。

 あとはプリンのことを見もせずに訓練所施設へと歩み去る。


「え……あ、そのう……あれ……?」


 プリンはその背中を見送ることしかできない。

 そんなプリンにシェイクが近付いてくる。


「プリン、あいつになにか言われたのか?」

「あ、う、ふへっ……ん、んんっ、な、なんともないよ」


 プリンは頭を振った。


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