第4話嫉妬心

「今年のクリスマスって……永倉さんとやるの?二人きりでさ……」

「えっ……いや、それは。なんていうのか……その——」

不貞腐れ、拗ねたニュアンスを含ませた言葉を投げると、彼は言い淀み曖昧な言葉をぼそぼそと漏らす。

「悲しいなぁ〜除け者にされるのかぁ〜カズにぃー」

「……ご、めん。長谷部さん……っとぅ。せ、背中を、押してくれませんか、長谷部さん?」

「うぅ〜ん、そーだなぁ〜……とりま、ファイトー」

乗り気のない張りのない声で唸ってから、投げやり気に聞こえる声援を送る私。

「……はい。ありがとう、ございます……」

不満そうに頬をピクリとひくつかせる高瀬に、こほっと空咳をし、背筋をピシャっと伸ばし、先ほどの空気に戻した私。


拳ふたつぶんも離れた距離の顔をズズッと迫らせ、私の表情をジィーっと見つめながら訊く彼。

「さっきからクリスマスの話題を執拗にあげるけど……どうした、長谷部さん?」

「どうしたもこうしたもないです〜ぅっ!カズのばかぁっ!なんで分かんないかな〜ぁ?」

彼が鈍感過ぎて、怒れてきて普段よりワントーンあげた声で荒げた私。

「逆ギレぇっ!?可笑しくない、長谷部さん?長谷部さんの機嫌をそこねること……した覚え、無いんだけど……」

責められている状況に理解が及ばないようで彼は驚いた声をあげ、納得のいかない様子で左手のひとさし指で左頬をぽりぽりと掻く。

「ああーあッ!サイアクぅー」

「ええぇーー……」

お手あげだといった掠れた声が夏の暑さが未だに残る9月の中旬の教室に溶けていく。


高瀬が永倉にご執心なのが、気に入らない。彼女が恋敵ライバルで友人であるのは変わらないけれど……

去年は彼女と関わりがなく、会話を交わすこともなかったが現在いまでは些細なきっかけを通じて、身のうち話も幾らか晒せる間柄にはなっている。


高瀬数雪こいつってやつは、ほんと……


二脚の机を合わせて、向かい合う高瀬数雪かれは胸の前で腕を組んで考え込んでいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る