第26話 口調の強い彼女は、なぜか、デレている…?
それは確かなことではあるのだが、時折見せる表情から愛嬌を感じたりするから不思議だ。
小豆の描く小説のワンシーンごとを初命は演じていた。
でも、彼女の表情は自然体な気がする。
作り物のような笑顔とも言えない絶妙な仕草も相まって、妙にドキッとするのだ。
「ねえ、次のことをやって」
「わかってるから……」
登場人物の一人であるヒロインが本棚から本を取れずに困っている場面が物語の中にある。
初命は、ストーリー通りに、彼女が求めている本を本棚から取り、左に佇んでいる小豆へと渡す。
それだけの行為。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ねえ、あんたはどう思った?」
「今の?」
「そうよ。心境を知りたいの。場面ごとを演じるだけじゃなくて。その時々の気持ちもメモしておきたいから。それで、どうなの?」
グッと距離を縮めてくる小豆。
彼女の顔がハッキリと見える位置にある。
間近で見ると、小豆は可愛らしい。
頬は程よく赤く染まっていて、実の女の子らしかった。
美少女といっても差し支えない。
けど、他の子と比べると少々地味さもあるのだが、多分それは、小豆と深く関わっていないからだろう。
小豆と、あの一件以降、関わりを持つようになったが、一緒にいる時間が長くなればなるほど、彼女のことを女の子として意識してしまうから不思議である。
別に、小豆のことが好きなったとかじゃない。
ただ、何となくそう感じるだけで、具体的にと言われると、その発言には困る。
「普通だから……」
「普通って何よ。そういうのなんの回答にもなってないわ。あんたが今感じてることを言えばいいだけ。ねえ、言って」
小豆は、強気な姿勢だ。
彼女の態度が大きくなると、さらにグッと距離が近づく。
そして、顔の距離も近くなる。
「ねえ、あるでしょ。わ、私と関わって、思うことくらい……」
彼女は不安そうな顔つきになっている。
「……あ、あるけど。それより、顔が近いって」
「ん⁉」
小豆の表情がボッと点火したように真っ赤に染まる。
「べ、別に、あ、あんたと、き、き……したくて、顔を近づけわけじゃないし」
「なに?」
「な、なんでもないし……」
彼女はごにょごにょと意味不明なことを口にしていた。
「と、とにかく、今のシチュエーションについて思うことでもいいから、何か言いなさい」
「……俺は、なんか、心がフワッとした感じになったことくらいかな。俺、あんまり、女の子と、こういう風なシチュエーションになることないし。新鮮だったかな」
「へえ、そういう考え方するのね。あんたって。まあ、一応、小説に生かさせてもらうわ」
右手にペンを所有している小豆は、箇条書き程度に、メモ帳に初命の感想を記入していた。
「この場面は、こういう風に表現を変えようかな……」
小豆は左手に持っているメモ帳と睨めっこしたまま、独り言を呟いていた。
「んんッ、つ、次は……」
小豆は左手で口元を隠しながら簡易的に咳払いをする。
「まだやるのか?」
「ええ。昼休み時間はまだ、後……二〇分ほどあるし、もうちょっとやってほしいの」
小豆は空想部の室内の壁に掛けられている時計を見ていた。
「今度は何?」
「それは、き……」
「き?」
「き、木とか描写っているかなって……」
彼女は思いっきり息を吸い、吐き出すように言う。
「木? 木って? 樹木的な木?」
「そ、そうよ」
「いや、いらないんじゃないかな? 小説でしょ? 青春もので、木の描写があっても、誰も読まないと思うよ」
「そ、そうよね。当たり前よね」
「……どうしたの? 木のことについて話しだして」
「別に……なんでもないわ。もう……なんで、気づいてくれないのよ」
小豆はまた、独り言を呟いていた。
何か言いたいことがあるのであれば、ハッキリと言った方がいいのにと思う。
基本的に強気な姿勢なのに、どこか消極的な印象を受ける。
彼女の頬はまた、赤いままだった。
「……な、なに、私の方をじろじろ見てんのよ」
「いや、そういうつもりじゃなくて……」
「……なんか、恥ずかしいじゃない……」
「恥ずかしい?」
「な、なんでもないし、馬鹿、そういうところは聞かなくてもいいのッ」
小豆は顔を真っ赤にして怒っていた。
彼女から睨まれている。
「なんか、ごめん……」
「もう……なんで、こうなるのよ」
小豆は不満を抱いたように頬を軽く膨らましている。そんな今の彼女も、なぜか、不思議と可愛らしく、初命の瞳に映るのだった。
「そ、それで、次は何をするの? 木の話でごちゃごちゃになってたけど?」
「……一緒に席に座って、本を読むっていうか。そういう場面をやるから」
「座って、本を読む?」
「ええ……」
小豆はボソボソと話すと、室内にある長テーブルへと向かう。
初命から取ってもらった本を大事そうに持ちながら席に座る。
初命は現状を察し、小豆の元へ歩み寄るように、隣の席に腰かけた。
「……」
「……」
二人は無言のまま、ひと時を過ごす。
小豆は手にしていた本を見開き、小説の文字を読み始めていた。
……こういう時は何かを話した方がいいのか?
でも、図書館にいるっていう設定なんだよな……。
だとしたら、会話をするというのはよくないことかもしれない。
だが、何もしないというのも、後々彼女から言われる可能性だってある。
な、何をすれば……。
初命は彼女の隣で悩んでばかりである。
ごちゃごちゃと悩みこんだ結果、初命の手が動く。
衝動的に、彼女の頭を撫でていた。
初命も何してんだろと思っているのだが、以前、どっかの青春漫画で、男子生徒が女子生徒の髪や頭を撫でるシーンを見たことがある。
「……」
本を読んでいる小豆は無言のまま、体を震わせていた。
これは失敗だったかなと思う。
でも、彼女から激しく批判されることなく、意外と受けいれられている感じだった。
……この展開は、意外と正解?
「……ちょっと擽ったいんだけど……」
彼女の口からボソッと聞こえる。
しかし、そのセリフは嫌味な感じではない。
小豆が一段と大人しくなった瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます