第21話 陰キャな俺の学校生活は絶望へ
キスの味は甘い感じだと思っていた。
けど、ちょっと違う。
陰キャな初命のキスが、とある子に見られるなんて、想定していなかった。
まさか、今日から正式に付き合おうと約束をした奈那に、音子とキスしているところも目撃されるなんてと思う。
運が悪すぎるにもほどがある。
初命は緊張のあまり、体が硬直していた。そして、手元が震えているのだ。
右の教室扉のところへ視線を向けると、拒絶した感じの顔つきで、少々引き気味な態度を見せる
彼女の方から積極的に話しかけてくることはなく、両手で顔を隠しているだけだった。
そんな中、
正気かと思う。
今、教室内には初命と音子だけ。その教室の廊下側に奈那がいるが、基本、二人っきりの状態。
むしろ、音子には今、この重大さに気づいてほしかった。
初命は口を塞がれている状況であり、うまく言葉を発することができない。
「……須々木君って、その子と付き合ってたの?」
奈那は悲し気なトーンで言う。
違う……。
違うくないけど、そうじゃないのだ。
けど、うまく言葉を口にできない。
音子からのやり方に流されているままであり、うまく対応できないのである。
「……あの時から……ファミレスで三人でやり取りをした時から……二人って付き合ってたの? だから、試着室で。あんなこと……」
奈那は頬を真っ赤に染めたまま、消極的な態度を見せる。
逃げ出しそうなほどに、少々後ずさっていた。
「だよね。私と須々木君って……ただの一時的な付き合いだったんだよね。だよね……元々、責任を取るためであって、それ以上の関係じゃないんだよね」
奈那は過去を振り返り、後悔するかのような話し方になっている。
初命はそういうことじゃないと、ハッキリと伝えたい。
けど、音子がそう簡単に離れてくれないのだ。
それどころか、舌を口に入れ込んでくる。
エッチな舌使いであり、嫌らしい音まで聞こえてきていた。
「須々木君も、あの発言、嘘なんでしょ? 私のために手伝ってくれるなんて言葉。その場しのぎの優しさで言ってくれたんでしょ? でも、表面上の優しさなんて、私、求めていないし。それに、そういう風な人とは、これ以上、付き合えないから……責任とか、もういいから。今日で終わりにしよ。私……須々木君の恋愛事情を邪魔したくないし……」
奈那はそういうと、教室前の扉から姿を消す。
彼女が遠くの方へ走っていく足音だけが虚しくも響いていた。
「これでいいんです。初命先輩も面倒なことをせずに、あの先輩と距離を置けて良かったと思いますから」
音子はやっと離れてくれた。
が、もうすでに遅い。
色々な意味で、終わってしまっているのだ。
「私、初命先輩がいつまで経っても、あの先輩に本当のことを言わないのがいけないんですからね」
「……でも、俺、こういうの。望んでないから……」
虚しくも心に辛くのしかかる。
何もかもが嫌だ。
やっとの想いで、奈那のために何かができると思った。
初命は彼女の想いに応えたかったからこそ、正式に付き合い、協力するつもりでいたのだ。
なのに、音子のせいで、すべてが終焉を迎えた。
本当であれば、音子の方を振るつもりでいたのだから、その心にのしかかる辛さは尋常なモノじゃない。
「初命先輩? 具合でも悪いんですか?」
「そんなの……違うから」
「でも、やっと二人っきりになれましたね♡」
「……そういうのじゃない。俺は……」
苦しすぎて、うまく声も出せなかった。
「具合が悪いのでしたら、保健室でも行きます? 私がいっぱい慰めてあげますからね♡」
「そういうの、いいからッ」
「⁉」
初命が声を荒らげた。
音子と二人っきりの環境下。
初命は強気な口調で、彼女の肩を軽く押して距離を取る。
「先輩? どうして、そんな怖い顔をするんですか?」
「それは、あんなことをされたら、嫌に決まってるだろ……結城さんに、どういえばいいんだよ」
「でも、結果として別れられたんですから」
「……こんなの俺は、嫌なんだ。音子のことは友達としてはいいけど。やっぱり、付き合うのは無理なんだ」
「私……先輩から振られたくはないです。ようやく一緒になれたのに」
「俺、本当は音子とは、もう付き合いたくない……」
「でも、私のおっぱいを見て振るなんて、許さないですから」
「⁉」
音子からの低音口調。
外見からは感じないほどの大人びたイメージを感じ、初命は少々たじろいでしまった。
「ここで先輩が振るなら、私にも考えがありますから。初命先輩? 私が本気を出せば、学校での先輩の立場を追い込むことなんて、いくらでもできますし。どうしますか? 私をこのまま振ります?」
「……それは、勘弁してほしい……」
「じゃあ、私と付き合ってくれます?」
「……」
初命は口元を噛みしめる。
後輩相手に、怯えるなんて情けないと思ってしまう。
が、これ以上に、今を乗り越える手段がないのだ。
「私と付き合ってくれますよね? 付き合わないっていうのなら、皆に色々と教えちゃおっかなぁ」
「……わ、わかった。付き合うから……」
「はい♡ そうこないと駄目ですから♡ 私、嬉しいです、これから先輩と一緒に過ごせて、私、幸せですから♡」
と、音子は突然、初命の右腕に抱き付いてきた。
そのおっぱいが、腕に少しだけ絡む。
小さいながらも、音子のおっぱいに圧倒されているのである。
……音子とはもう関わりたくない……。
元々は、いい子だと。
普通に可愛らしい妹のような存在だと思っていた。
でも、もはや、妹のような愛らしさの奥から、狂気じみたオーラを感じてしまうようになったのだ。
逃れられない運命に巻き込まれてしまったかのような現状。
胸が苦しい。
右腕には、音子のおっぱいを感じる。
優しい感じの膨らみが接触しているものの、苦しさや後悔の方が勝り、嬉しくなんてない。
この現状から抜け出したいとさえ思う。
「初命先輩ッ、これからよろしくお願いしますね♡」
誰もいなくなった普段の教室。
そこで、音子から抱き付かれたまま、嫌らしく耳元で囁かれた。
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