第19話 私と、正式に付き合ってくれない?
「……ッ」
言葉を失っているようだ。
奈那がどこに行ったのか心配になっていたのだが、この前遭遇した空き教室にいて、初命は安心していた。
胸を撫でおろすように、軽く深呼吸をする。
「なんで、ここに来たの? でも、どうして、わかったの……」
奈那の声は小さい。
先ほど、体育館倉庫でパンツを見られたことに、大きなショックを抱えているからだろうか?
「この前、ここの教室にいたから、もしかしたらって思って」
「……でも、あの時のように、私が着替え中だったら、どうしてたのよ」
「それは、ごめん……考えていなかったよ。ただ、結城さんの状況が気になって。その、しょうがなかったんだ」
「……私の心配をしてくれていたの?」
「うん」
「……」
奈那はなぜか、両手で胸元を隠すような仕草を見せていた。
「どうしたの?」
「な、なんでもないわ。というか、須々木君。そこの扉を閉めてよ。誰かが来たら、色々と面倒だし」
「うん、わかったよ……」
初命は彼女の言う通りに扉を閉める。
すると、彼女は近くの空いた席に座っていた。
「君も座ったら。立ってばかりだと疲れるでしょ」
「でも、後数分で朝のHRが始まるよ」
「別にいいわ。少しくらい遅れても……」
「それだと、生徒会役員として威厳が」
「別にいいの……今日だけは……」
奈那は言葉を止める。
何かを言いたそうにしているが、言い出しづらそうに唇を軽く締めていた。
「私ね、もう疲れたの……」
「何に?」
「皆の前で、よく振舞うのが。今まで必死に頑張ってきたけど、もううまく立ち回れる気がしないの」
彼女は机に顔を隠すように突っ伏してしまった。
非常に疲れ切っているようで、数秒ほど動かなくなっていたのだ。
「大丈夫?」
「……大丈夫よ……でも、少しだけ、ひっそりとさせてくれない?」
奈那は顔を上げることなく、自身の意見を告げてきた。
生徒会役員としての責務を果たすことへの苦悩を感じているのだろう。
朝から夕暮れ時まで、ずっと何かしらの作業をしているのだ。
それは疲れるに決まっている。
いくら優秀な人でも、休息は必要だと思う。
「……」
奈那は無言のまま顔を上げ、席に座らず、右側に佇んでいる初命に対し、顔を向けてきたのだ。
その表情は上目遣いである。
彼女の瞳からは、涙のようなものが滲んでいるように思えた。
「私、これからどうしたらいいんだろ。できる気がしないし」
「……だ、大丈夫だよ、多分……」
「どうして、そんな事、言えるの?」
「……」
初命は唾を呑む。
これを言ってもいいのか悩むが、少しでも彼女の心に安らぎを与えたかったのだ。
だから――
「さっき、生徒会長に、結城さんが丁寧に記入していたノートを渡してきたんだよ」
「ノート……はッ、そういえば、体育館倉庫に⁉ でも、生徒会長に渡したって?」
「言葉の通りだよ。それに生徒会長も、ちゃんとやってるって評価してくれていたし」
「……でも、中途半端だったし。そういうの、一旦、私に伝えてから渡してよね」
奈那から上目遣いでかつ、ジト目な視線を向けられる。
そんな表情が嫌らしく感じた。
「で、でも……生徒会長が、そう言ってくれたなら、大丈夫かな……一応、ありがとね、須々木君……」
彼女からの感謝の言葉をもらう事となった。
「ちょっと気になったんだけど。結城さんって、どうしてそこまで生徒会長から指摘されてるの? 仕事も普通にこなしているし。問題はないと思うけど?」
「それは……色々あって。でも、君には関係ないでしょ」
「か、関係あるよ」
初命はハッキリと口にした。
「だって、俺はまだ、結城さんには責任を感じてるし。だから、少しでも協力させてほしいんだ」
「須々木君……」
奈那は少しだけ、溜息交じりな口調になり、軽く表情を緩ませてくれた。
「それは嬉しいけど。でも、そういうのに須々木君を巻き込ませたくないかな」
「でも、俺に相談してよ。少しでも、現状の改善に繋がるかもしれないし」
「……そんなのないわ……」
「あるよ。一応、付き合っているというか。その……どんな形であっても、付き合ってる感じなら、助け合うのが普通じゃないかな?」
初命はらしくないことを口にしてしまう。
言った後に、みるみると体が熱くなってきた。
一人で気まずくなっていたのだ。
「そうかもね……じゃあ、一応話すね。なんで、私が、生徒会長に怒られてばっかりなのか」
奈那は体の正面を、初命の方に向けてくる。
真剣な態度で、初命を見つめていた。
「私……実は、他の役員のためにも色々と活動しているの」
「他の役員というのは?」
「それは、生徒会以外の役員よ。図書委員や応援委委員とか、他にもいろいろな委員会があるでしょ?」
「確かにあるけど。なんで? なんで、そこまで?」
「私……誰かのためになりたいだけよ」
「でも、自分のやるべきことを後回しにしてまでも、やるべきことじゃないよ。それは、結城さんがただ疲れるだけじゃないか」
「私は、皆に楽しく生活してもらいたいの。そのためなら、少しでも自分の犠牲は何とも思わなかっただけよ」
奈那はハッキリとそう言った。
自己犠牲なんて、よくないことだと思う。
でも、同時に感じたことがあった。
彼女が他人から評価されるわけが。
それは、生徒会役員だからとか、容姿がいいとか、そういう理由ではないと――
奈那の人柄をしっかりと見られているからこその結果だと感じた。
生徒会長が言っていたように、見た目で優遇されているわけじゃないと思う。
「だったら、今度は俺が、結城さんのために、何かをするから。何かあったら、なんでも言っていいから」
初命は席に座っている彼女の顔を見つめていた。
付き合っている子が、辛い想いをしているなら助けてあげたい。
それが、付き合っている者としての最低限の行為だろう。
「……須々木君……そこまでしなくてもいいのに……でも、嬉しいかも。ここまで私に、やってくれるなら……その、正式につき……あってくれない」
「え? つ、付き合う?」
「うん、そうよ。責任とかそういう風なのを抜きにして、私と付き合ってほしいの。いいでしょ。私、その方が、もっと、須々木君との距離を縮められそうな気がするの。お互いに助け合うなら、その方がいいでしょ?」
奈那はその場に立ち上がる。
そして、嬉しさのこもった感じに、その場に佇む初命に抱き付いてきたのだ。
ドキッとする。
奈那のために何かをしたいといったことは確かなこと。
でも、
どうすればいいんだろうと思いつつも、彼女から抱き付かれている間、奈那の豊満なおっぱいを感じ、今後のことを悩み始めるのだった。
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