第15話 俺は、真実を知りたいだけなんだ…だから、俺は結城さんに…
どうにかしてあげたい。
そんな一心で、彼女の元へと歩み寄っていた。
ゆえに、この場合、どう接すればいいのか、わからないのだ。
今、学校に多くの人らが登校してくる中、初命は校舎の三階廊下で戸惑っていた。
現在いる廊下には、誰もいないからこそ、副生徒会長である奈那と関わっていても、誰にも付き合っているとか疑われる心配はないだろう。
「……」
初命は何かを話そうとしたが、うまく言葉にはできなかった。
彼女とは正式な恋人の間柄ではないが、一応付き合っていて、自称彼氏という立場。
何とか、この気まずく苦しい現状を打破するしかない。
それができれば、一段階、色々な意味合いで上がれそうな気がする。
「……あのさ、ここで話すより、どこかに移動しない?」
「……別にいいけど」
奈那の声のトーンが一段と低い。
悲し気な口調であることが伺えるほどだ。
どうにかしてあげたいという気持ちはあるのだが、なんて対応すればいいのだろうか?
考えるしかない……。
……手を繋ぐことなのか?
だが、しかし、登校する際、
その一件もなり、なかなか、手を差し伸べることもできなかった。
でも、以前、奈那は手を触ってほしいと言ってきたのだ。
小豆に対しては不正解かもしれないが、奈那にとっては正解なのかもしれない。
そう結論付け、初命は彼女の左手を触ろうとする。
「――ッ⁉」
彼女の手に触れた瞬間、奈那は体をビクッとさせていた。
突然のことで、恥ずかしさが勝ってしまったのだろうか?
「な、な、何をするの? 須々木君⁉」
「こういう時は、安心させようと思って……駄目だったかな?」
「……いいけど。まさか、君の方から、そういう風な対応を積極的にしてくれるなんて……ちょっと驚き……」
奈那は動揺し、初命と視線を向けないように、頬を赤く染め、比較的落ち着いた口調で言う。
「……でも、嫌ではないから。むしろ……嬉しかったから……」
彼女は照れくさそうに言った。
先ほどまでの悲し気な表情は少しだけ薄れ始めていた。
軽く笑みを見せてくれる彼女。
初命は思う。
自発的に、彼女の手を握ってよかったと――
「……俺も悪かったよ。さっきの言葉、盗み聞きをして」
「んん、いいよ。本当の私は、皆が思うような立派な人じゃないし。でも、最初にバレたのが、須々木君でよかったかな」
奈那はまた、頬を紅潮させている。
「結城さんも、大変なんだね」
「そうね。いつも忙しいし、朝からやることが多くて」
ストレスの貯まりやすい活動らしい。
学校のために貢献してくれているのに、生徒会長からの励ましの言葉すら貰えないなんて悲しすぎる。
「結城さん、別のところで話そうよ。ここだと、生徒会室に近いから」
「そうね……」
彼女は頷いてくれる。
二人は手を繋いだまま、今は誰もいない三階の廊下を歩き始めるのだった。
「ここで作業するの?」
「ええ。そうよ。生徒会長からの指示でね」
二人は今、体育館から外に出たところにある、体育館倉庫にいた。
そこで、奈那はノートとペンを持ち、点検作業を行っているのだ。
初命は彼女と少しでも会話するため、付き添うように奈那から少し離れた場所で仕事風景を見ていた。
生徒会役員とは、全員が学校生活を過ごしやすいよう、設備を点検することも重要な業務。
表向きで行っている業務のほかにも、誰からも気づかれないところも行う。
学校のためとは言え、その生徒会役員自体が過ごしやすくなかったら本末転倒である。
一応、生徒会役員に所属する利点としては、周りの人からの評価が上がる。成績や内申点の上昇、実績。そして、新しいこともやるため、新しい発見もあり、自身の学びにも繋がると思う。
決して、よくないところばかりじゃない。
それにしても、奈那は大変そうである。
何か手伝ってあげられないかと思う。
「結城さん? 俺にもできることないかな?」
初命は、体育館倉庫にある在庫の数を点検してる彼女へと問いかける。
「今のところは大丈夫……須々木君は、近くにいてくれればいいから」
「近くに……?」
「……うん」
奈那は背後にいる初命の方をチラッと見、照れくさそうに微笑んでくれていた。
そんな彼女のふと見える態度に、ドキッとする。
……た、たまたまだよね……そういう風に見えただけだよな……。
初命はそう自分に言い聞かせることにした。
そうじゃないと、緊張で心がどうにかなってしまいそうだったからだ。
そして、思うことがある。
やはり、奈那の言動を見る限り、彼女こそが手紙を送ってくれた正体なのだと思う。
確信に基づいた結論ではないが、そんな気がする。
むしろ、ほぼ初対面に近い相手に、ここまで心にゆとりをもって対話してくれるなんてありえない。
しかも、初命は奈那の生おっぱいを見たのである。
距離感の遠い女の子であれば、確実に強く敬遠するはずだ。
でも、そんなことはなく、意外と普通の距離感で話してくれている。
それに、昨日デパートに行った際も、女性用の下着コーナーへと案内してくれたのだ。
これは当たりに近い。
だが、しかしながら、自らの口から、そのことを告げるのは、正直怖い。
ある程度距離感は狭まっているものの、深く突っ込んだ話をすることに躊躇いが生じていた。
確信に迫りかけているのに、やはり、心のどこかでは、手紙の差出人ではないと思っているのかもしれない。
立ち止まってばかりではいけない。
自ら話しかける事。
むしろ、恋人がほしいのなら、自発的に話題を振って行かないといけないと思う。
初命は一歩足を踏み出した。そして、二歩目。
初命は背を向け、体育館の設備確認を行っている彼女へと近づいていく。
真実を知りたいという思いがある。
口を開こうとした刹那――
「ねえ、須々木君?」
ん⁉
奈那は急に振り返ってきた。
初命は突然の行為に、驚き、態勢を崩してしまう。
そこから、誤って彼女の方へと倒れ掛かってしまうのだ。
「ちょ、ちょっと須々木君⁉」
奈那の方も悲鳴に近い声を上げていた。
彼女は手にしているノートと、ペンを持ったまま、初命に押し倒されたのである。
「……」
「……」
気まずい環境下。
初命の瞳には、体育館にある運動用のマッド上で仰向けになっている奈那の姿が映る。
二人は、頬を軽く染め、視線を向けあったまま、気まずい時間を過ごすことになったのだ。
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