第6話 私、先輩と本気で恋人のような関係になりたいんですッ
「初命先輩って、こういうの好きそうですよね?」
「いや、そんなことはないよ……」
「そんなこと言っても駄目ですからね♡」
誘惑染みた表情を浮かべ、距離を詰めてくる後輩。
距離が近いって……。
後輩からの急激な接近に、おどおどした口調をしてしまう
現在、この空き教室には、二人以外に部外者はいない。
廊下にも誰かがいる気配もなく、朝の校舎なのに実質二人っきりな空間にいるようだった。
だからこそ、余計に音子のことを意識してしまう。
胸の内がドキドキしていた。
音子の身長は、初命と比べれば小さい。
初命の目線の先に、音子の頭のてっぺんが見えるくらいである。
小柄な容姿をした美少女。
そんな彼女と、ここで何かがあったとしても、誰かに見られる心配もない。ゆえに、何をしてもいいような環境下なのだ。
だがしかし、羽目を外し過ぎるのもよくないと思う。
初命が、どういう風に立ち回るかで、今後の人生が大きく変わってくはずだ。
初命は心にストッパーをかけるが、音子の甘い香りが漂い、初命の鼻孔を擽る。
「初命先輩……少しやりません?」
「そういうのはいいから」
初命はたじたじになりながらも、自制心を維持し、拒否する。
誰も見ていないからといって、下手に面倒ごとを増やしたくなかった。
今は、一旦、彼女から距離を取るべきだと思う。
「初命先輩、逃げないでください」
「そういうのは、学校ではやっていけないことだから……」
「そんなこと言って。やってみたいんですよね? 先輩?」
教室内の別の場所に移動しても、音子は歩み寄ってくる。
「私、先輩のことが好きなんです。だから、もっと、色々なことをしてあげたいんです」
「だからと言って、そんなことをやってもいい理由にはならない気が」
「先輩、恥ずかしいからですよね。だから、拒否してるんですよね?」
「……べ、別に恥ずかしいとかないし」
初命は頬を紅潮させ、つれない口調で誤魔化すように視線を逸らした。
恥ずかしさも相まって、その緊張感に押し潰されそうになっていたからだ。
音子とは、本格的に、そういう関係にはなりたくない。
初命は内心、強く思うのだった。
「でしたら、キスとかはどうでしょうか?」
「キス⁉」
「はい。恋人なら絶対にしますし」
「そうかもしれないけど。いまは、駄目だ……」
「副生徒会長と付き合ってるからですか?」
「ああ」
「では、副生徒会長との責任を全て取り終えたら、私と付き合ってくれませんか?」
「そ、それは……」
初命は口ごもってしまう。
その件については、まだハッキリとした回答はできなかった。
昨日、音子のおっぱいを触ってしまった一件がある。だから、それに関しても責任を感じているところはあった。
自発的に触ったわけではない。
けど、おっぱいに触れてしまったという事実は消えることはないのだ。
放送委員会の音子が本気を出せば、確実に初命の学校生活は終焉を迎えてしまうだろう。
そもそも、陰キャであるがゆえに、すでに終わっている感じなのだが……。
音子の方を見れば見るほど、彼女のおっぱいの感触が脳内に蘇ってくる。
極力、考えないようにした。
おっぱいのことを思い出すと、心が靡いてしまいそうになるからだ。
好きとか、そういうのではなく、妹みたいな存在。
ゆえに、恋愛としてとなると難しいところがある。
今は、責任を取るために何となく恋人として関わっているだけ。
でも、現在進行形で、他の子と関わっているため、実質三股している感じである。
三股はさすがにヤバい。
初命も内心、そう思っている。
でも、それからは逃れられない運命なのだろう。
音子は可愛らしい感じではあるのだが、やはり、恋人として付き合えない。
けど、おっぱいを触ってからは彼女のことを意識するようになった気がする。
今まで妹のような存在だったけど、異性として意識し始めているところがあった。
意識しないようにしていたのだが、やはり、胸の内が熱くなってくる感覚を覚えていたのだ。
「初命先輩? 付き合ってくれないんですか?」
「それは、後で考えておくよ」
初命は誤魔化すように言って乗り越えるのだった。
「もしかして、私のおっぱいが小さいから、付き合うのを躊躇ってるんですか?」
「そ、そんなことはないさ」
別にそういう意味ではない。
「では、なんで約束してくれないんですか?」
「それは、友達の関係の方がいいよ」
「友達? 友達って、今まで通りってことですか?」
音子は悲し気な表情を浮かべる。
そういう顔を見せないでくれ……。
「あの副生徒会長、おっぱい大きかったですよね?」
「まあ、そうかも」
「んッ、やっぱり、ちゃんとそういうところは見てるじゃないですか」
「そ、それはしょうがないっていうか」
初命は結城奈那の生おっぱいを見てしまった。
ゆえに、意識的に見てしまうのはしょうがないのである。
ん……そういえば。
初命は閃いたように、視界の先にいる後輩に問いかけた。
「一つ聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと? なんです?」
「音子って、手紙のことは知ってるか?」
「手紙? なんですか、それ?」
「いや、知らないんだったらいいんだ」
「……」
音子はジーッと初命の方を見ているようだった。
「別の人からも、アプローチされてるんですか?」
「わからないけど。あれ、嘘かもしれないし」
初命はそう返答したのだ。
この反応。
あの手紙――
音子のものでもないようだ。
じゃあ、一体、誰からの手紙なのだろうか?
「でも、やっぱり、初命先輩とキスしてみたいです」
音子が急激に接近していた頃。
廊下から足音が聞こえた。
音子は激しく反応し、体をビクつかせ、初命から距離をとる。
「おい、ここで何をしてる? あともう少しで朝のHRが始まるから、早く教室に行け」
絶妙なタイミングで、朝の見回りをしていた先生が教室に入ってきたのだ。
色々な意味合いで危なかった。
あと数秒遅れていたら、音子とキスしていたところを、先生に見られていたかもしれないからだ。
今日は朝から激しい事ばかりである。
今のところは、奈那にはバレている感じはしないが、いつ気づかれてもおかしくない状況だ。
初命はそんなことを考え、先ほど購買部で購入したコッペパンをも持ち、いつも通りに、校舎の裏庭に向かっている最中だった。
現在は昼食の時間帯。
少しは解放された感じはある。
初命が気楽に廊下を歩いていると、制服のポケットが振動した。
誰からのメッセージが届いたようだ。
ポケットからバイブ音のするスマホを手にし、画面を見る。
今、黒髪ロングな彼女からのメールが届いた。
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