最終話 黒髪と赤い目

「ねぇ、シュウ。みてよ。海だよ。」


いるはずのない、彼女の名前を口にして、僕は初めて見る海を1人でただ眺めていた。


「はは。すごいなぁ…終わりがまるで見えないや。」


どこまで目を凝らしても先が見えない。こんなにも凄かったなんて。


「一緒に…見たかったなぁ…」


あとはなんだっけ。砂漠と氷山か。世界を変えて僕が死ぬまでに見ておかないと。もし死んだ世界で出会えたら、たくさん自慢してやる為に。


「シュウ。僕はやるよ。」


海を見ながら、誰に話すでもなくただ自分を奮い立たせる為だけに僕は言った。


「僕達みたいな、力を持つ人達が当たり前に存在する世界に。」

「僕達みたいな人達が、胸を張って生きていけるように。」


『あるじ!早く行こうぜ!』


エレボスが僕を催促する。こいつは早くこの世界が変わる様を見たいらしい。


「うん。わかった。」


さぁ、始めよう。


1度出来上がった世界を変えるより、1度壊してしまってから作る方が簡単だから。


「なんて…。ただの言い訳だね。」


これは私怨だ。ただの復讐だ。僕らを拒んだ世界への、シュウを殺した世界への報復だ。

世界を変えるのはその後でいい。


「壊そう。全部。」


そう呟いて、僕は黒髪を靡かせ、紅く染まった目を光らせて空へ姿を消した。

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黒髪の僕と赤目の少女 玖音 @kuon22

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