第11話 最後の選択
シュウが撃たれた。誰に?一体どこから?なんで?だってここはいつもの森の近くで……
『よし!当たった!』
『バカか!黒い髪の方を狙ったんだよ!見たか?あいつ身体から羽生やしてたぞ!!悪魔に違いねぇ!!』
『それを庇ったあの子供仲間ならどっち殺しても一緒じゃねぇか…まぁいいぶっ殺しちまえ!』
男たちの喚く声が聞こえる。羽?もしかして見られてた…?狩人達に…?そんな偶然…そんなことって…
そんなことより……
「よくもシュウを……」
「ぶっ殺してやる!!!!!!」
僕は瘴気をもう一度体から放出して、その瘴気を鋭い棘のように形を……
変えようとして身体に耐え難い激痛が走る。
あまりの痛みに嗚咽をこぼし、その口からは赤い血を吐き出す。
『あるじ!もう限界だ!権能は使えない!逃げるしかないんだよ!』
エレボスが聞いたことも無いほどに焦った声で僕を諭した。
「ちくしょう…!」
僕は踵を返してシュウを抱えてその場から逃げるために走る。身体が思うように動いてくれない。ふざけんなよ僕の身体…
『おい!ガキが逃げるぞ!さっさと次撃っちまえ!』
『わかってる!!死ね!悪魔め!!』
「バンッ」と乾いた音が後ろから聞こえるのと同時に僕の足を撃ち抜く。
あまりの痛みに思わず転びそうになるが、すんでのところでふみとどまる。痛い、流れる血が熱い。なんで、今までこんなに痛かったことなんて……
『権能の使いすぎで、《不死》の権能すら上手く使えねぇんだよ!今頭とかに食らったらまじで死ぬかもしんねぇ!早く逃げろ!!あるじ!!!』
エレボスが苦痛な叫びをあげた。
とにかく逃げよう。僕は痛む足なんか気にせず、全速力で走った。
「ねぇ、シュウ。大丈夫だから。すぐ助けるから。だから…だから…」
そうしてるうちに巨木まで来た。ぼくはいつもの洞穴の中に入って身を隠す。最後の力を振り絞り、瘴気を僅かに発し、洞穴の入口に壁を作る。
『消えたぞ!!』
『どこ行きやがった…?』
『まだ近くにいるはずだ!探せ!!』
男たちの怒号が外から聞こえてきたが、次第に声がとおのいていく。
『何とか助かったな…』
エレボスが安堵の声を漏らした。
「助かってねぇよ!!!」
僕はエレボスに怒鳴り散らす。
それから隣に横たわるシュウに問いかけ続けた。
「ねぇシュウ…起きてよ…。お願いだから。」
すると、シュウは薄らと目を開けた。
「ク……ロ……?」
「シュウ!大丈夫絶対助けるから。絶対に!」
『無理だあるじ。さっきも言ったが、あるじは他者を修復するの力は持ち合わせていないし、もし使えたとしても今の状態のあるじに権能を使うほどの体力は残ってない。』
『残念だけど、シュウちゃんはもう助からねぇよ』
エレボスは冷徹に僕を諭す。
「そんなの嫌だ!嫌だよ…嫌だって…」
僕が泣き崩れていると、シュウが優しく僕の手に触れた。
「クロ…よく…聞いてね。」
シュウは語る。きっと最後の力振り絞って。
「私、楽しかったよ…たった3日程度だったけど…」
「お母さんがいなくなって、ここでひとりぼっちでずっと暮らしてて、実は寂しかった…」
「そんな中クロが来てくれて…私の目を怖がらずに、真っ直ぐ見つめてくれて…友達になってくれて…たった3日が今まで1番幸せだった…」
「約束…守れなくて…ごめんね…?」
「私が死んでも…忘れないで…。」
「クロ、大好き。ありがとう。」
そう言うと僕の顔をに手を回し、自分の顔に寄せてそっと口付けをした。
「…シュウ?」
僕の問いかけに返答が返って来ることは無かった。
「ねぇ、シュウ。約束したじゃないか。」
「まだ、海。見に行けてないよ…?」
「友達はずっと一緒にいるんだって、シュウが言ったんだよ…?」
「ねぇ…起きてよ…シュウ…。」
「おいていかないで…。僕だって君のことが…」
シュウの目はもう光を灯してはいなかった。
なんなんだ、この世界は。
僕が、シュウが、一体何をしたって言うんだ。
人の髪の色や目の色で、勝手に悪魔だ化け物だって決めつけて、少数だから、周りとは違うから、たったそれだけでのことで、ただ普通に生きることさえも許されないのか。
行き場のない怒りが僕の身体を蝕んでいく。
こんな世界間違ってる。こんな世界なんて、こんな世界なんて……
突然身体から瘴気が吹き出し続けて、ひとつの人のような形を作っていく。
そして聞き覚えのある声で、高らかにそして狂ったように笑う。
『あるじ!世界が憎いか?憎いよな!』
『こんな自分たちを蔑ろにした世界が!!』
『彼女奪ったこの世界が!!』
『さぁ!あるじ、最後の選択だ。』
エレボスは笑う。そして両手を広げたまま僕に問いかけた。
『この世界をあるじはどうしたい??』
『あるじには世界を変える力が!その権利が!あるじにはある!!』
『最後の選択はこの世界の命運を決める選択』
『現状維持か。それとも変革か。』
『あるじの選択が世界そのものを作りかえる!さぁ!選んでくれ!』
相も変わらず、この時のエレボス何を言いたいのか分からない。世界を変えるとか、その権利とか何を言いたいのかよく分からない。
でも自分の気持ちは決まってる。そんなことができるなら、僕はその力を……
「僕らみたいな人が、悲しまなくていい世界にしたい。」
「力があるのが当たり前で、黒髪や赤目な人がいるのも当たり前、そんな世界に。」
「僕は世界に変革を求める。だからさエレボス。その力を僕に返して。」
狂った笑い声がくらい洞穴を埋めつくしていく。
『それでこそ我があるじ。いや我が王よ!』
『あなたはこの時の為に世界に産み落とされた!』
『古代の恐竜時代の滅亡!中世の魔女狩り!』
『その全てにあなたと同じ《権能》を持つ人物が関わっている!』
『古代の彼は恐竜などいない世界を望んだ!』
『中世の彼女は能力を持つ者を憎んだ!』
『此度のあるじは能力を持たない者は不要だと望んだ!』
『さぁ、返そう!あなたの全てを!あなたの本当の《権能》を!!』
『その名は《創造神》!世界を作り変え、新しい時代を築きあげる権能!!!』
『さぁ俺に見せてくれ!!新しい時代の誕生を!!』
エレボスは興奮したように話す。でも今はそんなことはどうでもいい。
「ねぇ、エレボス。僕の見た目を変えることってできる?」
エレボスは何を今更と言いたげな口調で言った。
『勿論できる。あなたは《創造神》時間を巻き戻したり、死者を蘇生させることはできないが、世界の未来を変えることが出来る力。容姿の変化なんて造作もない事さ。』
『まぁこの力の代償は権能を使って作った世界が完成した際に、その保有者は力を失い世界から消滅するけどな。』
なるほど。この力を使い終わったら、僕は死ぬのか。まぁいい。シュウがいない世界なんて生きてたってしょうがないもの。
僕は身体を白い霧に包み込み、身体を大人の姿へと変えた。うん。この方が動きやすい。
よし。行こうか。
「ちょっとまっててね。シュウ。」
そう言ってシュウの手を離し、話した手にはあの本をおいて洞穴から出る。
すると、先程の狩人達がまだうろついていた。
「おい、いたぞ!」
「こいつこんなでかかったっけ…?」
「そんなことどうでもいい!!あの髪色見ろ!悪魔だ悪魔!ぶっ殺せ!」
そんなこと言って僕に猟銃を突き付ける。
世界を変える前に、こいつらだけは……
「絶対許さない。」
そう言って僕は赤い目を光らせた。
辺りには男たちの血が飛び散っている。
僕はそんな中ひとつの花を持って巨木の洞穴に戻ってきた。洞穴ごとシュウを埋めて、その後に花をそっと添えた。
「今までありがとう。シュウ。」
そう呟いて僕はその場から去っていった。
『まずはどうするんだ??あるじ。』
エレボスはどこか楽しそうな声で聞いてきた。
そうだな…まずは…。
「海を見に行こうかな。」
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