第10話 化け物
「待って!」
シュウを見つけて手をとって逃げようとした時、シュウは立ち止まった。
シュウを探す為に建物ごと真っ二つに1度切ったので、半壊しているこの場をさっさと抜けてしまいたいんだけど……
「お母さんが、そこに…」
「お母さんが…?」
僕はシュウが指を指した方向を見る。そこには横たわった女の人がいた。
僕すぐに駆け寄って、蘇生しようと試みると…
『それは無理だ。あるじ』
『やってみなくちゃわかんないじゃないか。』
僕の権能は《死神》。死を司るのだから可能なはずだ。
『あるじが死なないのは《不死》の権能のおかげであって、《死神》のおかげじゃないんだよ。死んだ人を蘇生することはおろか、人の傷を治す権能は使えない。諦めろ。』
「そんな……」
そんな事していると、他の大人たちが何やらよく分からない武器?みたいなのを持って何人も現れた。
「シュウ、僕のそばから絶対離れないで。」
僕はシュウとそのお母さんを庇うように前に出た。
「う、うん…。」
シュウそう言うと僕の服の裾を軽く掴む。その手は微かに震えているのがわかった。
「これはこれは。まさか自分の方からやってくるとは……。」
1番奥にいるリーダーっぽい大人が僕に語りかける。
「《死なない》だけと、聞いていたがあの女嘘をついていたのか…?」
「まぁいい。少し不意をつかれたが、この程度はまだ想定の範囲内だ。我々の武力があればたかが子供ごときに……。」
その大人が手を上げると、一斉に何百、何千という何かが僕らに向けて飛んできた。
「きゃあ!!!!」
シュウは目を覆い頭を隠した。大丈夫なのにな。
瘴気が僕らの前に壁のように立ち塞がり、それを全てつかみそして溶かしていく。
『エレボス。あれは何?』
『あ〜あれは〚未来の銃〛だな。現代に存在する猟銃なんか目じゃないぐらいの威力と連射力があるやつだ。』
『ふーん。』
まぁただの瘴気で止められるぐらいのものなら大丈夫か。
「なん…だと…?」
大人たちは驚愕の顔を浮かべた。
「あなたたちがやったのは、こういう事?」
僕は瘴気を束ねて、圧縮し小さな玉のような形のものを無数に作った。
「バン!」
僕の掛け声と共にその玉は一斉に大人たちに向かって飛んでく。
ほとんどの大人はどうやらこれで死んじゃったようだ。
「クソが…化け物め!!!」
リーダーの大人は悔しそうに喚いた。
「さすがのお前もこれは無理だろう!我らが開発したもので、最大戦力のものだ!!」
奥から大きな鉄の塊みたいなのが何台も来た。そして前には大きな砲弾が着いてる。
『ねぇ、エレボス。あれは何?』
『ありゃ。〚戦車〛だな。うわ〜こいつらこの時代にこんなもんまで作ってたのか。もしあるじが来てなかったら、ほんとにこの世界の覇権握ってたかもな。』
そんなに強いものなのか。
『さっきの銃の玉なんかより100倍ぐらいでかいものを飛ばしてくる。しかも爆発する。』
『どうする〜?あるじ。』
そんなもの決まってる。
「全部ぶっ壊そう。」
そう言うと、僕は手に瘴気を束ねて黒い鎌を生成した。 そしてシュウに振り向いて、そのまわりに瘴気を漂わせる。
「シュウ。僕は今からあれを壊してくるから、絶対にこの黒い霧の中から出ないでね。」
少し不安そうにしてるシュウに優しく語りかけた。大丈夫なのに。
「うん。わかった。絶対に出ないから、クロも絶対に死なないで。」
震えた声でシュウが言う。
「大丈夫だよ。僕は死なない。だって……」
そう僕は。
「化け物だからさ。」
そう言って僕は戦車の方に向かって走りだした。
「撃て!!!この際、巫女のガキが死んでも構わん!確実にあの黒髪のガキを殺すんだ!!!」
リーダーの大人が言うと一斉に砲弾が降り注ぐ。さすがに地面に落とすとやばいか…
僕は手をかざして瘴気を放出する。そして飛んでいる砲弾全てを包み込みその中で爆発させた。
「馬鹿な!!そんな事が……」
大人は驚愕の声をあげた。
まずは1つ。
目の前の戦車に手に持った鎌で真っ二つに切り裂く。隣にある2つは瘴気で、戦車の大きさを軽く超える槍を作り出しそれを飛ばし串刺しにする。
残り一つは……
「お前ら!もっと打ち込め!あの黒い霧だって無限じゃ無いはずだ!!!」
その言葉と共にゾロゾロと銃を持った大人たちがやってきた。
「めんどくさいな〜もう。」
瘴気を大人たちに向けて放出し霧散させる。
瘴気が大人たちに触れた事を確認して……
「《ソウルドレイン》」
僕のその一言で、瘴気に触れていた大人は全て抜け殻のように倒れこんだ。
「何が…何が起きたんだ!!」
リーダーの大人はすごく狼狽えてしまった。
その隙に最後のひとつの戦車を鎌で切り裂く。
「これで後は、貴方だけだよ。おじさん。」
僕は鎌をおじさんに向けて真っ直ぐと見た。
「なんなんだその力は…こんな力、報告には1度も…。」
リーダーの大人はもはや逃げる気力すら失ったのか、その場に座り込む。
「僕の権能は《死神》死を司る神の力だよ。」
僕は彼に鎌を向けながら静かな声で語りかける。
「あなたはシュウに酷いことした。」
「そしてシュウのお母さんにも。」
「そんなお前を僕は絶対に許さない。」
「楽に死ねるとは思うなよ。」
僕はさっきの力で吸収した大人たちの魂を放出した。この魂を代償に……
「《魂を喰らい、開け黄泉の扉よ》」
この言葉の後に彼の後ろに禍々しい扉が瘴気の中から姿を現し、門が開いた。
肌寒い黄泉の冷気がこの場には漂っていく。
「な、なにをする気だ…やめてくれ…」
彼は怯えて少し泣いてしまっている。可哀想に。
「お前を生きたまま黄泉の国に送る。そこには生気を求めてさまよう死者が無数に存在する。」
「元々この世界は死んだものしかいないから、死ぬという概念がない。」
「そんな世界で死者に生気を吸われ続け、死者に怯え逃げ続けて。」
「永遠に生きろ。」
扉から無数の手が伸びて彼の身体を引きずっていく。
「やめろ!悪かった!ほんとに悪かったと思ってる!だから頼む!助けてくれ!!嫌だ…嫌だァァァ」
バンッと音を立てて扉が閉まりそして消えた。
「少し…疲れたな…。」
そう小さく呟いだと同時に、手に激痛が走った。
「いっった!…なんだよこれ…」
右手の指が少しだけ骨になっている。
『それは、《死神》の権能の代償さ〜。』
エレボスがそんな大事なことを今更言ってくる。
『まぁ、《不死》の権能もあるからそれで相殺されて治るんだけども。』
そゆことは先に言えよ……。
そんな事思っていると、シュウが駆け寄って飛びついて来た。
「すごいわ!クロ!ちょっと怖かったけど、とてもかっこよかった!!」
さっきまで震えていたのが嘘みたいに、嬉しそうにそして楽しそうな声で僕に言う。
良かった。いつものシュウだ。
「まだ終わってないんだ。ちょっと待っててね。」
シュウのことを引き離して、お母さんの元に駆け寄った。そしてお母さんの手を取って
「《現世で穢れし魂よ》」
「《天に昇る導きを。》」
その言葉でシュウのお母さんは淡い光を放ち、1つの小さな玉が浮かび上がった。
「クロ?何をしたの?」
シュウはそう言いながら、僕のそばに引っ付いてくる。なんか距離近いような気もするけど、きっとまだ怖いんだろうな。
「お母さんの魂がちゃんと天国にいけるように、この世界で穢れてしまった魂を綺麗にしたんだよ。」
「そっか……」
この計画に加担してしまった事実だけでも、天国にはすぐに行くことは出来ないから。
「助けてあげれなくてごめんなさい。」
間に合わなかった事への僕なりの贖罪のつもりだった。
「謝らなくていいのよ。」
シュウが僕の前にたって、横たわったお母さんの手を取る。
「お母さん、ありがとう。私ね、お母さんが言った通りとても大変な目にもあったけど、友達ができたの。」
手を取ったまま俯き、シュウは少し震えた声でゆっくりは話しかける。
「とても、大切な友達なの。大好きな友達なの。だから大丈夫。私はひとりじゃないから。」
「守ってくれて…私を産んでくれて…ありがとう…!」
シュウは泣きながら笑った。
お母さんの魂が微かに微笑んでいるように見えた気がした。
お母さんの遺体を近くにあった丘に埋めて、シュウを抱えて空を駆けていた。
「凄いわクロ!飛んでる!!こんな事もできるのね!!」
シュウは楽しそうに笑う。
「怖くないの?」
僕は少し不安な気持ちで聞いた。改めて考えてみると僕は色んな事をやった。普通なら怖がられて当然だ。
「怖い?クロが?怖いわけないじゃない。」
「だって、私を助けてくれたのよ?そしてその黒い翼もあなたにピッタリじゃない!とてもかっこいい!」
そう言って僕を見て満面の笑みを浮かべた。
「そっか…ありがとう。」
少し泣きそうになった。やっぱりシュウはすごいや。
そう思っていると、また体に激痛が走った。
『あるじ。さすがに限界だ。ここまで戻ってきたのなら、もう歩いて帰っても大丈夫だと思うぜ?』
エレボスが僕を諭す。
そうだな。もう大丈夫だろうこれで途中で使えなくって落ちた方が大変だもん。
僕はゆっくりと地面の方に降りていって瘴気を身体にの中に戻す。
「少し疲れたから、ここから歩いて戻ろう。」
そう言ってシュウに笑いかけた。シュウは「そうね。」と言って2人でゆっくり歩いていつもの巨木に向かって歩き出した。
これで全部終わった。巨木に戻ってゆっくり寝よう。そして明日はまた一緒に起きて、川で水浴びして、魚を捕まえて、そして海を見に一緒に旅出るんだ。
そう言って気を抜いた。
その時だった。
「クロ!危ない!!」「バンッ!」
シュウが突然叫んで、僕を突き飛ばした。それと同時にどこから銃声が聞こえた。
「突然どうし──」
そこで言葉を止めてしまった。
シュウが胸辺りから血を流してその場で倒れこんでいた。
「シュウ…?」
何が起こったのか、僕にはわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます