第9話 赤眼に映る真相は

「…ん。いった…!」


頭に激痛が走った。あれ?私なんでこんなところに?確か、トイレに行こうと思って外に出てそれで……


「そうだ。私捕まったんだ。」


真っ白い空間に透明の壁があって、その前ではなんだか大人たちが話してる。

その奥にも同じような空間があって、その中には女の人が横たわってた。

あれ?あの人なんだか見た事があるような…?

長くて綺麗な私と同じ白髪で、そして目が……


「お母さん?!」


私は透明の壁に身体を貼り付ける勢いで、飛びついた。


「お母さん!私だよ!シュウだよ!起きて!!お母さん!!」


どうして寝てるの?どうしてここにいるの?ここはどこなの?答えてよ!ねぇ!!


「あいつは起きないよ。《巫女》の少女よ。」

「もう死んでるんだからな。能力を使いすぎた代償だろうか?まさか死ぬとはな。」


少ししゃがれた大人の声が私の耳に届く。少し笑ったような声が。

死んだ…?お母さんが?どうして、だって…帰ってくるって…


「…嘘だ。」


「本当さ。」


「嘘だ!!!!!!そんなわけない!!私を置いてお母さんが…お母さんが…。」


私はその場で崩れ落ちるように泣いてしまった。


「まぁ、私としてはあの女の死などどうでもいい。君がいるからね。」


大人は私を指さして言った。


「…どういう事なの?」


私は涙を拭って男を睨んだ。


「君は、未来を視ることが出来るだろう?それは《巫女》と呼ばれる権能だ。」


男は語る。全ての真相を


「その力はただ未来を視るだけではない。」

「任意の未来を特定的に視ることが可能な完全な未来視だ。」

「その力を使って我々は、未来の科学や技術を見通し、この施設と世界を支配するために大量の兵器を作った。」

「だが、《巫女》の権能は子供ができた際にその子供に受け継がれていく。」

「君の母親は我々の元に来た時には、使うことはできるが、その使うための代償が大きくなってしまっていたんだよ。」

「だから君の母親は死んでしまったと言うだけさ。」


「仕方ないだろ?」と男は笑った。


「嘘をつくな!!」


私を声を荒らげて男を睨む。


「そんなわけが無い!お母さんがそんな事の為に命を捨ててまで協力するはずがない!!」


そうだ。私のお母さんはそんな事する人じゃない。私の知ってるお母さんはみんなに優しくて、そして……


「お母さんは、そんな事の為に私を置いては行かない!!!」


だって、私はお母さんに愛されていたから。そして私もお母さんが大好きなんだ。

男はそんな私を見て、呆れるかのようにため息をついた。


「はぁ…。馬鹿馬鹿しい。子供だとは知っていたが、ここまで何も分からない小娘とは……」


男は私に少し軽蔑の目を向けながら言った。


「元々は我々は君をさらう計画を立てていた。だが、あの女はその計画を未来視し、我々に自ら接触してきた…」

「そしてこう言ったんだ。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「あなた達の計画。そして野望は全て知っている。」

「私があなた達に協力するわ。だから、娘には手を出さないで。それが協力する条件よ。」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「我々はこの条件を呑んだ。だから今までは君に手を出すことは無かったが、彼女は死んでしまった。」


男は顔を歪めながら笑う。


「まだ我々の目的は達成されていない。彼女が先に約束を破ったんだ!だったら、我々がどうしようが勝手だと思わないか??」


悪魔のような声で男は笑い続ける。

お母さん…そんな…私のせいで…

私を守るために…?そんなの…そんなの…


「死んじゃえ!!お前なんか!死んじゃえばいいのに!!」


私は声を荒らげて叫んだ。透明の壁に自分の手から血が出るのも構わず殴り続けた。


「ふん。たかが未来を視えるだけの、そして3秒ほど後の未来が見えるだけの小娘に殺される訳がないだろう。」

「実験は明日だ。まずは君の能力の引き上げから入ろうか。」


そう言って男は扉の奥に消えていった。


ひとしきり泣いて叫んだ後に、ふと私はクロのことを思い出した。


クロ。大丈夫かな。クロは私の事大好きだったから、いなくなって泣いてたりしてないかな。

一緒に外の世界見て回る約束守れそうにないや。私が言い出したのに、私が破るなんてことになるなんてね。ごめんね。クロ。

ねぇ、クロ。お母さん死んじゃってた。私を守って。あんな奴らに使われるぐらいならいっそ私を私自身の手で……。

なんて、怖くてそんな事できないけど。


「クロにあいたい。」


そんな叶うはずもない願いを真っ白な空間に吐き出した。

お母さんが死んだのは私のせいだ。私が子供だったせいだ。だけど、私は……


「クロ…助けて…」


なぜだか分からないけど、クロなら助けてくれる気がした。私と同じ子供で、私より何も知らなくて、私の初めての友達。たった2~3日程度。たったそれだけの関係。


私と話してるのにどこか上の空で変な顔してたり、私より子供のくせにどこか寂しげで暗い顔をしたり、子供のくせにたまに大人びた顔をする。

私がすること話すこと全部を笑って聞いてくれて、一緒にしてくれて、この目を見ても怖がることなく、真っ直ぐに目を見つめてくれる。


そんな彼に私は…


「なんてね…。」


いまさらそんなこと言ったって。そう思って身体を横にしたその時。


大きな爆発音と共に地響きで天井が揺れた。


「な、なに??」


大きな警告音と共に外が何やら騒がしい。


『侵入者だ!!』

『ちくしょう!なんだあの化け物!』

『ここにある兵器を全部使ってぶっ殺せ!』


どうやら誰かが入ってきたみたいだ。そうだ。やれやれ。こんなところぶっ潰せ。

そんな事考えてると前の大人が消えていった扉が吹き飛んで、大人たちが飛んできた。


「きゃ!」


前の透明な壁がその飛んできた大人で割れて、その破片が飛び散る。


「一体何がどうなって……」


そして飛んできた方向を見ると…


《それ》はいた。


黒い翼を生やし、黒い鎌のようなものを手に持ち、辺りに黒い霧みたいなのをばら撒きながら、こっちに近づいてくる。

顔は逆光でよく見えない。だけど、すぐにわかった。


なぜならその人の髪は黒かったから。


「クロ…なの…?」


私がそう聞くと、その人は駆け寄ってきて、私の目を見つめる。いつもの真っ直ぐな目を。

そして言った。


「やっと見つけた。助けに来たよ!」


まるで、何事も無かったかのようないつもの口調で。


「なん…で…。」


私は声を震わせながら、泣きたいのか笑いたいのかわかんないような声で。


すると、クロは「なんでって言われても…」と少し悩んで言った。


「友達は常に一緒にいるものなんでしょ?シュウが僕に言ったんじゃないか。ほらこんなところ出て、一緒に行こう!」


そう言ってクロは私の手を握った。


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