第8話 権能
「シュウ…?」
夜ふと目が覚めると、隣に寝ていたはずのシュウがいない。
「トイレかな…?」
少し嫌な予感がした僕はもう一度寝ることも無く、シュウの帰りを待っていた。
だけど、いくら待っても帰って来る気配がない。僕は洞穴から抜け出し探すために走った。
「シュウ!!どこにいるの!!」
シュウに連れて行って貰えた所を全部見て回った。
魚を取ったり、一緒に水浴びをした川。
かくれんぼしたり、木の実を取りに行った雑木林。
動物に追いかけ回されて死ぬかと思った獣道。
どこを見てもシュウはいない。
「どこいったんだよ…シュウ…。」
息を切らしながら巨木の近くで少し休憩していると、今までずっと黙っていたエレボスが話しかけてきた。
『シュウちゃんなら多分攫われたぜ。』
は?
「…今なんて言った」
『嫌だから攫われたって。』
なんでもっと早く言わないんだ!こいつは!
「一体誰に!早く助けに行かないと!」
『まぁおちつけよ。あるじ〜今更あるじがいったところで何も出来ないじゃん。』
『恐らくあるじを狙ったヤツらの別部隊だな。そこまでは見てなかったわ〜。』
そんなこと言いながら軽い口調でエレボスは笑った。
別部隊?なんで?僕じゃなくてシュウを?
「一体なんの目的で…。ていうか、シュウが狙われる理由なんて…」
『いやいや。あるでしょ。思い返してみな?シュウちゃんはただの人間だったか??』
違う。シュウは未来が視ることができた。それ目当てってこと?
「と、とにかく助けに行かなくちゃ。」
『嫌だから無理だって。あるじは今はまだ、〚死なない〛だけの子供さ。それがどうやってヤツらからシュウちゃん助けるのさ。』
「じゃあどうしろってんだ!!!このまま!黙って見なかったフリしろってのかよ!!」
僕は生まれて初めて声を荒らげて叫んだ。そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。
『落ち着けってあるじ〜最後まで話を聞いてくれ。』
そう言うと、エレボスは少し落ち着いた声で僕に語りかける。
『さぁ、2度目の選択の時だ。』
『このままシュウちゃんを見捨てれば、今と同じ平穏な日常をあるじはずっと送ることができる。』
『だけど、助けに行けばきっともう今のような暮らしはできない。』
『あるじの選択がシュウちゃんの運命も、あるじ自身の運命も変えていく。』
『さぁ、どうする?あるじ』
そんなの、決まってる。選択なんかする必要があるのか?
「僕はシュウの友達だ。」
「約束したんだ。海を!砂漠を!氷山を!一緒に見に行くって!」
「シュウに僕は針千本も飲ませたくないもん。」
「だから僕はシュウを絶対に助ける。」
エレボスは笑った。声を高らかにして。
そして言った。
『仰せのままに。我があるじ』
その瞬間、僕の身体からいっせいに黒いモヤが吹き出していった。
「これって…死んだ時の…」
そう言うとエレボスは今まで聞いた事ないぐらい興奮した声で語り出した。
『世界には!シュウちゃんやあるじのような特殊な力を持った人間が存在する!!その力の名は《権能》と呼ぶ!!』
『2度目の選択であるじは自分が持つ《権能》のほんの一部を自分の意志で扱う事ができるようになった!!!』
『あぁ、やっとだ。やっと見られる!あるじが扱う《権能》の力を!!』
『あるじが今まで無意識に使っていた権能は《不死》。その力であるじは成長し、そして死ぬことはなかった!!!』
『だが、本質は違う。この黒いモヤはそんな《不死》なんて言うチンケな権能なんかじゃない!!』
『この黒い瘴気は!死の瘴気!』
『あるじが今から扱う権能は!自身の生死すらも操る瘴気を発し、その瘴気はあるじの意のままに姿を変えていく!!』
『権能の名は《死神》!!死を司る神の力!!!!』
エレボスは高らかに笑いながら僕の《権能》について語る。
「声がでかい…頭に響くじゃんか…」
エレボスに若干…というか、かなり引きながら僕は気を取り直して瘴気を束ね始めた。
『使い方は思い出しているはずだあるじ!』
そうだ。初めて使うのに、初めて聞いたはずなのに、まるでただ忘れていたかのような感覚だ。この力があればきっと助けられる。
「行こうエレボス。友達を助けなくちゃ。」
そう言って僕は束ねた瘴気で翼をつくり、空へと駆けた。
エレボスが言う方向に飛びながら、僕は疑問に思ってることを聞いた。
「ねぇ、シュウの権能ってなんなの?お母さんと同じ力を持ってるんだよね。」
そう聞くと、エレボスは少し言いづらそうに答えた。
『あるじ。まず権能ってのは同じ力を持った人間が存在することありえない。』
『だが、シュウちゃんが持つ《巫女》の権能だけは別だ。あれは子供に受け継がれていき、親は次第に能力を失っていく。』
『そして、今シュウちゃんが攫われたってことは、恐らく……』
ここでエレボスは言葉を詰まらせた。
「なんだよ言えっての。」
『…恐らく親もあいつらに捕まってる。そして多分死んでる。力を限界まで使わされてな。』
顔があればしかめてそうな声でエレボスは言った。
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