第7話「視える」赤眼
「未来が…?」
そんなことって有り得るのか?正直嘘をついてるようにしか思えなかった。
「そうよ?まぁ、言っても2~3秒ぐらいの少し先の未来しか見えないけどね?」
シュウは恥ずかしそうに言った。嫌でもそれでも本当ならすごいことだ。本当なら。
僕が少し不審がるような顔をしていると、シュウは顔を覗き込んだ。
「信じてないでしょ〜。まぁいいわ。見せてあげる。こっち来て!」
そう言うと、シュウは僕の手を引いて綺麗な川に連れてきた。すごい。川だ。はじめてみた。水ってこんなにも透き通って綺麗なものなのか。
「見ててね?いくわよ?」
そう言うと、シュウは赤い目を少し光らせた。
「あの岩場の奥から魚が2匹飛び跳ねる」
そう言った2秒後ぐらいに魚が跳ねた。しかもしっかり2匹。
「すごい。ほんとに未来がみえるんだ。」
「そう!こうやって魚が跳ねたりとか、動くところを先に見て捕まえたり、木を揺らして木の実が落ちるところを見てそこに予め入れ物とクッションみたいなのを置いたりして取ってるの!」
シュウは自慢げな顔をして目を輝かせる。
「まぁ、あんまり1日5回ぐらいしか使えないんだけどね?」
「そうなんだ。」
それでもすごいことだ。それならご飯は困ることは無いな。服は…まぁ見た感じ僕と同じで同じものをずっと着ている感じだから、あまり頓着がないんだろう。
「まぁ、お母さんはもっと先の未来が見えたんだけどね?私はまだこれが精一杯。」
そう言ってさっきとは打って変わって悲しげな顔をシュウは浮かべた。
「…聞いちゃダメかもしれないけど、その…お母さんは?」
僕は少し声を震わせながら聞いた。シュウは僕とは違ってお母さんがいたんだ。なら、ここで1人で暮らしているのはおかしい。
シュウは少し悲しげな顔をしながらも、少し微笑みながら話し出した。
「お母さんはね。私を守るために旅に出たの。なにかの未来を見たらしくてね?それで私を前いた村に連れてきたの。」
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「お母さん?ここはどこ?なんで置いていっちゃうの?嫌だよ。私お母さんと一緒がいい。」
シュウは涙を浮かべて、服にしがみついた。
それを優しく振り払いシュウを1度強く抱き締めて、赤い目を合わせながら彼女は言った。
「シュウ?これから言うことをよく聞くのよ。この先きっと貴方は辛い目に沢山合うかもしれない。」
「だけども、負けないで強く生きなさい。あなたの力は私と同じ。使い方次第で運命すらも変えられる。」
「私はずっと貴方を想ってる。あんな未来に私がさせない。」
「必ず帰ってくるから。待っててね。」
「愛してるわ。シュウ。」
そう言うと彼女はもう一度シュウを抱き締めると、月夜と共に消えていった。
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「まぁその後すぐに村の人達に追い出されちゃったんだけどね?」
「でも、大丈夫。きっとお母さんは帰ってくるわ!だから私は何があっても強く生きるの!」
そう言うとシュウは「そうだ!」と言ってまた僕の手を引いて巨木まで走り出した。
「クロ!友達になったんだから、私の宝物見せてあげるわ!!」
すごいなシュウは強い人だ。僕ときっと歳は変わらないはずなのに。 僕は生まれた時から両親なんていないから分からないけど、一緒にいた人がいなくなって独りぼっちになるってきっととても悲しい事だと思う。
そんなこと考えていると、巨木の洞穴のところまで戻ってきた。シュウが「早く中に!」って催促してる。何を見せてくれるんだろう。
「じゃじゃーん。これよ!」
そう言って僕の目の前に掲げられた。それは何度も読み返したのかヨレヨレになっていて、こんなところに置いているからだろうか。煤けて表紙が汚れている。
「これは…本?」
「そうよ!これはね?世界中の事が書いてある図鑑みたいなものなの!お母さんがくれたんだ〜。」
「世界中の事が…?それってめちゃくちゃすごいものなんじゃないの?」
そんなものがこの世にあった事にびっくりした。そしてとても見てみたい。
「さぁ?よくわかんないけど、見て?この本によるとね?世界には湖なんて目じゃないぐらい大きくてしょっぱい〚海〛って言うところとか、とても暑くて一面が砂だけになってる〚砂漠〛って言うところとか、全部が氷でできた〚氷山〛っていう山とかがあるんだって!!」
「なんだよそれ。全部作り物の話じゃないの?」
そんなものあるとは考えられない。僕からすれば今ここにある大きな巨木ですらびっくりしてるのに、これ以上びっくりするものが外にあるなんて思えなかった。
そう言うとシュウは少し怒って、そして自慢げに話し出した。
「絶対あるんだから!」
「私の夢はね?クロ。ここにかいてある所を全部をこの目で見に行くことなの!!そしていつかお母さんが帰ってきた時に、自慢してやるんだ!!特に海!絶対この目で見たい!」
そんな途方もない事を言い出した。でも、ちょっと楽しそうだなと僕は思ってしまった。
「あ、もちろんクロも一緒に行くのよ?だって友達だもの。友達は常に一緒にいるものだからね!」
強制参加かよ…。まぁいいけど。
「えぇ…まぁいいよ。僕も一緒に行くよ。まだ子供の僕たちには無理かもしれないけど。大人になったら。」
そう言うと、シュウは拗ねたように言った。
「えぇ〜友達が出来たら、すぐに行こうと思ってたのに〜。」
そんなとんでもないことを言い出した。
「いやいや。僕はまだここに来たばかりだよ?もう少しこの生活に慣れさせて欲しいな。」
僕がそう言うと、「それもそうね…」とシュウは少し悩んでこう言った。
「大人になるまでは待てないけど、クロがここの生活に慣れたら行きましょう。本当はすぐにでも行きたいんだけど、許してあげる。」
ほんとにすぐに行きたいんだなシュウは…。
まぁここに留まりたい理由はここなら隠れやすそうだからと思ったからだけど、エレボス曰くあの大人たちは当分追ってこないみたいだから、まぁ大丈夫かな。
「わかったよ。なら3日。3日だけ猶予をちょうだい?」
僕がそう言うと、シュウは目を輝かせて僕の手を取った。
「3日?!言ったわよ?絶対に3日だけだからね!約束よ??」
「うん。約束だ。」
僕が頷くと、シュウは僕の小指に小指を絡ませた。
「シュウ?これは何?」
「クロはほんとに何も知らないのねぇ…。これは指切りよ!友達と約束する時はこうやってやるの!」
そう言うとシュウは指を絡めたまま、歌い出した。
「指切りげんまん♩ウソついたら針千本のーます♩」「指切った!」
そして指を離す。いや針千本って……
「約束は約束だからね!絶対破っちゃダメよ?」
と、シュウは笑みを浮かべたながら言った。
「こんな怖い約束されたら破りたくても破れないよ…」
そう言って僕も笑いながら返した。
だけど、この約束が果たされることは無かった。
2日後、シュウが消えたからだ。
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