第6話 巨木の住処
「私のお家に連れてってあげる!」
そう言ったシュウは僕の手を取ったまま、森の奥を進んで行った。
どうやら泣いてしまった事は見なかったことにしてくれるらしい。良かった。
『よかねぇよあるじ〜。女の子の前で泣くなんて、俺は恥ずかしいぜ〜??』
あいつは話せるようになってからか、こうやってずっと話しかけてくる。
『仕方ないだろ。僕だって泣きたかった訳じゃ…』
『じゃあ我慢しろよあるじ〜みっともねぇぞ〜。』
こいつ、前々から思ってたけどクソ腹立つ。ていうか、こいつにもまだ聞きたいことがあったんだった。
『はいはい。ていうか君には名前は無いの?呼び方に困ってたんだよね。』
こうやってずっと話せるなら、なにか呼び方がないと何かと不便だもんね。
『名前か〜。そうだなぁ…うーん…よし。じゃあ俺の名前は〚エレボス〛って事にするわ〜かっこよくね??』
こいつ今決めただろ。
『名前が無いの?』
『まぁ俺は一個体として分類するには少しややこしいからな〜。』
『ま、そんなことは今はどうでも良くね?〚エレボス〛ぱっと思いついたにしては気に入ったわ〜。これからはそう呼んでくれよ!あるじ』
またなんかはぐらかされた気がするけど、まぁいいか。
『わかったよ。よろしくエレボス』
『おう!あるじ!』
顔があればニカッ!って効果音が出そうなぐらい爽やかな返事だなとか考えて、ふと前を見るとシュウがまたこっちを見ながら頬をふくらませてた。
「ちょっと!クロ!ずっと話しかけてるのに、ずっとだんまりで考え事するのは酷くない?!」
しまった。エレボスとの会話に夢中で話しかけられてる事に気づかなかった。
頭の中でエレボスの笑い声が微かに聞こえる。
こいつ、話しかけられてるの気づいてたのにわざと言わなかったな……
僕はシュウに向けて笑いながら謝った。
「ごめんごめん。ちょっと考え事がさ。で、なんて言ってたの?」
そういうとシュウは、身体で怒りを表すかのように腕をブンブン振りながら言った。
「だから!もう着いたって言ってたの!!ほんっとに聞いてなかったのね?!友達に対して失礼だわ!」
そう言うとふくれっ面のままそっぽ向いてしまった。
いや着いたって言っても……
「ここには大きな木しかないように僕は見えるんだけど……」
事実その通りで、目の前にはここいらにある木の中で一際大きい木がそびえ立っているだけだった。
そう言って疑問に思っていると、シュウはこちらも向いて得意げに言った。
「ふっふ〜ん。そう見えるでしょ?ほらこっち来て!」
そう言ってシュウはまた僕の手を取ると、この巨木の裏側に連れていった。
そこには大きな洞穴のようにぽっかりと開いた穴があった。
「ここよ!ここが私のお家。そして私たちのお家になるところよ!」
誇らしげな顔をしてシュウは言った。
確かにかなり広い。僕達2人で寝泊まりするには十分過ぎる広さだった。
ただし、寝泊まりはできる。だが、生活をするに必要な衣食住の「住」しかないように思える。
「あの…シュウ?ここで寝ているのはわかったけど、ご飯とかはどうしてるの?」
僕は誇らしげにしているシュウに聞いた。
そうするとシュウはまた誇らしげな顔をしてこういった。
「ふふん。そうでしょうそうでしょう。当然気になるわよね?聞いて驚かないでよ?」
僕は小さく頷いた。
「仕方ないわね〜。お母さんには誰にも言っちゃダメって言われてるけど、友達には教えてもいいはずよね?」
なんだ?そんなに勿体ぶることなのか?
「いいから。教えてよ。」
僕は少しだけ不満感のある声で催促した。
「教えるから怒んないでよ〜。あのね私ね」
「未来が視えるの」
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