第5話 森と赤目の少女

「…は?」


思わず声が出た。え?なんで僕は森にいるんだ?一体どうやって?ていうかここどこ?


「あいつここに僕をどうやって…って聞いてもどうせ答えないか…」


そう思って1人で状況を整理しようとしたその時声をかけられた。


「あ!やっと起きた!大丈夫?どこか痛いとことかない??」


澄んだ綺麗なことりのような声に思わず振り向いた。女の子だ。小柄で小さい、きっと僕と同じ子供だ。初めて見た。というかこの子の目って…


「赤い…目…?」


しまった。また声に出ちゃった。

恐る恐る顔を見ると、その子は満面の笑みを浮かべながら答えた。


「そーなの!やっぱり初めて見た??なんだか生まれつき赤い目なんだ〜私!」

「私もねぇ、あなたみたいな黒髪の人初めて見た!どうして黒いの?生まれつき?それとも染めたり??」

「ていうか、なんでこんなところであなたは寝てたの??もしかしてあなたも捨てられちゃったの?」


あまりの圧に思わず僕は若干引きながら、少し戸惑いながら答える。そらそうだよ。僕初めて同世代の、しかも、女の子と話してるんだ。許してくれ。


「こ、この髪は生まれつきで、色々あって村から逃げてきたんだ。ていうかあなたもってどういう…」


「そーなんだ!いやぁ私はねぇこの目のせいで村から追い出されちゃったの。赤い目とか不吉だ〜とか色々言われてさ?今はこの森で1人で暮らしてるの!」


明るく話してるけど、それってめちゃくちゃ危ないことなんじゃないのかな。森に子供1人だけなんて危険すぎる。ていうかなんで僕こんな事分かるんだろう。まぁいいかそんなことは。

なんて考えてると、あの子が「そうだ!」って言って手を叩いた。


「あなた、行くところがないんでしょ?なら私と友達になって!そして一緒にいようよ!1人より2人の方がきっと楽しいもの!」


友達…?僕にも友達が?すごく嬉しかった。

だけど、僕は…僕は…


『いいんじゃない〜?あるじ〜』


「うわ!」


びっくりした。なんであいつの声が…


「どうしたの?」


女の子が僕の顔を不思議そうに見る。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと枝に驚いただけ」


「そう?」と首を傾げながら僕の顔を見つめる。そんなことより今は…


『なんで、会話できるの』


『一つ目の選択を終えたことにより、干渉の制約が少し緩くなったのさ〜。だから、これからはいつでも俺はあるじと会話できるってわけ』


なんだよそれどういう原理だ。


『色々聞きたいことがあるけど、この子と友達になるわけにはいかないよ。だって僕は化け物だ。いつまたあの大人たちが狙ってくるかも分からないのに。』


この子を巻き込みたくはない。一人でいるよりももし巻き込んでしまった時の事を考えた時の方がずっと辛いから。


『その時はまたその時考えればいいのさ〜。第一この子もこんな所で1人でいることも危なくない??個人的にはせっかくあるじにガールフレンドが出来そうなんだもん。こんな事もう起こんないかもだぜ??』


こいつの言う通りだ。ガールフレンドは余計だけど。


『それはそうだけど……』


『今の選択で後に後悔するぐらいなら、今後悔しない選択をするべきさ。ていうか、あいつらは今はまだ追いかけて来れないよ〜』


今、めっちゃ聞き捨てならないこと言ったぞこいつ。


『え、なんで?ていうか僕は一体どうやってここまで来たの?』


『それは教えられないな〜。干渉ができる範囲を超えてしまうからね。』


肝心な1番聞きたかった事をはぐらかされた。


『またそれか…まぁいいや。わかった』


なんてあいつと話してると、あの子が僕の方を向いてふくれっ面で言ってきた。


「ちょっと!何ぼーっとしてるの!友達になろうよ〜!」


そう言うと肩を掴んで僕を揺らしながらダダを捏ね始めた。


「わ、わかったよ。友達になろう。だからゆらさないで!」


「ほんと!?やった!!じゃあ名前!私の名前は〚シュウ〛って言うの!あなたは?」


「ぼ、僕は…」


僕に名前なんてない。だって生まれてから名前をつけてくれる人なんていなかったし。


「もしかして名前が無いの?」


悩んでいたらシュウが僕の顔覗き込むように聞いてきた。


「うん。そうなんだ…ごめん…」


そう答えると、シュウはまた笑顔で言った。


「なら私が名前つけてあげる!そうねぇ…〚クロ〛!髪が黒いからクロはどう?きっと世界てあなた一人よ!いいと思わない?」


クロか…。嫌じゃないけど、どうしても聞きたくなってしまった。


「…僕のこの髪色。怖くないの?」


そう言うと、シュウはあの赤い目を丸くしながら笑った。


「何が怖いの?とても綺麗でいい色だと思う!私は好きよ?その髪」


初めて言われた。そんな人もいるのか。


「…どうして泣いてるの?もしかして嫌だった?」


あれ?僕なんで泣いてるんだ?そうか。初めてなんだ。全部。

普通に会話したのも、名前を教えて貰えたことも、この髪を見て好きだ言われたことも全部。心配そうな顔をするシュウを見て僕は慌てて答えた。


「ううん。大丈夫。なんだかとても嬉しくてさ。〚クロ〛うん。いい名前だねありがとう。今日から僕はクロと名乗ることにするよ。

そう言って涙を拭った。


「そう?良かったわ!それじゃあクロ!これからよろしくね?」


そう言うとシュウは手を前に出した。僕がキョトンとした顔をしていると、シュウは近づいて僕の手を掴んだ。


「これは友達になった証の握手よ!友達になった人はこれをするんだって昔お母さんに教えてもらったの!これで今日から私たちは友達よ!ね?」


「なんだよそれ…」


そう言いながら僕は笑った。いやまた泣いてしまった。

握られた手は僕より少しだけ小さくて、とても暖かった。

そっか。人の手ってこんなに暖かったんだ。


そして僕は「名前」と初めての「友達」ができた。

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