第八十九話 生まれて初めての反撃5 目覚め先はあの世ではなく豪華な寝台の上
身体を包む柔らかな感触と、ほのかな温もり……
花のような匂いがふわりと鼻をくすぐる。
白い光がまぶたを刺激し、自分が目を閉じていることに気がつく。
俺がゆっくりと目をひらくと、満開の
季節が変わっている?
どこだ。ここは? あの世か?
いや。そんなわけはない。あまりに細密だが動きはなく止まったままだ。ただの絵だ。
それに身体が痛い。自覚した途端に鳩尾に激痛が走る。
……痛すぎる。
クソッ! モーガンのやつ、少しは手加減しろよ!
そうだ。俺、モーガンに殴られて……
ネリーネ! ネリーネは⁈
ハッとして起きあがろうとしたが、身体に力を入れると痛みが襲い身動きが取れない。
「ゔぅ……」
情けないうめき声が漏れる。
近くでバタンと何かを勢いよく閉じる音とそのあとに衣擦れが続く。
「ステファン様!」
「ネリーネ……?」
化粧が崩れたままのネリーネと目が合う。まだ頬は涙で濡れている。つまり、俺が気を失ってからそれほどは時間が経ってないということだ。
「……よかった」
俺が倒れている隙にネリーネがモーガンに連れ去られるようなことはなかった。
俺が力無く伸ばした手を、小さな愛らしい手が握りしめる。
あぁ。今日もネリーネは可愛い。
「何もよくありませんわ」
眉をひそめ、皺くちゃの顔で俺を睨みつけ、手を握りしめる力が強くなる。
「殴られたくらいで気を失ってしまうなんて、軟弱すぎますわよ。貴方が
どうせ俺なんか有事の際は役立たずだよ。
そう言い返したくなるのをぐっと我慢し、ネリーネの次の言葉を待つ。
ネリーネの瞳から再び涙がこぼれて、唇が震える。
「本当に心配いたしましたのよ? 最近ずっとステファン様とお別れしなくてはいけないと思い悩んでおりましたけど、このままステファン様がお目覚めにならなかったら、こんな形でお別れせねばならないのなんて考えてしまって、涙がとまりませんでしたわ。もう、こんな心配させないでくださいませ」
心の底から俺を心配して、涙を流してくれる少女なんてネリーネしかいない。
「あぁ……胸が苦しい……」
ネリーネの可愛さに俺はたまらずそう呟いた。
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