第十四話 職場にて2 会いたくない相手が勝手に会いにやってくる
同僚達と歓談しながらスープを口に運ぶ。温かなスープを飲めば食欲もわくかと思えばまったく味がしない。パンはボソボソとして口の中の水分を持っていかれるだけだった。周りの奴らは美味そうに食べているから俺の舌が馬鹿になったようだ。
「おい。お前『社交界の毒花』と結婚するんだって?」
後ろから威圧的な声がしたが声の主は振り返らなくてもわかる。
モーガンだ。
ますます食欲が減退する。
「あぁ、悪い悪い。貧乏貴族の息子は社交界なんて縁がないから、自分の縁談相手がそんな悪名高い女だなんて知りもしないか! アッハッハッハッ!」
喧騒の中でも高笑いは目立つ。周りの視線をひしひしと感じる。
「あぁそれとも金のための結婚か? 毒花令嬢なんてまともな貴族は取り合わないが実家の資産は魅力的だもんな。お前みたいな貧乏人には『喉から手が出るくらいのお相手ですぅ』ってことか」
同僚達の憐憫の眼差しが痛い。俺はパンをちぎりスープに投げ込み一気にかっこむと立ち上がった。
「おい! 返事くらいしろよ! お前の将来の
無視を決め込もうとしたが激昂したモーガンに肩を掴まれた。
チッ。相手しないわけにはいかないか。俺は諦めるとモーガンの手を払い除けて向き合う。
「……あぁ、俺に話しかけていたのか。モーガンが食堂なんかに来ると思わなかったから気が付かなかったよ」
「はっ。まぁそりゃそうだな。お前を祝ってやろうと思ったからわざわざ来てやったが、食堂なんて俺様が来てやる様な場所じゃないからな」
モーガンは羽振りがよい。モーガンの実家も俺の実家と同じ様に男爵家だが、モーガンの実家がマグナレイ本家から管理を任されている土地は、モーガンの祖父が生前に綿花栽培に力を入れ織布工房を建てるなどし莫大な収益を得ている。昔ながらの領地のあがりだけで暮らしている様な子爵家や伯爵家よりも金がある。自称未来の侯爵のモーガンは俺たちみたいな名ばかりの貧乏貴族の溜まり場になっている食堂を毛嫌いして家格の高いお坊ちゃま達と街の食堂やレストランに通っている。小綺麗にしているモーガンは、本物のお坊ちゃま達に囲まれていてもなんら遜色ない。
「こんなしみったれたところにずっといたら俺までしみったれてきちまう。うわぁ。そこの見習いなんて馬鹿みたいに山盛りにして。浅ましい。ここでしか飯が食えないのか? あーやだやだ貧乏人は。さて、俺はお前らがいけない様なレストランで食事をとってくるかな」
さっさと立ち去ればいいのに、モーガンは俺と一緒に食事をしていた同僚達を見回す。若い文官見習いの格好をした男を攻撃対象に定め、悪態をついてから去っていった。
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