第九話 最悪な第一印象3 これは男のサガだ!
マグナレイ侯爵を追いかけ、裏庭に出た俺は目を見張る。
青空の下で緩やかな勾配をつけた丘いちめんに広がる緑の芝生。石畳の
強い日差しに負けずに多種多様な花々が咲き、そこかしこに花畑が形成され庭園を彩る。色とりどりの花達は咲き乱れていても庭園の中で不思議と調和しているのに、そこで偉そうに踏ん反り替えって立っている毒花は一人で不協和音を奏でていた。
頭に突き刺していた羽根飾りから、首が折れそうなくらいの装飾品が大量についたピンクの大きな帽子に替え、日除けになるとは思えないゴテゴテとした小さな白い日傘をさしている。
「では、湖のほとりに設けた
そう言ってマグナレイ侯爵はエスコートの為にロザリンド夫人に腕を差し出す。
屋敷の執事を先頭に侯爵達は歩き始めてしまったため、俺と毒花は取り残される。
慌てて追いかけようとしたが毒花は動こうとしない。
「ネリーネ嬢もどうぞ」
置いていくわけにもいかない為、社交辞令で俺もマグナレイ侯爵を真似て腕を差し出す。
毒花が俺の腕をとるとフニュンと肘に柔らかい感触があたった。
あっ……⁉︎ えっ! こっこの感触は! おっぱ……!
幼い頃母に抱きしめられたのを最後に大人になってから久しく味わったことのない柔らかな感触に動転する。
バクバクと心臓がうるさい。
おっ落ち着け。相手はあの感じの悪い毒花令嬢だぞ。
クソっ。何か思考を巡らし気を逸らさなくては……
そう考えても、頭の中は柔らかな感触に蝕まれて思考はままならない。
なぜ毒花は俺に胸を押しつけたんだ。女性が意中の男性にわざと胸を押しつけるという市井の噂を聞いたことがある。いや。まさか。
そっと斜め下を盗み見るつもりが視線が止まりゴクリと喉が鳴る。そこには柔らかそうな丸みを帯びた大きな肉塊がドレスに包まれて鎮座していた。押し付けてきたわけではなく大き過ぎて自然とぶつかってしまった事を察する。
「一人で歩けますわ」
ドスの効いた声の主の顔を慌てて見ると、侮蔑した表情で見つめ返し俺の腕を払い除けてきた。
……クソ! わざとじゃない。胸元に視線を送ってしまったのは男のサガだ。別にお前なんかいやらしい気持ちで見ていない。いくら俺がモテないからってお前みたいな乳がデカいことしか取り柄のない性格の悪いクソ女なんて願い下げだ!
「……では、お先にどうぞ」
毒花はその言葉にフンと鼻を鳴らし俺を置いて歩き始めた。
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