第八話 最悪な第一印象2 社交界の薔薇とクソジジイのロマンスなんて興味ない
自己紹介を終え押し黙った俺に、毒花はやり込めたつもりにでもなって気分が良いのだろう。素知らぬ顔をして茶を飲んでいる。
俺と毒花に会話は一切発生しない。
だというのにお見合いの首謀者であるはずのマグナレイ侯爵は俺たちにお構いなしで相好を崩しロザリンド夫人にばかり思い出話に花を咲かせている。
そんな中ロザリンド夫人が俺たちに話題を振る事も忘れず、表面上は会話が弾んでみえる和やかな見合いの場を取り繕っている。
さすが社交界の薔薇とでも言うべきか。
──当時、社交界の薔薇と呼ばれたロザリンド夫人は、父ほど歳の離れた夫であるデスティモナ伯爵が論客揃いの若者たちを自宅に集め
今でもマグナレイ侯爵は憧れのロザリンド夫人に義理立てし、生涯独身を誓っているなどと語られている。
まことしやかに語られるその話を荒唐無稽と取り合っていなかったが、目の前で真実を突きつけられては信じるしかない。
「そうだステファン。庭でもご案内したらどうだ」
話題が一旦落ち着いて、訪れた束の間の沈黙も惜しんだのか、突然そう提案され俺は面食らった。
「あら、素敵だわ。マグナレイ邸の裏庭は散策して花を楽しむための庭園と聞き及んでおりますわ。いまはどんな花が見頃かしら」
「樹木ですと
老執事が如才なく答える。
「まぁ。ネリーネちゃん楽しみね」
「外に出るための装いに替えるだけの価値があればいいけれど」
毒花は面倒臭そうな口ぶりだ。庭の散策のためには、毒花とロザリンド夫人は外に出る準備が必要だという。まぁ、あの頭では帽子はおろか日傘すら刺すのは難しいから仕方ないのだろう。
毒花たちが去り静かになった応接室で俺はマグナレイ侯爵に向き直る。
「初めて来た屋敷の庭なんぞ私に案内できるとお思いですか」
「流石にそうは思わんさ。私も行く。おい、ヨセフ。付き添え」
ヨセフと呼ばれた執事がマグナレイ侯爵に恭しく頭を下げて外に出る準備のため退出したのを見届け、胡乱な視線をマグナレイ侯爵に向ける。
「要は、若かりし頃の憧れの君であるロザリンド夫人にお近づきになるための画策だと言う事でしょう?」
そう言われてマグナレイ侯爵はニヤリと笑う。
「さて、どうかな?」
「信じられません。自分の恋路の為にこんなとんでもない事をするなんて!」
「ステファン。恋は人を狂わせ愚者にする。よく覚えておけ」
クソジジイ!
俺は心の中で叫び、高笑いをしながら立ち去るマグナレイ侯爵に毒づいた。
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