第32話 対決――鳥獣人のデュース

「ククククク。。。ちょうどいい――ちょうどいいぞ!

麻薬の流通ルートが漏れ始めたところだったんだ。

農家なんてバカな連中だよ。

育てることしか考えてない。

だからバレるし、罪を擦り付けようにも主犯になれるようなやつはいねぇ

でもよ――誘拐犯のお前らなら麻薬の販売くらいやってるだろ?

ククククク。。。」


口早に聞き取れないような言葉を唱えるとデュースの周りに風が起き、竜巻のように砂を巻き上げると風を受けようと両手を広げそのまま空高くへ舞い上がっていった。

「ククク。。 くらえ!」


ドッカン!


頭上から急転直下、ものすごいスピードで矢のように降って来たかと思うと

爆音を立てて地面を陥没かんぼつさせた。

砂ほこりで視界が悪いなか再びあの詠唱が聴こえだす、ホコリに身を隠し、呪文を唱えて空に飛び、そして落下攻撃を繰り返す。

一度ループし始めたら容易く止めることはできない。

先手を取られた。

陥没かんぼつが増えて俺たちの逃げ場が削られ、追いつめられ始めている事に気が付いたが、あいつが唯一姿を現すのは上空の高いところなので俺たちは攻撃をするすべがない。


「ファイアボール!!!」

「ククククク 避けるわ!」


リーファのファイアボールも距離が遠いために簡単に避けられてしまった。

こうなったら。

「アケミ こっちだ!」

俺はアケミの手を握ると走れる残り少ない場所をひた走る。

デュースからしてみれば上空から野ネズミが逃げるさまを捕らえるタカのような気分だろう。

逃げろ――もっと 逃げろ―― そこがお前たちの墓場なのだから。

デュースは 狙いを付けると急降下を始めた。

もう 些細ささいな軌道修正しかできないが動きの読める敵が相手ならそれは容易い。

むしろ 今まで逃げ場を奪って敵が動揺をするのを待っていたのだから。


「ククククク 死ね!! ん?」


土ぼこりがたったかと思ったらトシユキとアケミの姿が消えた。

かすかに動かせる首を上に持ち上げるとそこには アケミにおぶさったトシユキの姿がある。

まさか アイツらも飛んだというのか?

ならば 次だ!

そう思ったが下降の衝撃に耐えようと前を向くとそこには 丸いシャボン玉が置いてある。


ドッカン!


「うわぁぁ」


スキル:ダメガネを付与しました。


デュースは再び呪文を唱えると風を起こして高く舞い上がったが、よくわからない方向へ下降を始めてどのまま――ドッカン――と音を立てて地面に突き刺さった。


「ふぅ 俺たちの勝だな」

「トシユキったら いつまで触ってるのよ!」


デュースが急降下を始めたときにアケミが地面に向かってセクシーショットを撃てばその衝撃を利用して少しだけ高く飛べるので後は俺がオナラ玉バブルクラッシュをタイミングよく地面に落とすだけ。

デバフの効果で視力がおかしくなったデュースはそのまま地面に突き刺さったってところだろう。

それにしても――アケミって――気持ちいいな 

女は男を喜ばせるために生まれてきたのかもしれないし違うかもしれないが俺は気持ちよかったぜ。


「ファイアボール!!!」


突然俺の顔面にファイアボールが飛んできた。

ドッカン!

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


顔面が丸焦げになって倒れこむとリーファが近づいてきた。

「大丈夫か?――トシユキ――心配する――私だけ ふふふ」


こうして俺たちは何とか農園を抜けて目的地のある隠れ家べっそうに着いた。お年寄りが休みの日に余暇を楽しむならちょうどいい広さの家だろう。

テラスがあり、カンバスがある。

絵でも描くのだろうか?

奥は会議でもできそうな大きなテーブルがあるのだが、ポツンと――一冊の本、、、、――が置かれていた。

この世界に来て文字を覚えてから書かれているものを見るとそれなりに興味がそそられる。

それは 日記なのか?小説なのか?自伝なのか?

生理現象のように気になってしまう事が、人間にはある。

今がそのときだった。

タイトルを読むと「ギルド帳簿」と書かれている。

なんだ。

中身を見ても数時しかかかれていない俺には興味のない物だった。

「でも ギルドの帳簿がどうしてここに?」


1日がたった。

ギルドのスリースターと呼ばれていたヴィクトリア、デュースが実は犯罪者だった。

最後に残ったラムネの気持ちを考えると――少し心がいたいな――これから一人でギルドの看板を背負っていくのだろうか?

ならず者と言っても、悪いタイミングで童貞をこじらせた奴らばかりだ。

そんなシャイな連中の希望にならなければいけない。

あの――毛に覆われた全裸のような――野生溢れるあの体で――ムヒヒ


「見つけたニャ!!助けにきたニャ!」


ラムネだ。

ラムネの声が聞こえたぞ。

俺たちはようやく無罪放免むざいほうめんになったんだ。

囚われていた人たちが真実を話してくれたのかもしれないし、デュースが倒れたことで麻薬の流通経路が露見ろけんしたのかもしれない。

どちらにしても街に変えることが出来る。

そう思うとドッと疲れが出てひざが笑った。

これだけ苦労したんだから 帰りはラムネの背中に乗って帰りたい。

フサフサの毛を触りたい。

そして――出来ることなら胸元に手を滑らせたり、させなかったり――なんてことが道中で起こるかもしれない。

俺は外に出ようと思ったが一つ気になった事があった。

ギルド帳簿、、、、、――まさかな」


俺はドアを開けるとそこには笑顔のラムネがいた。

ヴィクトリアのこと。

デュースのこと。

それぞれの状況を説明するとラムネは「実は二人の事は知っていたのニャ」という。

知っていたというのはどういう事だろう?

薄々感づいていたという事だろうか?

あの後、ヴィクトリアとデュースは俺が犯人だとギルド内をふれ回ったそうだけど、

そのとき偶然、どこからともなくヴィクトリアとデュースが犯罪者であるという証拠や証言が次々と届いたらしい。

おかげでギルドは大混乱。

その混乱を鎮めるためにラムネは俺たちを連れに来たのだという。

「トシユキよ 二人の犯罪者を退治したお前たちが新しいスターになるのニャ」


ギルドのトップになるという事はFランクの依頼をこなさなくてもよくなるという事だ。

「それはいい。あ!そうそう ギルド帳簿って本を見つけたんだけどギルドと関係あるのか?」

何気なく聞いたんだ。

少し浮かれていたというのもあるかもしれない、本も偶然持っていたし、数歩軽やかなステップを踏んでから振り向きざまに見せたんだ。

ギルド帳簿を ただ見せただけだったのに。

ラムネは黙ってしまった。

黙ってうつむいて――何かを考えている。


「汚職のことまでバレていたニャんて――スキル:心抜刀!!!ゴロニャン


俺の心は真っ二つに斬られた気がした。

これが無気力、肉体に損傷がないというだけで――これじゃ動けない――意識が遠のく。バタン

でも 最後に声が聞こえた。

ミリーの声だ。

「カオスブレード!!!」

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