第31話 大切に育てた農園

一目散に逃げだしてきたけど、どこへ逃げればいいものか?

しばらく身を隠す必要があった。

囚われていた人たちが元気を取り戻してヴィクトリアが犯人だと証言してくれればすぐに解ける誤解なんだ。

ギルドに運ばれて手当を受けて意識が確りすれば、その後は大騒ぎを始めるだろう。

そうすればギルドにいる人たちヴィクトリア悪い奴だという事に気が付いて俺の容疑も晴れるはずなんだ。

身を隠せて見つからない場所に隠れてそれまでの時間を稼がなければいけない。

どこに隠れる??


「クン・・クン・・」


ロリがクンクンと鼻を鳴らすような声を上げた。

大事な事を忘れていた。

食事をご馳走してくれた老いた寂しいエルフのためにもこの犬を届けなければ、、、、、、、いけない。

幸いなことにツリーグルの依頼を受けた事はギルドには秘密にしているので

俺たちがツリーグルの屋敷に立ち寄ったとしてもギルドの連中に気付かれることはないだろう。

それよりもいっその事 ツリーグルの屋敷にかくまってもらったほうがいいのかもしれない。

報酬なんて要らないから犬を見つけたお礼に少しだけ実を隠させてもらうというのはどうだろう?

別に犯罪者をかくまう訳じゃない。

冤罪えんざいなのだから褒められこそすれ非難ひなんされることはないのだ。

「リーファ俺たちがこれから向かう場所だけど・・」

「覚悟 出来てる トシユキと どこまでも。。」


「ちがう そうじゃない」

「そうか。崖から一緒に飛び降りるのか?トシユキとなら・・うふふ

冗談、ツリーグルの屋敷 逃げるか?」


思わずズッコケそうになったけど、リーファもアケミもミリーもどうしてこう自然体と言うか、マイペースというか、死なないとでも思っているのかもしれない。

ラムネは相手の心を奪い、でも実は爪でひっかいてくるような猫みたいな攻撃をしてくるんだぞ。

言うならアケミとミリーを混ぜたような攻撃・・・

アケミとミリー・・・

巨乳と二刀流のローブとか――ムフフ。

それも悪くないけど、じゃぁ ぺちゃぱいのリーファはどうする?

仲間外れは可哀そうだろ?

ん~ どうすればリーファを助けられる?ん~。。。


「トシユキ!」

「はぁ!」


「お前ら マイペース過ぎだぞ。ツリーグルの屋敷に行こう!」

「おー!」


こうして俺たちは大理石の突き出た道を進みツリーグルの屋敷に向かった。

「ポッポー」

「ハトか」

庭を進んで屋敷の扉の呼び鈴を鳴らすと、執事が出てくるかと思いきやツリーグル本人が現れた。

ロリを抱きかかえると子供のようにほおずりをしてヨダレまでたらしているのか?犬のヨダレなのかわからないけど、グチャグチャな顔だ。

「よしよし ロリ よしよし ロリロリロリロリロリ」

「変態?」


紳士的なふるまいをしていたツリーグルがしばらくしてから自分の様子に気付いたようで

咳ばらいを二~三回すると突然品のある雰囲気を出し始めた。

もう遅いのかもしれないと思っているのか――エルフのイメージを守りたいと思っているのか――わからないがひたいから流れる汗が痛々しい。。


「報酬を渡さねばな」

「その事なんですが・・・でして、かくまってほしいのです」


ツリーグルはすぐに俺たちの言うことを理解したようだった。

エルフと言うのは頭がいいのだろう。

普通は いくつか質問をしたり何かしらの証拠を要求するだろうしそれが不要だというのなら

信頼が厚い間柄か――ただ俺たちは知り合ったばっかり――リーファがエルフだから、そうなのかもしれない。


「じゃが――ワシは元々、ギルドの連中とは仲が悪くてな。

万が一のことがあってもいかんし、この地図を見てほしい。

実はな――ここの場所はワシの隠れ家べっそうがあるのじゃ。

しばらくここに身を隠してはどうかのう?」


地図を広げるとツリーグルは指でなぞってルートを何度も説明してくれた。


「道を通っては見つかる可能性がある。このルートを通ると途中で農園のような場所に出るはずじゃ

そこを真っすぐに進むと隠れ家べっそうへは簡単にたどり着くことが出来るじゃろう」


俺達はツリーグルから色々と荷物の詰まった袋を受け取るとルートをペンで書いてくれた地図を受け取って出発をした。

地図にはう回路がわかる様に線が引っ張ってあって農園のところにバツ印が付いている。

まずはココを目指せという事か?

砂漠なら何もないので歩きやすいがここは王国があった場所なのでガレキがあったり若干だが丈の長い植物なんかも生えていたりする。

農場があると言っていたけどきっと身を隠しながら進むにはちょうどいいだろう。

「トシユキ――私――どこまでも付いて行くわ」


リーファの言葉が逃避行中の犯罪者のような――捕まっちゃいけないぞ!って気持ちにならなくもないが、俺達は冤罪なんだ。

少し身を隠していればギルドの連中もきっとわかってくれるはず。

そう思っているとヤシの木に囲まれた何かが見えてきて囲まれた中には整備のされた植物が規則正しく植え付けられていた。

一体何の植物なのかわからないけど 確かに上からでも見ない限りは気づかれることもないだろう。

でも 中央辺りまで進んだ時に事態はあらぬ方向へ変わってしまった。

ガサガサという音がして近づいてみると、大きななたを振り回して収穫作業をしている農家の方たちがいる。

ヘラヘラと笑いながら楽しそうに作業をしているようで、何が楽しいのかわからないけどーー手塩にかけて育てたオラの野菜、と言ったところだろうか?

収穫が嬉しいに違いない。

「こいつは 上物だぜ!がははは」

「おい! 気を付けろ! 葉っぱ一枚無駄にするんじゃねぇぞ!」


やっぱり農家の人たちと俺達との感覚と言うのは違うようだけど、でもこういった人たちがいなければ俺たちの生活がままならないのも事実なわけで――コショウ一粒金の山――これは違うか・・でも、この人たちの感覚はこのくらいずれているように見えた。

農園を抜けてヤシの木に差しかかったちょうどその時に上から何かが降ってきた。


ドッカン!!!


地面が陥没したかと思ったら誰かいるぞ。


「お前は!鳥獣人のデュース!!」


「見つけたぞ――スパイどもめ!!」


「違う。俺たちは冤罪えんざいなんだ!囚われていた人たちの話を聞いてくれ!」


「何言ってやがる―― そうだ!お前らは確か誘拐犯の疑いが掛けられていた奴らだな。

だが――どうでもいい―― この!麻薬畑を見られて生きて帰れると思ってるのか!」


「麻薬畑だって!」


農園に植えられていたもの――農家の方が大切に育てていたもの――それは麻薬だった。

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