第13話 セクシーショット

俺の肩に手が載せられる。

振り返るとミリーの手が載せられて確りと肩を掴まれた。

顔を見上げて視線を見るとミリーの顔には力強さがあった。


「あいつら試験会場にいたバルとか言うやつと仲間だな。トシユキよ 追いかけぬのか?」


追いかけなくちゃいけない。

腕輪のせいで可笑しくなったリーファをほったらかしにしておくわけにはいかないだろう。

俺は立ち上がった


「行くに決まってるだろ?ほったらかしに出来るわけがない」


走り出そうとしたときにアケミの言葉に足が止まるが

考えは廻らない


「追いかけるってことは どうなるかわかってるの?(あんたちょっとだけ カッコいいかも)」


外に出て探し回ってみたが 朝の露店街が賑やかなタイミングのせいか

バルの奴らがリーファにローブでもかぶせたのかわからないが探し出すことが出来ない。

昼に近づき人込みが少なくなってきたころに聞き覚えのある太い声に呼び止められた。


「お前たちじゃないか?!探したぞ」


声をかけてきたのは兵士長だ。

社交的な挨拶を軽く済ませて去ろうとしたが兵士長自らも俺達を

探していたという話になった。


「本部よりヤツの手がかりが手に入ったと連絡が来た。

ジークという男なのだが

おそらく お前たちの初任務はジークという男を探すことになるだろう。」


エルフの長老を誘拐した仲間の一人のジークの名前が出てくるとは思わなかった。


「ジークだって?」


兵士長はあごひげをさする

「まさか 知ってるのか?

・・・エルフの里がな・・・そうだったのか?

アイツは我々を裏切ったお尋ね者だ。

夜道も進めるラクダを手配しているから 今日の夕方には出発できるだろう。

それまでに支度を整えておくように。来ないものは逃げたとみなす。以上だ」


手分けして探していたアケミとミリーと再び合流をして二人に兵士長との話をした。

こんなときに出発が早まって驚いた様子だったが早くリーファの正気を元に戻して

連れ帰るしかなくなった。

アケミは太陽に手を空かして日の光を覗き込んだが日の光はほぼ真上から差し込んでいる。


「出発に間に合わなくなるかもしれないわ。元の世界に戻れなくなっちゃう。(でも リーファにどんな説得をすればいいのかしら?)」


ミリーがぽつりとつぶやいた。

「なあ 私たちよりも兵士長たちの方が人探しにたけているのではないか?現にトシユキを見つけたではないか?」


元々探すと言っても俺達にはこの街の土地勘もなければ人探しは素人だ。

ひょっとすると 兵士長たちのほうが先にリーファを探しているかもしれない。

俺達は 兵士長たちが宿泊している宿へ向かった。

宿へ行く道中で 男が一人立ちすくんでこちらをじっと見つめていた。

「トシユキよ お前にリーファ様より手紙を預かっている」


手紙を読むとリーファも今日の夕方に出発しなければいけない事を知っているようだったが

その手紙には「行かないで!」と書かれており簡単な地図らしきものも添えられていた。

夕方 ここへ来てほしいという事だ。


アケミが改めて手紙を読むと心配そうに俺の目を見てきた。

いつもなら声になって心の声が聞こえてくるはずだけど 

不安の感情がダイレクトに伝わってくる。

もしかして アケミはリーファを置いて先に進みたいのか?

だから 言葉にできない感情が流れ込んでくるのか?


俺も元の世界に帰りたい。

だけど すぐには決められない。 

夕方の直前まで悩んでから結論を出したいと思った。

俺は 人生の選択を先延ばしにしているのか?


日の光がじりじりと熱を伝えてくる。

お昼ご飯何て食べる気も起きないし、ミリーが心配して露店で

トマトの入ったトルティーヤを買って来てくれたが のどの渇きを潤すために

数口しか口に入れられなかった。


俺は子供の頃の夢は奇麗なお姉さんのおパンツを手に入れることだった。

それからインフルエンザの予防接種のときに キュートな看護師のお姉さんを好きになって

おパンツなんてどうでもよくなった。

俺は将来医療関係の仕事に付きたいって本気で思ったんだ・・・。


俺は考えるよりも先に 小走りを始めていた。

ミリーが後から付いてきて「どっちへ行くのだ?」と聞いてきた。

兵士長のところか?

それとも リーファのところか?

屈折した俺の心が足を進る先は決まっている。

石畳の細い路地を進み

ゴミ箱をひっくり返し

さらに壁の迫る細く薄暗い路地を抜けていくと

もうすぐだ。


「決まっているさ!リーファだぁ!!」


・・・・・

近道だったのか思いが強かったのか 夕暮れよりも早く俺達は到着した。


「リーファだ!」

リーファたちは俺を待っている。

もしかしたら 心が残っているのか?

だけど見た目は朝に出会ったときよりも妖艶な姿に変わりつつある

バルたちが化粧品でも買い与えたのか

慣れない化粧のせいで悪役のエルフといった容姿に変貌していた。


「トシユキ! 何しに来た?!」


外野のバルたちもリーファと一緒に声を上げる。

「そうだ! そうだ! 何しに来たんだ!」


それでも怯むわけにはいかない。

「俺の話を聞いてくれ」


リーファは小石を投げて睨みつける。

「トシユキ 選べるのは。。先に進むか?私か?二つに一つ」


「待ってくれ」


リーファの顔がゆがむ

「私の苦しみ あなたは知らない。ファイアボール!!」


最初は小石を投げつけていたが徐々に小さなファイアボールを撃ち始めた。

ダメージを受けると体が熱くなり

ニンニクマンへと 体が変身しようとなるが

必死に抑えて リーファに近づく。


「ファイアボール! ファイアボール!」


近づけば近づくほどに ファイアボールの威力は強くなり

とうとう顔からは涙が出始めた。


「私の苦しみ あなたは知らない・・・ファイア。。ファ。。」


呪文も唱えられないほど何を我慢しているというんだ。

「ああ わからないね。バルたちに乗せられて腕輪を付けて、

先に進むなだと? そんなわがままな女だとは思はなかった。

でも もういいだろう?

俺はバルたちの策略にハマるのもイヤなら元のリーファじゃないのもイヤなんだ。

元のリーファがいいんだ。戻ってきてくれ」


「そんな 答え ずるい・・。・・・・。」


リーファは何もしゃべらなくなった。

だけど 右手の腕輪に手をかけるとスルリとその腕はを外して微笑んだ。


「なーんちゃって!!きゃはぁ! 私 こんなものに負けない」


なんだ。このアイテムは見た目の変わるだけのウソアイテムか?

腕輪を外したリーファは 猛スピードで駆け寄って来て抱き着いた。

ファイアボールを何度も食らってボロボロの体だったけど 

そこは最後のニンニクパワーを振り絞ってメリーゴーランドのようにグルグルと回った。

そして 目が回るほど回り終わると「寂しかったか?」と聞いてきた。


「仲間だからな。それより その顔モンスターみたいになってるぞ」


リーファは手鏡で自分の顔を見ると涙でぐちゃぐちゃになっていることに気が付いた。

不審者のようにキョロキョロとするがもう遅い。

ずっと 悪役のような顔で話をしていたのだからトシユキの返事が

どうこう言う資格は自分にはない。


アケミがカバンのようなものを持ってきた。

「これでしょ?」と言って 箱を空けると中からは化粧道具が出てきた。

アケミは手馴れた手つきで 半べそのリーファをあやすように化粧を施した。


「アケミ ありがとう。ふふふ。わたし 可愛い。」

「ええ あなたはソフトなお化粧の方が似合うわ」


「そうだ。この腕輪 アケミにあげる」

「いいの?」


「わたし もういらない」

「ありがとう リーファ」


アケミもご満悦で腕輪をハメた。

ただ これ以上魅力は上がるのだろうか?

胸が大きくなっても不自然だし顔が大人びてしまっては年齢相応の可愛さの方が失われてしまう。

いっその事 イメチェンでツインテールにでもなるのだろうか?

俺だけかもしれないがアケミの変化に生唾を飲んだ。

だけど 腕輪を付けたアケミには一向に変化が起きない。

すでに魅力MAXってこと??

どこからか声が聞こえてきた気がした。


※スキル:魅了を獲得しました。

ナイスボディーと魅了を獲得したことにより、条件達成!

エクストラスキル:セクシーショットを獲得しました。


「待て! リーファさんを返せ!」


だけど バルたちがこのまま引き下がるわけがない。


「リーファは お前たちのものじゃない。俺達のリーファだ」


バルはハゲタ頭をかきむしると 魔方陣が現れる

ゴゴゴゴゴゴゴ

そして 以前のイカの化け物が姿を現した。


「今度こそ キサマを倒す!」


今回は完璧な召喚が出来たのかもしれないがクラーケンの攻略方法はすでに分かっている。

リーファにファイアボールの準備をするように告げると

俺はクラーケンに突進をした。


「ニンニクマン!! とぉ~!」


俺がクラーケンに一発を浴びせれば 後はリーファがファイアボールを叩きこんで

大爆発を起こせるはず。

イメージは完璧だった。

高く飛び上がり お尻をクラーケンに向けると。

くらえ!


ぶーーーぶちゃ!!


しかし オナラは出なかった

それよりも早く突然あたりが暗くなって 弾き飛ばされた。

クラーケンのスミ攻撃だ。

俺のオナラよりも先にクラーケンは スミを吐き出して吹き飛ばされた。


「がははは 前回は気を失っていたが意識さへあればニンニクマンなど敵ではないわ!

さらに お前たちに 見せてやろう。絶望をな!」


ゴゴゴゴゴゴゴ


クラーケンは 赤くなり丸みを帯びると巨大なタコへと姿を変えた。


「がははは これで終わりだ!」


そのとき

タコの前に立ちはだかるアケミの姿があった。


指を銃のように構えるとアケミは叫ぶ


「よくわからないけど 隙だらけ。

私が教えてあ・げ・る。 セクシーーーショット!!!」



ドッカン!!


指から放たれた衝撃派が タコを吹き飛ばしそのまま動きを封じている


さらに 


「私に任せろ!」


ミリーが飛び出し 素早い剣さばきでタコを切り刻んでしまった。



こうして戦いは終わった。

のどかになった廃墟に「タコはいらんかね~」という 行商の声がコダマする。

そんなときミリーがつぶやいた。

「私たちが全員 ここにいるという事はさすがの兵士長たちもまだ出発をしていないのでは??」


こうして 俺達は兵士長に合流した。

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