第32話 温泉が出来たー!

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 ウム、温泉施設か? 田中町長いわゆる「チャンとなろう」派に言わせると、異世界に温泉テーマは付き物である。これには同意せざる得ない。加えるに、この青の森キャンプ場にあれば、来場の動機づけの一因となり集客も増えるだろうとの事である。


 折しも、エベリナによって防御結界が伸延長された事によって、範囲は限定されるが、ある程度の安全が見込まれる。


 で、田中町長は、簡易的でもいいからと温泉場の建設をしたいようだ。どうやら、先行投資という意味合いよりも、予算計上の為の実績作りともいうらしいが……。


 キジも鳴かずば撃たれまい。普通なら、そうですか。で終わりそうな話であるが、口は禍の元である。天然石の岩風呂の作成が可能では無いだろうかと言ってしまったのだ。


 コタツで聞いた話では、エベリナは重力魔法と土魔法とかの魔法が使えて大きな岩を運ぶのも雑作もないそうだ。ウン、鎧袖一触ではないが道路封鎖の時に吹き払った様を見たら、重機以上の活躍が期待できるからなぁ。


 田中町長にエベリナの力を伝えようかと迷ったのだが、田中町長は「チャンとなろう」派の同好の士であり、俺っちの良き理解者である。


 女冒険者達へのお土産代をつぎ込んだ時、しかも見栄を張った時に救ってくれたのは田中町長である。スポンサーともパトロンとも言える方の希望である。その頼みを無下に断る訳にもいかないだろうと思ったのだ。俺っちは義理堅いのだ。


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「では、この露天風呂の写真とやらの絵姿をまねればよいのじゃな」

「ウン、エベリナ。俺っちは何回も行った事が有るから大丈夫。何となれば、作りながら修正すれば良いから」

「岩は重力魔法のグラビティで何とも出来るじゃろう。だがさすがに施設全部の柱や壁、屋根まで土魔法と言うのはしんどい気がするのじゃが」

「砂利や土に木はそこら辺のを使えば良いから、一から作る訳じゃ無いから大丈夫だろう」

「イヤ、疲れると思うぞ。お腹も空くだろうしなー」

「フーン」

「基礎の整地をするには重量が必要だからな。人化を解いて、ドラゴンの姿に戻って踏み固めばならん。配管工事にはビームと火魔法で配管部分を焼き固めないとなー。かなりのエネルギーがいるだろうよ」

「そうかなー? レッドドラゴンなのにー? イザール父さんが言うには、レッドドラゴンと言うのは本当は食事もいらなくて、エネルギーの補充は魔素とか太陽光線でもOKだと言っていたが」

「そこはそれ。魚心あれば水心と言うでは無いか? 美味しい物がなー。咀嚼感もいるのじゃよ」

「カレーは、飲み物だから咀嚼感は無いよなー?」

「そんなー。意地の悪い事を言うではない」

「フム、俺っちは人でなしではないからな。では、カレー2回分の、優先製作券を渡そう」

「3回でも良い?」

「仕方ないな。特別だぞ」


 という事で、エベリナにカレー優先製作券と言う夜メーニュの製作命令執行権を譲渡して、露天風呂の建設に入る事にした。


 建設にあたって参考にしたのは、「日帰り温泉あおいの湯」にある露天風呂である。キャンプ場にはこの日帰り温泉の紹介パンフが山ほど置いてあったので、活用する事にしたのだ。


 一応、設計図と言おうか施設案内図がある。吹き出ている温泉は湯量も豊富である。大は小を兼ねるで、多少大きめの物を作っても良いだろう。


 簡易な露天風呂なら、四阿を建てるだけでもそれらしく行けそうな気がする。もっとも、田中町長の計画では最終的に温泉複合娯楽施設と言う立派なものに成るらしいが、今回はそれらしい物で良いとの事だ。


 四阿の設置にあたっては、青き深淵の森から木を伐り出して並べたりして造るつもりである。湯船は適当に石を並べれば良いし、隙間が出来たとしても役場の営繕課に置いてあるインスタントセメントでOKであろう。


 設備としては、温泉の給排水と建物内の男女別の浴室や更衣室があれば、まぁOKであろう。だが、必須と言われる地元の牛乳販売機だけは整備しなければな。


 ここには電線はあるけど、牛乳屋さんを曳っぱって来ないければならないが、これは顔の広い町長に任せばいいだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 最初に出来上がったのは男性用の露天風呂施設で、外側には四阿風の建物がある。田中町長は実績作りだから簡易的な浴場で良いからと言っていたが、実に見事な露天風呂が出来たのである。


 尚、女性用はミラーで製作するのでほぼ似たような感じで製作予定 である。その為、男性用は試作品ともいえるので、女性用の完成度はさらに上がるだろう。


「誠! 見事な物であろう」

「オォ、良いんじゃない」

「ワー、お風呂だねー」

「二人とも、こっちに来るのじゃ。ほれ、ここには色石や魔石をはめ込んであるのじゃ」


 と言って自慢げに見せたのはお湯の吐出口である。浴槽の縁には銀色に光り輝く彫刻? から、湯がコンコンと流れ出ている。


「なにかゴソゴソしていると思ったら、ドラゴンの頭?」

「そうじゃ。ミスリム製じゃぞ。ピカピカと光って見事な出来であろう」

「ミスリムって。それに周りにはめ込んであるのは宝石なのか? イヤ、この間の色石だな。中心は魔石かー?」

「よくぞ、見抜いた」

「だって、色石は使うよと言って持って行ったしなぁ。魔石は?」

「魔石は妾が出した。オーガのも有るが、これはオークキングじゃ。気にせずとも良い。妾にとっては、ゴミのような物じゃが、色味が奇麗なのでそこそこイイ感じであろう」

「オ、オゥ」


「お湯の流れも順調だし、湯も十分だな。よし、一つ試してみるか」

「アネット。我らもご相伴にあずかろう」

「ハーイ」

「チョッと待て。ここには浴槽が一つしか無いんだぞ」

「それがどうした」

「エ! 良いの」

「良いも悪いも無いだろう。サァ」

「世の中には混浴があるとは聞いていたが……。でも、目の毒とか眼福とか、色々とある訳で」

「何をごちゃごちゃと、入るぞ。アネット行こう」

「アネット、危ないから流し場で走るでないぞ。転ぶぞ」

「ラジャー」


 脱衣所から、一歩踏み出すと洗い場である。何処から持って来たか知らないが、大きな岩がスパンと奇麗に割られて敷いてある。念の為に、ビームで浅く筋彫りしてあるので転倒しにくいと思うが、注意はすべきだろう。


「ウーン」

「グズグズするな」

「でも、裸だし」

「風呂に入るのに、ビキニアーマーのままではいかんのだろ」

「そうだけど」

「温泉のパンフ通り、湯船にタオルを入れないでと書いてあるし、裸で入るだけだぞ」

「確かに、作法通りではあるな」


 目の前には、マッパで仁王立ちになったエベリナの肢体が惜しみなくさらされている。もちろん、アネットもマッパで駆けまわっている。


「おかしな事を言う。妾は、レッドドラゴンじゃぞ。ドラゴンは服など着ん。裸が当たり前だろう。服を着たドラゴンが空を飛ぶのを見た者がおるか! おらんじゃろ!」

「そ、そうかなー?」

「そもそも、エルフのミレナが人族の男が何やら五月蠅いからと言っておったのじゃ。それで人化した時には、ビキニアーマーやドレスを体表に再現していただけじゃ」

「そ、そうだよなぁ。変化の術だったんだよな。理屈は分かるんだよ」

「何をブツブツと……当前じゃろ。偉大なドラゴンが、矮小な人間サイズの服をいちいち用意する訳無いじゃろ。物は試し、変化の様を見せてやろう」

「ワーワー! 目が目が!」

「どうした?」

「裸だったのに、ビキニアーマーになったと思ったら、いきなり際どい下着に変ったので眩しいんです」

「フン。昔、ドラゴンスレイヤーと自称する女騎士が勝負に来てな。生意気な事を言うので、ひん剥いて転がしてやったわ。その者が勝負下着だと言って着けていたのじゃ」


 勝負下着の意味が違うんじゃないかなと思ったが、今度はあられもない下着姿で有る。眼福の極致である。しかし。ビキニアーマーがウロコ組織の変性なのだとは、分かっていてもな……。


 それはともかく、エベリナは何故かマッパより下着姿の方が扇情的だなー(こんな時にと思われるが、俺っちは、研鑽を積んだので冷静に判断できるのだ。もちろん、個人的な感想なので異論は認めます)。


「勝負下着ってかー!」

「ち、ちょっと、待て。リョーター、目が据わっておるぞ。そうかー、ホホー、なるほどなぁ。リョウターは妾の人化した裸体に興味があるのか。そう言えば、秘蔵の書物と同じじゃたな」

「イヤ、そういう訳でも無いけど」

「リョウターがな、妾の」

「オイ、頭の中を覗くなよ」

「オーイ、アネットー!」

「聞こえちゃうだろ。わざわざ、呼ばなくても……」

「なあにー?」

「何でもない。来なくていいぞー。走ると危ないからな」

「で? リョーター」

「すいません嘘ついてました。カレー優先製作券を倍にしますのでお許し下さい」

「良いじゃろう。ならば、カレー3倍で手を打とう。フフッ。しかと申しつけたぞ」


 と、些細な出来事はあったが、四阿付きの露天風呂は男性用のみであるが草原の中に完成したのだ。後は地道に施設の拡充をすればいいだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 そう言えば、事務所に有った日の丸を広場に掲げておくように町長に言われたな。仕事として朝晩の国旗掲揚が増えたので、バイト代に上乗せしておくとの事だった。どのみち朝夕の見回りコースだし、雨降りはカットなので手間は少ない。


 この温泉、イヤ、キャンプ場だった。一番近くに有る町がクラドノ国のカルロヴィの町である。町とその周辺は、クラドノ王国に任命された領主が治める事になっている。


 距離的には、青き深淵の森の遺跡都市まで50キロ、キャンプ場近くの白き塔まで490キロ? 塔からキャンプ場まで10キロらしい。


 だが、ここら辺の青き深遠の森までには、権威とか行政権とかが及んでない。つまり、実効支配をしている訳では無いという事だ。


 地続きとは言え治外法権とか中立地帯? みたいなものなんだろうか? それも違うような気がするが……。だが、とち狂った権力者はいるからなぁ。


 住んでいる者は、野生動物に強力な魔獣、エルフに妖精である。人族よりよほど権利がありそうに思える。よしんば文句があったとしても、レッドドラゴンに歯向かえるような者はいないしな。 


 マァ、やる事は広場に旗を一本立てておくだけである。念の為だと思うのだが、その昔、ヨーロッパのどこぞの国が有人無人を問わず土地の領有を主張したらしい。


 旗を一本立てて俺の物だと叫んだと言う……。21世紀でもそんな事が有りなのかなとは思う。まさか本当に異世界に於いて、領土宣言とか既得権益の確保を狙ったものかも知れないが……。


 そうだとすれば、さすが政治家。町長といえど大局観が有るという事だろう。やはり「チャンとなろう派」の出来る田中町長である。


 ※ ※ ※ ※ ※


 田中町長と言えば、冒険者達に軽く見栄を張った為、俺っちの資産からは6万円を超える出費が有った。だが、町長の温情によって危機的経済状況は回避されたのだ。加えて、隔離の為に、10日分の食費が浮いたのは助かった。


 残念ながら、剣と盾は失ったのだが同好の士の下に有るのだ、イジイジしないで潔く忘れよう。そうは言ってもなー。もうチャンスは無いかも知れんし、結構気に入っていたんだよなー。


 話がそれた。これからもアネットやエベリナの食費やら突然の来客があるやも知れん。ので、茶菓子代は必要となり、状況が変わらなければ出費は増えて行くだろう。


 ウーン、日本で真っ当に換金できる知恵が無い。誰か教えてくれない物だろうか。いくら異世界で巨万の富を築けたとしても、日本での換金手段が思いつかないのだった。


 俺っちは薄給と言ってはなんだが、バイト代でウハウハという訳には行かない状態である。場所が場所だけにバイトの掛け持ちも難しいし、なによりも体力的にもデリケートなのだ。


 で、思い出すのは、エベリナがカレーをつまみ食いした時に差し出そうとした金銀財宝である。そう亜空間魔法のストレージね。


 やっぱり、未練が出て来た。フム、エベリナがくれると言った金銀財宝は、貰っておくべきだったのかなー?


 待て待て! あの時、「チャンとなろう」派の俺っちは、貰ったは良いが後で面倒な事になりそうな事を知っているのだ。


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 金儲け。イ、イヤ、商売としては、「チャンとなろう」派なら常識である異世界には無い様な日用品や、便利グッズを100均で買えば良いと知っている。


 キャンプ場からは遠いが、県庁所在地まで行けば大型店もあるしな。問題は、その購入資金なんだよー。


 1、エベリナのくれると言った日本には無い宝玉(魔石)だな。

有るは有るは、キラキラと輝く魔石。ミスリムは言うに及ばずオルハルコン等の伝説的な金属まで有った。確かに素晴らしい宝玉であるが、所詮、換金が出来なければ、オルハルコンも魔石も文鎮と同じ。と思う。


 業者に伝手が無ければ、ただの綺麗な石と言われかねない。マァ、ミスリムやオルハルコンを扱っている業者がいるとは思わんが……。


 2、これもエベリナのくれると言った金・銀・銅系だな。

金・銀・銅で換金と考えたが、潰して古物商に持ち込んだとしても、大量だと不自然だし、銀や銅をまとまった金額にするには重いしな。かといって小出しではねー。ので当然、複数店舗を廻る事になる。だと、リスクも増えるだろう。


 仮に上手くいったとしても、マイナンバーカード等の身分証明書はいるし、翌年の確定申告も必要らしい。貰ったと言ったら贈与税がかかるだろうし、第一に日本の優秀な税務署が見逃すはずがない。


 金塊なんてのは、下手に換金すると税金逃れの手段のマネーロンダリングと思われるからな。はたまた、出所が不明だと盗難を疑われるかも知れん。最悪、闇の金とされて、手が後ろに回るだろうな。


 3、魔法のレクチャー

とも思ったけど、今の処、転送魔法陣だけだしな。それに魔法の指輪が無いと使えないし、他の指輪が手に入るとは思えんしな。


 確かに、イザール父さんのお蔭で転送魔法陣が使えるようになった。魔法で彼方此方いければ便利かもしれんが、個人で荷物を運ぶのはOK何だろうか? 運送業は先に述べた通り、体力がなー。


 転送魔法陣にしても、一度は行かなければならないと言われたが、地理の知らない異世界では無理だろう。まして配達が可能なのだろうか? 日本で可能だとしても、手紙なんかは信書だから法律上問題があったはずだ。


 4、イヤイヤ、ここは手堅く交易品かも知れんな。色石は露天風呂に使ってしまったな。冒険者が譲ってくれた剣や盾の販売も考えたが、仕入れが確実とは言えない。


 それに、町長のような、「チャンとなろう」派でも趣味の品であるし、異世界産と知らず購入までしてくれる人は少ないだろう。ニッチ過ぎる話だな。


 5、ウーン、アクセサリーの自作でフリマに出品するかー?

デザインは目をつぶるにしても、銀ならともかく、金や宝石は出せないだろう。売値が高ければ売れないし、フリマでポンポンと一万円が飛び交うはずは無いしな。


 では、ネットで異世界の産物を売ろうとしても、入手先の記載が必要だしな。これは異世界産で有ると書けばまともでは無いと思われるだろう。間違いないと、ごねれば迷惑行為で即通報案件である。


 食品なら食品衛生法違反になるかも……。田中町長の様に伝手が有ればいいが、剣だと銃刀法の取り締まり対象になるのだろうし、


 6、異世界には普通にあるという薬草やポーションなんてのはどうだろうか?

ダンナ。いい薬が有りますよなんて。マァ、入手先が怪しいと思われて警察に通報か、それでなくとも薬なら薬事法、回復魔法でも医師法違反でアウトというところだなー。


 フム、医者と言えば、町長はコロナの時と同じように隔離期間を設定して、検疫としていたが大丈夫だったんだろうか?


 7、ここは、某ネット小説のユーチュー〇ーにならうか。動画を投稿し、再生回数から生計を立てたり、アフィリエイトで副収入を得たりする話である。


 二番煎時と言われようが、ここは本当に異世界である。むしろ、それしかないかも知れん。問題と思ったネットは、リアルタイム配信は無理だが、道の駅まで行ってアップすれば良いと気が付いた。しかし、編集や移動に時間がとられるなー。


 意味は違うが、7つの大罪のようになってしまったな。だが、考えがまとまり始めたぞ。さて、実行はどうしようか?


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 いつもお読み頂ただき、有り難う御座います。私事多用の為、1ト月ほど休載いたします。次回の投稿予定は6月18日(日曜日)とさせて頂きます。よろしくお願いいたします。

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