第25話 買い出しに行こう。
※ ※ ※ ※ ※
「じゃ、ちょっと買い出しに行ってくるわ」
で、俺っちは冒険者達が持って来た品と交換する為、道の駅での品の入手に向かったのである。冒険者達は物が揃ったら、帰り道が大変そうなのですぐにも帰りたそうな顔をしていたんだ。マァ、来る時は転送魔法陣だったからねぇ。
軽い気持ちで道の駅まで来てみたが、しかし、こんなに買い込んで運べるのか? お願いされた量になると、俺っちのスパーカ〇で持って帰るのはとても無理だ。キャンプ場への搬入は、田中さんにお願いして配達してもらわないといけないなー。
ア、そうだった。田中町長にホウレンソウしようとしたんだ。冒険者の皆が、お礼に戻って来たと田中町長に電話を掛けたけど、会議で出張中だそうで連絡出来なかったのである。色々と相談したかったのだが、残念である。
※ ※ ※ ※ ※
「森君。レジの人が最近は、甘いのばかりを買ってく行くって言ってたけど、どうしたの?」
「エ。田中さん、何でもないですよ。ヤダナー。強いて言えば食欲の秋と言う処かな」
「フーンそうかー。ところで今日は?」
「実は、この間のパーティーがお礼に来てくれたんですよ」
「パーティー、パーティー……。アァ、そうだったんだ。わざわざお礼に来るなんて、中々義理堅い人達だな」
「そうですね。で、色んな品を頼まれたんですよ」
「パーティーの補充品を、ここで補充するの? 大きな町の方が良いじゃない。そうか、外国の人だから、流通が分からないのか。面倒な事を頼まれたね」
「ですよね。でも、手ぶらで返すのは何となくね」
「ウン、分かるよ」
「結構な量を頼まれたんで、この間の流通仕入れの話をお願いして良いですか?」
「構わないけど、発注ロットの制限量があるよ。一様、業務用の流通だからね」
「ハイ、分かってます。見てもらっていいですか」
「でも、本当にこんなのを渡すのかい?」
「一応、希望の品ですからね」
「変わってんねー。アメが5キロ。これ虫歯になるんじゃない。エ! 砂糖に塩、小麦粉、コショウ?」
「ですよねぇ」
「有るねー」
「エェ、そうなんです」
「じゃ、オダー票の書き方が有るからこっち来て。配達は、……そうだなぁ。夕方にオーダー入れて……、朝に届くと思うけどね」
「エ、そんなに早いんですか。……そうですか」
気軽にトラック便をOKしてくれたが、支払い金額は60000円である。今月は厳しくなりそうなんで、支払いはカードでお願いしますです。ハイ。
「あのー、お金の事なんですけど」
「分かっているって、カード払いで良いよ。踏み倒しそうだったら、兄貴に言ってバイト代を差し押さえるから」
「エー!」
「冗談だよ。そんな事になったら、怖い人がお迎えに行くだけだよ」
「エー!」
「冗談だって」
「フー。駅長の田中さんも、田中町長さんも、かなりきつい冗談を言うんですね」
「そうだとも」
「ネ、ネ、本当に冗談ですよね」
「だと良いけど。ま、世の中。平和だからねー。多少の刺激はいるから」
※ ※ ※ ※ ※
キャンプ場には、本当に翌朝のトラック便で事務所横の食堂に届けられたんだ。確かに有難いんだけど、日本の配送システムをなめていたわ。
納品の4トントラックだが、誰かに見られないかと心配したのだが、案の定アネットに発見されていた。で、アネットの目が座り両手が明るく光りだしていた。こいつ、確かめもせずに魔法を打つつもりだったようだ。危ない処だった。
「ゲ! アネット。待て! 絶対に魔法を使うなよ」
「ムー。ダメなのー?」
「ダメに決まってるだろ。あれは荷物を届けてくれたトラックなんだ」
「ダメなんだー。大っきな魔獣じゃ無いんだ」
「食堂の裏口に置いてあるだろ。あの大きい奴だ。冒険者達が頼んだ品を届けてくれたんだ」
「フーン、そうなのか」
俺っちは荷下ろしの場所に近づいて、何も知らないドライバーさんに声掛けだ。アネットには、事務所から出てこないように言っておく。
運転手さんは、夏の繁盛期に食材を運んで来る人らしく、冬前に来たのは初めてだと言っていた。翌日配達なんて、普通だよと言っていたがチョッとブラックかなと思ってしまう。
ウン、魔法を打つ前で良かった。運が良かったのだろう、ドラゴンのエベリナは布団から出てこなかった。出てきたら大変だったろう。
俺っちのイメージの中ではドラゴンと言うのは洞窟で寝ているシーンが多い。フム、ドラゴンはトカゲやヘビと同じように、朝の低い温度が苦手なのかも知れんな。それとも姫だから、甘やかされた生活を送っていたのかも知れん。
数が多い冒険者達は、お疲れの為かコテージで眠ったままだ。結果的に、トラックは他の誰とも遭遇せずにキャンプ場を出て行った。
届けられた荷物だが、やっぱり結構な量だ。男性冒険者が荷運び労働者として採用されているが、購入品の重量が200キロ超えにもなっているんだ。
自分達の装備もあるんだし、男達5人だけで運ぶとすれば、1人当たり40キロはゆうに超えるだろう。これだけの荷を、本当に肩から背負って移動し、場合によっては戦闘をこなす事が出来るのだろうかと思う量である。
俺っちは、道の駅で地元産のお米である「あおい町の幸姫」を買った事が有るのだが、1袋10キロのお米でも店から持って帰るだけでも相当に堪えるんだ。それが4袋分と自身の装備品に収穫した「へびりんごーごー」がプラスされるのだ。
嘗て、江戸時代の成人男子は、米俵一俵・60キロ担ぐ事が普通に出来て一人前と言われたそうだが、令和の男にはかなり難しそうだ。
アァ、持ち帰る品の内容と言うのは、小麦粉が25キロ袋7000円のが4個で28000円。塩は25キロ入り袋が2個で6000円。砂糖は20キロ袋6000円x2個で12000円である。コショウは1キロ袋が2000円x5個で10000円となる。
飴も1kg×5袋、総量5キロで4000円。これは1袋が約150個前後の大袋を購入している。前回、お土産にした塩飴が入っていると嬉しいとの事。熱中症対策にも良いし、ほどよい甘みと、まろやかな塩味が絶妙なバランスだったそうだ。
で、これを全部まとめると都合200キロとなるので、俺っちが一度に持ち帰るのは絶対に無理である。で配送を道の駅の田中さんにお願いした訳だ。
※ ※ ※ ※ ※
そうなんだよねー。異世界では「へびりんごーごー」という金策の種を蒔いた訳だが、日本側ではまだ出来ていないんだ。マァ、今回は自腹を切るつもりだが、早急に金策を考えないとな……。
若干のためらいはあったが、ツアーズの皆さんが用意してくれた交易品はありがたく頂戴する事した。個人的に言えば、見た目にもカッコイイ小剣二本と、彫刻の入った思わずムフフと言う様な楯がもらえたのが嬉しかったです。ハイ。
国民的に大ヒットした某ゲームに出てくる装備品に似ていたので、これはこれでありだ。ウン、好みだし。この様な物をアキバで手に入れようと思えば6万円以上はするだろう。
趣味の品と言え、お高い気もするが一見物という事も有る。得てして、この様な物は二度と手に入れるチャンスが無いかも知れないのだ。むろん、コレクターなら一合一会を忘れてはならないのだよ。
そうだ。盾はともかく、小剣は銃刀法違反になる前に、日本刀の様に美術工芸品か刃を潰して古物として許可が必要だろうなー。
「もっと、ゆっくりしてもらっても良いんだけど」
「イエイエ。突然、お邪魔してすいませんでした」
「依頼品まで用意してもらって」
「良いって。俺っちも楽しかったし」
「お世話になりました」
「ありがとうございました」
「じゃ、これで」
「ウン、気を付けて」
「ヨーシ。皆、帰るぞー」
「オー!」
※ ※ ※ ※ ※
「冒険者達を送ってまいったぞー」
「遺跡都市の転移門までねー」
「お疲れ、アネット。エベリナもご苦労さんだったな」
「ゴハンできたー?」
「アァ、出来てるよ」
冒険者のアリーヌがエルフのミレナに転移門の動かし方を習ったそうだが、いまいち自信が無いそうだ。古代に滅んだリザードマン達の技術だからな。無理もない。
しかしながら、アネットは妖精族なので転移を得意としている。で、転移門はその一種なので稼働は楽々OKだそうだ。人は見かけによらないものである。
尚、キャンプ場から転移門のある白い塔まで10キロぐらいだが、何しろここは深淵の森だ。森の強力な魔獣に遭遇すれば、人間が10人では無力かもしれないし警戒し過ぎという事は無い。
そんな訳で、エベリナは朝食後の腹ごなしの散歩、ゴホンゴホン。警備要員として同行してもらったのだ。
「女達は、嬉しそうに帰って行ったなー」
「それに比べて、男たちのパーティはブーブーと文句を言っていたようじゃが」
「結構な量の荷物だと思ったが、無事に運んだようだな」
「ウン、でも思うんだけどー。冒険者の皆も、リョウターに転送魔法陣で荷物を運んでもらえば良かったのにねー」
「ホント、アネットの言う通りじゃな」
「思いつかなかったのかな?」
「まさか。転送魔法陣で荷物を運べば、あっという間じゃろ。何より、重い思いをしなくても良いのにな。思いつかない訳が無いではないか」
「遠慮したのかなー?」
「それで、交易品だと言うのを、色々と置いていったんだが……」
「ウン」
「この色石と言うのは、クラドン国では珍しい物なのかな?」
「良く分かんない」
「人族には、人気なのかも知れんな」
「リョウター、待て。良く見せてみい」
「どうぞ」
「ウーム、その綺麗な色石はな。大きな物なら妾も見た事があるぞ」
「へー、そうなんだ」
「確か、森の奥深く。幽玄なる瀧で水浴びをした時じゃ。稀にだが、見たぞ」
「これ。欲しいならあげようか?」
「イヤ、いらぬ」
「そうか。虹色に輝いているけど、交易用だとドサンと置いてくぐらいだから、高価な宝石という訳でもないんだろう。マァ、綺麗なおはじきやビー玉? という事だよな」
「ウゥーン。暫し待つのじゃ。フーム、これらには変わった魔力が入っておるぞ」
「高いの?」
「どうであろう。風変りでは有るがのー。はてさて、値の方はとんと分からぬ」
「俺っちも、どのぐらいの価値があるかは分からんからなぁ。アネットやエベリナなら分かるかと思っただけどな?」
「……なんで?」
「そうだよなー、すまん。妖精やドラゴンが、人族の町で財布からお金を出して、買物する訳ないもんなー。知らなくて当然だよな」
※ ※ ※ ※ ※
「で、冒険者達のお土産を買うたと」
「それも自腹なんだよねー」
「リョーターは、ほんに女子に弱いのじゃな」
「ウ、ウン……」
「フーン、奇特な事だな。ホレ、時度、見せてくれるじゃろ。確か自販機に入れる紙幣と言ったかの」
「そうそう、お金だよねー。いつもリョウターが足らなって言っている」
「アァ、そうなんだ。日本円がなぁ。で、今回はちょっと出費が多かったんだ。価値の無さそうな色石はともかく、あの時はいいと思ったんだ。折れそうな小剣と傷だらけの楯ではな」
「こう言うのはね。勢いで買うと失敗するんだよ」
「ムムムー。アネットに言い返せない」
「そうか! ドラク○のファンなら買うかもしてない? ネットの買取に出してみるか」
「ネット?」
「その話は長くなるからカット」
「ガーン」
「まぁ、よいわ。で、リョウターは、その様ななまくらな剣が好きだったのか。欲しいならイザールパパのコレクションから、良き剣を持って来てやろうぞえ」
「いいよ、そんなの」
「カラドボルグ、フラガラッハとか、聞いておる。グラムだったかも知れんが……」
「伝説の魔剣じゃないか!」
「すまん。間違えた。エクスカリバーだったかも知れん」
「聖剣かよー!」
「この剣が売れなくても、良いよ。……格好いいし。ほら、キャンプファイヤーのまき割りぐらいには使えそうじゃん」
「無理があるのー、リョウター。そもそもこのキャンプ場は直火禁止ぞ」
「エベリナ、そんな事知っているのか」
「キャンプ場の利用規則に書いてあるじゃろ」
「お、お前。日本語が読めるのか?」
「妾はレッドドラゴンぞ。前にも言うておろう、異世界の言葉を覚えるのは面倒くさい。その代わりと言っては何じゃが、リョーターの頭の中を覗く事などは、いと易き事」
「エ! 分かるの?」
「ほれ、このように中身を映し出す事も容易いのじゃ。そこな壁を見るが良い」
目の前の建物の壁面一杯に広がる、300インチ以上のムービープロジェクションの妄想、イヤ、映像が! これは俺っちのムフフと言うか秘蔵のコレクション。お嬢様方の、あられもない、あんなポーズ! や こんなポーズ!
ハードディスクの遥か奥の階層、それも偽名まで使って仕舞っておいたはずの隠しフォルダなのに! ど、どうして! だがこうなったら、採れるべき最良の手段はただ1つ。
「すいません。エベリナお嬢様、妄想の事はご内密に!なにとぞー!」
「フム、土下座とな。妾は人族の裸体なぞ興味ないが……、なるほどなー」
「お嬢様ー。お願いですからー」
「リョーターの態度を見れば察しが付く。秘匿にせねばならんのかー。では、カレー2皿。もちろん具をマシマシで手打ちにいたすとしよう」
「へへー、仰せのままに」
「約束じゃぞ」
「あのー。それと、是非ともご内聞にお願いいたしますです。ハイ」
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