第17話 昔懐かしいゲーム達。

 ※ ※ ※ ※ ※


「じゃ、イザーク父さん。やってみます?」


 と言う訳で、食事が終わりお約束のゲームタイムである。さっきから待ちきれないようなので、さり気無くお勧めしたのだ。そう、俺っちには分かる。まるで猫が猫じゃらしと遊ぶ事を、決して見逃す事は出来ない感じだったんだ。


 さて、無事に起動完了。今回、お勧めしたカセットゲームは「上上下下左右左右BA」のコナ●コマンドと言われる裏技を入力して、フル装備からプレーでき、名作と言われる横スクロールシューティングゲームなのだ。


 ゲーム界においては、パワーワードを知っていたとしても、決してインチキではない。だって世界中に何十万、何百万も売れたゲームな訳だし、老若男女が遊んでいた。となればまさに万人が知る常識だよねー。


 それに皆、知っているはずだよ。ゲームの世界には裏技を知らないのが罪になるという、恐ろしいしきたりがあるのもね。


 忘れもしない幼少の折、何も知らない純真無垢な俺っちは、攻略本と言うズルを知っている姉貴に毎回一方的に負けて、必ずけんかになったものだ。


 もちろん、姉貴に勝てる訳は無く、その度に俺っちは号泣して部屋を出たものだ。思えば、情け容赦の無いなんてひどい姉貴だ。少しは、純真で可愛い弟に花を持たすという世間の常識を知るが良いのだ。


 そんな姉に、とことん教えてもらったのが、ゲームにおける常識と、男には勝たなくてはならない時もあるという事だ。特にお八つを賭けて勝負をしている時になんかにわねー。


 それはともかく、このゲームのステージは全部で7つある。クリアしても難易度が上がったステージになるので、なんとなれば無限ループでやりこめる優れものである。


 他のシューティングゲームと比べても難易度はやや高めであるが、シューティングゲームを得意とする人に向いているとも言える。連射や隠れキャラ破壊など、パターンを解析して覚えれば先の面へ進めるし高い得点を取れる。


 ゲーム自体は、3機の自軍機で敵を撃ち落とし、敵の弾を避けるというシンプルでわかりやすいルールである。ゲームシステム、グラフィック、サウンド、難易度といった、ビデオゲームのあらゆる構成要素において、秀抜の物であったのだ。


「流石に初見では、難しかったようだなぁ」

「そんな事ないですよ。結構、高得点だったと思いますよ」

「さようかー」

「エェ、慣れですよ。俺っちは毎日のようにやってましたから」

「であるか。だが、レッドドラゴンには、負けという言葉は無い」

「そうなんですか」

「是非も無い。今、一戦。いざ尋常に勝負、勝負!」

「でも、そろそろ3時間ですし。連敗でしょ。もうそろそろ諦めた方がいいんじゃないですか?」

「あと少し。お願い」

「イザール父さん、言葉が変わってますよ。仕方ないですね。じゃ、あと少しだけですよ。そうだ、ゲームの種類を換えてみましょうか、得手不得手が有るかもですから」

「ウン、それならば」

「これは、さっきのとはちょっと違った感じです。格闘ゲームですが、必殺技の演出が面白いんですよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「で、イザーク父さん。やってみます?」


 俺っちは、初心者でも楽しめると言うゲームに変えた。内容も、簡単すぎず難しすぎず……バランスも良い出来だと思う。恐竜が出てくるし、見ていても楽しい要素も追加されている。


 その恐竜が木の実を食べると卵を産んだりする。炎を吐く赤恐竜が出てくると、見ていたイザール父さんが喜ぶ事この上ない。


 黄色や、空を飛ぶ青い恐竜が出てくると、ご先祖様と言って涙を流している時はいささか引いたがサービス満点のゲームだ。


 まあね、苦手なゲームが続くという事もある。気を落とさないで次に行こう。もちろん、勝ち星は俺っちがいただいた。


 ※ ※ ※ ※ ※


「で、イザーク父さん。やってみます?」


体力ゲージが赤くなると一気に超必殺技を出してくる。慣れないと昇●拳を出すのも難しくてねー。技を受ける側としては、シビアなタイミング技に当たるんだよ。このキャラクターは、卑怯なぐらい強かったす! 


 練習して腕が上がってくると相手の技を避けたり、弾き飛ばしたり、跳ね返えす事が出来るようなる。いわゆるやり込み要素ね。


  それに、尋常に勝負をして勝った時は数奇将星、我にあり! というセリフも聞けたりもするんだなー。あと日本には、こんなに危険な町なんてないからねー!


 ※ ※ ※ ※ ※


「で、イザーク父さん。やってみます?」


 コンを詰めたような顔になって来たので、息抜きにと勧めた今までとは少し毛色の違ったゲーム。菓子パンとお茶(ちいちゃなあんパンとペットボトルである)の一服もそこそこにゲーム再開。アネット達が不満顔で見ていたが、イザール父さんの熱中する姿を見て諦めたようだ。


「時間がかかった割には、計画性のない無茶苦茶な町が出来ましたね。とても10万人まで増えそうにありませんよ」


 ぶつぶつ言いながらもそこそこ満足した小さな町が出来ると……アァ、なんて事だろう。突然、巨大恐竜型の怪獣が現れて町を破壊尽くして行く! 


 その様子は過去のレッドドラゴンの暴虐無人振りを彷彿とさせた。町を壊して行く、何故か自分に似ている怪獣を見て、イザール父さんはちょっぴり考えたようでした。


 ※ ※ ※ ※ ※


「で、イザーク父さん。やってみます?」


これでゲームは止めるから。と言って最後に勧めたのは同じような巨大怪獣出てくる。町をぶっ壊しながら格闘するゲーム。もちろん対戦型である。


 列車やビルを投げつけたり、都庁のような建物が倒壊したり、ガスタンクやタンカーが爆発してダメージをくらったり。特撮映画みたいなゲームだ。


 このゲームはやりこむと、敵を絶対に倒さなくてもいいんだ! と思えてくる。虚しさと世界平和というのを学べます。


 いつの間にかイザーク父さんの中では本当の賭けになっていたらしい。この賭け、俺っちが勝てばイザーク父さんが、何か願いをかなえてくれるらしい。


 ウム、分かりやすい。ドラゴンに願い事を言うのは、どの世界でも共通のお約束らしい。


 だが、俺っちが負ければドラゴン族の王城で、カレー作って100年の時を過ごす事になるらしい。何の事は無い、好物になったカレーを四六時中食べたいというだけであるが、高々100年であろうと言われた。何千年も生きるドラゴンにとっては一瞬に等しいらしい。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ゲーム対戦が終わる頃、ふと振り返ると竜人族と思われる5人の女性達がいた。何処にって、キャンプ場の管理事務所前だよ。


 美人の彼女達は、ドラゴンの王城に置かれている秘書課の人達らしい。イヤ、自己紹介してくれたから分かったんだ。こっちの世界の人達は、チャンと挨拶してくれる人が多くて助かるよ。ドラゴン王族の護衛兼秘書であり、護衛空挺師団に所属しているとの事だ。


 で、驚いたせいか言葉が出てこない。そうだった。俺っちは美人に弱い体質だとこの間、判明したのだった。これは体質なので仕方ないのだ。で、失礼かと思ったがエベリナの方を指さした。


 了解したかの様に頷いてくれる。マァ、少し疲れた顔をしているようだが、秘書課の人達も、イザール父さんの傍若無人ぶりを十二分に味わっているからだろう。気の毒な事である。


 見れば、竜人さんの中でも飛び切りの美人さんがエベリナ達に話しかけていた。


「イザーク陛下、エベリナお嬢様も。このような所においでとは」

「オォ、何やら聞きなれた声と思ったらダヌシュカ達ではないか」

「これは、エベリナお嬢さま。オォ、アネットお嬢様もおられましたか。御無沙汰しております」

「ウム、久しぶりじゃな。息災であったか」

「ハーイ。お久」


 どうやら、イザール父さんを追いかけて来たようだ。聞いた事無いけど、竜人族にとって上位者のドラゴンは神にも等しい存在らしいのだ。


 それはそれで良い、彼女達の自由だ。でも何故、護衛するのかなー。レッドドラゴンを……。必要あるのかな? こんな破壊神をと思う。無論、ゲームは継続中である。


「で、ダヌシュカ。いかがした?」

「陛下、お戯れを。皆で探しておりました」

「エェイ! 今、イイとこなのだ。チョッと待て」

「陛下!」

「うるさい。アーァ。また負けたではないか」

「されど、王妃様がご用だと」

「ウム、それを早く言わんか。帰らねばならんのかのー」

「お父様。お母様が来られる前に戻られた方が、身のためと思いまする」

「エベリナも、やはりそう思うか。では帰るしかないな。リョウター殿、残念無念じゃ。連敗で有ったわ。また、勝負致そう」

「そうですね。機会があればよろしくお願いします」

「ウム、約束通り、賭けはお主の勝ちじゃ。願いの筋は聞き届けて進ぜる」

「願いねー、何かあるかな? 衣食住は足りているしなー」

「早く申すのじゃ。エエイ、急ぐと言うのに」

「エーと」

「もうよい、ワシが適当に見繕くろう」


「ドラ○○ボールの様にリクエストしたかったけど、まあ良いか。エベリナ、また聞くけどイザール父さんて」

「皆まで言わずとも良い。だいたい、このような感じじゃよ」


「エベリナお嬢様?」

「如何した、ダヌシュカ」

「こちらの方は?」

「オオ、うっかり致した。リョウター殿とおっしゃる。この地の主じゃ」

「違いますよ。只のキャンプ場の臨時管理人ですからね」

「そうであったのか」

「そうだよー。でも、それだけじゃなくて、理の実を授かりし賢者だよー。それに、魔法の腕を持つ至高の料理人かもしれないよ」

「そうじゃとも、ダヌシュカ。妾も食したぞ。それはもう天にも昇らんばかりの美味でなー。華麗なる料理を作られるお方じゃ」

「華麗かもしれないけど、カレーな。誤解しないように」

「リョウター。ここは御馳走しないと」

「リョウター殿。アネット嬢様のおっしゃる通り、ここはひとつ」

「ああだこうだと言って、お前らもカレーを食べたいだけじゃないのか?」


 ※ ※ ※ ※ ※


「カレーなるお料理、本当に美味しかったです。誠にありがとうございました」

「「「リョーター様、ご馳走になりました」」」

「イエイエ」


 さすが、一般会話もでき、丁寧なご対応もする秘書課の方々である。カレーを食べさせたダヌシュカ・チハーコヴァーさん達。久し振りに名前の長さで、五分の勝負だったと思う。


 5人の護衛空挺師団の美人達は、とろんとした顔で舐める様に奇麗になった空のカレーライスの皿をじっと見ている。これやっぱり、お代わりいるんだよな?


 アアー。こうなるんじゃないかと薄々思っていたよ。やっぱり用意しておいて良かった。もちろん、レトルトカレーといえども、美味しくなーれの掛け声は忘れない。しかし、この分だとレトルトカレーとチンご飯も常備食に加えないといけない気がしてきた。


「ドラゴン神(イザール父さんの事だ)を戦略(ゲーム)で負かすとは、さぞや名のあるお方でしょう」

「イヤイヤ、とんでもない」


 お替りのカレーを振舞ったせいか一般会話ができるようになりました。でも、これって誤解している方向だよね。ゲームだよ。たかがゲームなんだよ。それともゲームと言うのを知らないのか? 


「ひらの賢者などいくらでもおります。それこそ、はいて捨てるほどです」

「そうなの?」

「何しろ世界樹の実は30年に一度、沢山の実がなりますからな。ですが、希少な理の実となれば、別格です。隠されますな。本当は大賢者様なのでしょう?」


 よいしょとも思えん、竜人族とは鋭い感覚を持っているんだなー。俺っちの事、見抜かれてしまった。そんな訳無いわー!


 ※ ※ ※ ※ ※


「ダヌシュカ、チョッとこちらへ」

「はい」

「お父様は何か勘違いしているみたいだから、念のために申しておく」

「ハァ」

「リョウターは、アネットのお気に入りだ。妾の立ち位置は、お友達というかのー、みたいなものじゃぞ」

「そうなんですね。陛下は勘違いされているという事ですか?」

「その通りじゃ。妾とアネットの付き合いを知っておろう」

「ハイ、ご親友です」

「妾とて、レッドドラゴン。お相手なら自分で見つけるわと言いたいところだが、すでに許嫁もいるからな」

「左様でしたな。ウム、なるほど。なるほど。リョーター様はお友達ですかー」

「オイ」

「乙女ですなー。マァ、いざとなれば略奪愛も可能ですから」

「何を勝手に想像しておるのじゃ」

「ウンウン、さようでございますか」

「マァ、分かれば良い。……本当に、分かったのであろうな」


「で、物は相談じゃ」

「何がでしょう?」

「お父様の妄想が、広がらぬ前に教えて差し上げるのが一番じゃが、ダヌシュカも命は惜しかろう」

「ハイ、それはもう」

「そこでお母上にお知らせしておくのじゃ。さすれば、お母上がいかようにもしてくれる。お父様や許嫁殿の誤解も解いてくれるであろうし、気に障って暴れられては大変じゃ。お主の命も助かるじゃろうて」

「オォ、命拾いしました。誠にご英明な判断です。このダヌシュカ、しかと承りました」


「しかしながら、今一つ不可思議な事が御座います」

「なんじゃ?」

「リョウター様は、いささか脆弱なお体の人族なのでは? 恐れながら、ただの人族と妖精の王女がそのー」

「ダヌシュカ。見誤ってはならんぞ」

「ハ」

「よいか。リョウターはイザール陛下が直々に血脈をお与えになったほどの人物なのじゃ」

「エ! そのような事が……」

「妾が申すのじゃ。嘘ではない」

「では、ドラゴンの血を引く者に成られたのですか?」

「そうとも、分かったか。では、この話をお母様にもお伝えするのじゃぞ」

「ハハー。このダヌシュカ。竜人族の将として、また竜人族一同になり替わりまして心にしかと止め置きまする」

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