第13話 お散歩、お散歩。楽しいな。
※ ※ ※ ※ ※
青き深遠の森の中、カルロヴィの町へ向かう、冒険者達5人とエルフが1人。手練れのエルフがいる為だろうか。強力な力を持つ魔獣は危険だと知るのか姿を見せず、運悪く通りかかった魔獣は瞬殺されていた。
一行は平穏な旅を続けていた。やがてカルロヴィの町とエルフの里への分岐点に着いた。
「やっぱり、エルフが居ると魔獣は出てこないな」
「来たとしても、すぐに潰すし」
「まだ、魔法は分かるんです。ですが、魔獣達が物理的に潰れる処を見るとは思いませんでした」
「ウン、エレナは強いと思ってはいたが、さすがに目の前で撲殺するとはな」
「魔法が使えなくても、筋力だけで十分やっていけそうですね」
「エルフ達、すごい魔法も使えるからなー」
「もちろん、私の魔法。とても、かなわない」
「さすがに、エルフと比べたら人族の使う魔法など、知れたものですからね。まして、青き深淵の森のエルフとなると、比べようとするのもおこがましいと思います」
「オー、イレナ。一気に言ったなー」
「グスン。私だって……」
「泣くなよー、アリーヌ。エルフといえども、不得意な魔法が有るそうだから気にするな」
「そうそう、アリーヌ。多少できない所が有っても個性だと思えばいいんですよ」
「ロザーリア、有難う。やはり、同じ魔法をたしなむ者同士だね。落ち込むとこだった」
「そうですよ。大人と赤ん坊では、比べる事など愚の骨頂ですからねぇ」
「モー。イレナは、止めを刺さないの。だまって薪を集めて来て。せっかく、アリーヌが元気になりかけたのに。火魔法で、火を起こす仕事が済むまでは黙ってなさい。ライターがもったいないでしょ」
「シモナ、それはそれで可哀想」
「それにしても、このレトルトと言うのは美味いな」
「便利だしね」
「やっぱり引き返そうか? マヨネーズがあと少ししかないんだ。町までもつかどうか心配なんだ」
「食い過ぎだよ」
「もっと欲しかったな」
「1人1個ずつですよ。リョウター様が言ってましたけどマヨネーズは高カロリーだそうですよ」
「そうです。太るんですよ。もちろん飲物では無いんですからね」
「でも、マヨネーズを太るほど食べたいのー!」
「リョウター様が、予言してましたね」
「エ? 予言もできるのか?」
「ディアナはマヨネーズ沼にはまると仰ってましたからねー」
「予言が本当になりましたね。さすが、大賢者です」
「でもディアナ。こっそり、余分にもらったでしょ。私、見たんですよ。リョウター様、引きつった顔してましたよ。泣いて脅したんでしょ。あなただけ、3個は余分に有るはずですね」
「ゲ。やはりシーフに見られたか。抜かったな」
「そう言えば、飴をたくさん貰ったでしょ。確か、フルーツの飴に、ポッ●キャンデー、ミルクキャラメルにソフトキャラメルのチュ●チュウ」
「リョウター様に、一人一袋だよ。と言って渡されたけど。これは、みんな一緒にして平等に分配するべきですね」
「話が出たついでだ。ミレナとも別れる。ここらで仲良く分けるとするか」
「賛成だ。それが良いと思う」
※ ※ ※ ※ ※
「ディアナも、さっきまでは賛成していたろ」
「数が半端だから、誰かが、賭けようというまではな」
「おかしいだろ。私の飴が1個だなんて」
「飴は全部で111個です。1位札50個、2位札30個。3位札20個、4位札10個、5位札1個に決めたでしょ」
「クジ引きだと、悲劇が起こると思わなかったのか? 少し考えれば分かりそうな事なのに」
「イレナの言う通り、まず平等に10個か20個ずつ分けておいてから、ちょこっとだけ残りをクジ引きにするとか」
「ウン、ウン。そうですね。それが平和で公平かも」
「ダメだ。ミレナはエルフなんだぞ。きっと、絶対にクジの結果が見えるだよ。余裕で一番先に引いていたもの」
「そうかもなー。魔法を使ったかは分からんし」
「じゃ、2位は? イレナなのは?」
「私は、シーフとしての観察力ですよ。インチキなんかしてませんから」
「そうだな。3位はシモナかアリーヌだな。くじ運もいつも真ん中だから……これもヨシと」
「確かに、いつもの通りだし、おかしくないですよね」
「アーァ、私もエレナみたいに見透しの魔法が使えれば良いんだけど」
「ムリムリ、ローザーリアはいつもの5位です。平凡な魔法使いなんですよ。それに、いつも逆転しようとしてハマるからブービー賞が順当ですよ」
「相変わらず厳しい言葉だな。じゃ、残るは、私になるのか? ン、ならこの順番でイイのか?」
「ディアナはこんなに順序立てて頭が使えるのに、何故、戦闘の時に使わないのか? 不思議ですねー」
「オーイ。そろそろ、お別れだ。カルロヴィの町へは、ここからならほぼ真っ直ぐだ。アァ、そうだ。途中の川には気を付けろよ」
「そうだね。ここら辺まで来れればいいか」
「ミレナ、世話になった」
「エルフの里へは、ここから右手でしたね」
「また、一緒に食べようね」
「恋バナ。また、しようねー。アネットにも、よろしくねー」
「あぁ、伝えておく。機会が有ったらな。それよりも恋バナ。また、よろしく」
※ ※ ※ ※ ※
「あと、3日だね。かかっても4日で町に戻れるな」
「そうだな」
「お腹空いたね。携帯食。食べるー?」
「携帯食と言っても、リョウター様のはなー?」
「なんか、もったいなくて食べれない」
「ホント、ホント」
「美味しかった」
「エェ、何を頂いても美味でしたねー」
「リョウター様が、持たせてくれたガラスの器。随分と値が張りそうだよ。本当にもらってよかったのかな」
「そうですね。王都の工房でも、これだけの物は作れるかどうかでしょう?」
「キラキラと輝いて、まるで宝石のようですもね」
「私、売るの止めてお嫁入り道具にしようかしら」
「もったいないですもんね」
「いいですね! ホント、二度と手に入らないような名品だと思いますよ」
「森も薄くなってきてます。危ない所は少ないと思いますが、気を付けて行きましょう」
「もう、少しで町だ。魔獣がこの辺りにいるとしても、ゴブリンぐらいだろう」
「町に入るまで気を抜くなよ」
「「「ハーイ」」」
※ ※ ※ ※ ※
「リョウター、お散歩いかない? お散歩いかない? お散歩いかない?」
「お前は、子犬なのか。俺っちの周りでグルグルするんじゃない」
「エーン、運動不足だよー。走りたいよー」
「ホー、泣きマネか。上手くなったな、アネット。ステイ! 動くなよ」
ウン、鷹揚に構えているエベリナと比べれば、こいつは子犬だな。でも、妖精だって言っているし、人間の様に言葉を使うからなぁー。フーム、そうか、そうか、妖精だと思うからダメなんで、こいつは、ペットだと思えばいいんだ。
ここ最近、ひょっとして俺っちはロリコンではないかとの疑念が、チラッと頭の中に浮かんだのだが、なーんだ可愛いペットと思えば良かったんだ。ペットならばOKじゃないか。見事、セーフである。
散歩だったら、キャンプ場の中央広場でも十分じゃないかと言ったんだが、アネットの泣きそうな顔を見て西側の草原に向かう事にした。こいつ、子犬の様にはしゃぎ過ぎて、熱でも出すんじゃないか?
結界が作られているので安全のはずだが、念の為にミレナから貰った魔獣除けの指輪を確認する。念には念を入れよである。俺っちは慎重派だし、後悔先に立たずとも言うからな。
※ ※ ※ ※ ※
草原の手前、西の入り口の直ぐ向こうでは、境界とか結界とか思われる物がぼんやりと見える。あれが、ソフト結界なのだろうな。ここまで来たんだ、西の入り口で椅子に座ったままでも良いかと思ったが。
管理人としては、何時かは、確認に行かないと思いはする。……せっつくなよ、アネット。分かっているって言ってるだろ。
では、行くか。もっとも、揺らめくような空気が立ち昇っている所までは行かずに、キャンプ場の西側外周を探検する事にした。何故なら、それ以上進めば日本国憲法から外れて危険な青き深淵の森地帯になるのだからな。用心せねばならないのだよ。
マァ、その前に西の入り口に置いてあるパイプイスに座って一休みだ。考える事はいっぱい有るのである。
例えば、なぜ、エルフのミレナは大きいのか? 聴くところによると、ミレナと言う個体だけではなく、エルフと呼ばれる種族全体が大きいらしいのだ。
俺っちなりに考えた。ウム、これは高エネルギーの食事と生活環境だね。エルフは想像通り、野菜をたくさん食べる。おやつでも、野菜を口一杯にほおばるぐらい野菜好だそうだ。ここまでは、想像通りである。余談だけど、この時のエルフはリス顔になるそうだ。
それはともかく、エルフにはエルフスープという名物料理があるという。これは、豆や野菜をドロドロになるまで煮詰めたスープとの事である。
豆や野菜は、スープにすると細胞から栄養素が溶け出し、効率良く栄養がとれると言うのは御存じの通り。このエルフスープと肉、特に乳製品を子供の時から食べるので、身長が高くなるのかもしれんと思ったんだ。
実際、エルフ達は昔から酪農をしているそうだ。ミレナによると、ビーガンでも菜食主義者でもないと笑って答えてくれた。ただ年齢を重ねるごとに、極度の野菜愛好者になるのだそうだ。
普通、人族が見かけるエルフは何百才が多い。これは集落から出る事が出来るのはある程度経験を積んで、あらぬ誤解を招かないように他種族の社会規範を理解している者に限られている為である。
よって野菜中心の食生活をしているエルフを見る機会が多いので、肉を食わないと思われているのだ。肉だって普通に食べている。特に成長期の子供達には必須の物として食べさせているんだ。
因みに、妖精も肉を食べる。アネットによれば、おとぎ話に出てくるように花の蜜ばかりが食べている訳では無いと言っている。美味い物は美味いのだと。これは、アネットが美味い美味いと肉入りカレーを食べているのを見て納得したのだ。
魔獣の住む森の奥深くに生きていくのだ。過酷な自然の前に、貧弱な体力では生存できないだろうし、高度な魔法が出来たとしても、そんな甘いもんじゃないだろうな。故に、高エネルギー食と自然環境に打ち勝つ力が必要となり、筋肉質のエルフが出来た訳だな。
一つの考察を終えると、すぐ次の事を考え始めた。冒険者達によると、このクラドノ王国ではエルフは16万人ぐらい。そのうち、15万人以上が森に住んでいるそうだ。確かに森の人に違いない。
エルフは森の中に住んでいて運動が好きというより、好きでないと生きて行けな…… …… !
「イッター! イタイ、イタイ。分かったから。いま行くから。考えている振り、止めるから。モー、お前。それ剣なんだろ。イタイナー。アネット、ステイだってば」
これから行こうとする青き深淵の森からは、時々だがガォーとかウォーとか恐ろしそうな唸り声の大きなのが聞こえて来るんだよ。君子はな、危うきに近寄らずなんだぞ。
あれは、魔獣のうなり声だよな。うなり声が聞こえるぐらいなんだ、絶対に近くで徘徊しているんじゃないか?
「エイ、エイ」
「分かった。分かった。だから! 剣でチクチク突くなよー。ホントに、痛いんだから! また、上着に穴が開くじゃないか」
魔獣が居てもアネットが居るので大丈夫と、本人のアネットが言っている。だが、何せ120センチ弱の妖精だ。用心に越した事は無い。だって、森の中でチラチラと黒い影が動いているような気がするんだよ。それに、その影ってのは棍棒を持っているように見えたんだよ。
どうしようかなーとするうちに、黒い影(魔獣なのかな?)の姿を見失ってしまった。こりゃ、エベリナも連れて来るべきだったかなー。あいつが居れば、ここらの魔獣なんてイチコロだろうしな。
「オイ、アネット。さっきの奴ら、棍棒を持っていたんじゃないか」
「見たんだー。でもね、あれは、オーガだから大丈夫だよ」
「大丈夫って」
「マァ、ゴブリンやオーク。ウーン、サイキュロプスでも一緒なんだけどね。トロールは再生するからチョッと面倒だけど」
「それって、どこがー大丈夫なんだ! オーガってすごく強い魔獣じゃないのか? 俺っちは一般人だぞ。武器なんか持った事もないんだぞ」
「ウーン、ここら辺はオーガより、サイキュロプス縄張りだからね。サイキュロプスの方が多いかも」
「オイ、話を聞けよ!」
「もちろん大丈夫だよー。寄ってきたら、ビューンのゴーでジュにするから。ダメでも、シュでビュでザクしちゃうから安心していいよ」
「フーン、ホントなんだな! あてにしているんだからな。頼むぞ」
アァ、ビューンのゴーでジュなんて、アネットと会話が出来てしまう。それどころかシュでビュでザクなんて、意味がわかる様になっているなんて……。
※ ※ ※ ※ ※
「運が良いよー。私達」
「そうなのかー?」
あれから、アネットの護衛でキャンプ場の敷地から西側に少しだけ離れた所に移動して発見したのである。結構、立派な木である。輝くような赤い実を付けており、幹も太く根も深く張っているようだ。
で、俺っちは赤く実った果実を下から見上げているのである。あれは美味しいのだろうかと考えている最中である。目の前のたわわに実った赤い実を見ながら、アネットが手を伸ばして跳ねているがわずかに届いてない。
「お前、距離感ないのか? ピョンピョン跳ねない! ちょっと待ってば! すぐ採ってやるから。この赤いやつで良いんだな」
「これはね、「へびりんごーごー」って言うの」
「フーン」
「ウキウキ。ウキウキ。青き深淵の森のはとっても珍しいから価値が高いの。それに、とっても美味しいの」
足元をクルクル廻りながら喜びを身体全体で表現しているアネットだが、その声はかなり美しく、うっかりすると場所も考えずに聞きほれるほどである。さすがに妖精であると思う。
オッと、話を戻そう。先ほどから、気になる事が有るんだ。実はこの「へびりんごーごー」の太い蔦みたいな根が、ニョロニョロと伸びてくるようなのだ。
見間違いだろうと思っていたら、あろう事か、既に足元は細かな根が足の廻りにまとわりだしており、大きな方の根は俺っちの体を中心にして、あっと言う間にとぐろを巻き始めているではないか!
アネット曰く、この魅惑的な果実の「へびりんごーごー」は、美味しい実ならせて、それを狙う動物や魔獣を餌にしている、食虫? 食肉? 植物の仲間なのだった。恐るべし異世界である。だが、それを今頃聞いてもなー。アネット、近づく前に教えてくれよ。
「アネットー! アネットー! 助けてくれー!」
「へびりんごーごーはね。蔦に気を付ければOKなの。やられるのは、まぬけなゴブリンぐらいだから」
「アネット、俺っちが悪かったよ。謝るから。これ、とってくれー」
「ガーン。リョウターは、まぬけなゴブリンだったか」
「分かったから。もう悪口、言わないから。この変なの取ってくれー」
「本当だね。約束だよ」
結局、アネットがシュでビュでザクしてくれたので「へびりんごーごー」の魔手から逃れる事が出来た。だが、これぐらいでは屈しない俺っちである。
両手にいっぱいだから……、10個の実を、まとわりつく根をものともせずに奪い取ったのだ。そして意気揚々とキャンプ場に引き返したのだ。
イヤ、すみません。嘘つきました。アネットを肩車にして、切り落とした枝についていた実を回収しました。はっきりと言えば、アネット様のおかげです。ハイ。
「ウン、確かに美味しい」
「リョウター、ずるいー。アネットが頑張ったのに」
「オオ、そうだな。その通りだが、120センチ弱の体で5個も食べようとするのはなー。お前が5人いるならともかく。とにかく俺っちが1個だからって、文句を言っている訳じゃ無いぞ。体格的にだな、モグモグ」
「リョウター。やっぱり、美味しいとモグモグ言うんだ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
お正月の3話連続アップはいかがでしたでしょうか。次回、第14話は1月8日(日曜日)の予定です。よろしくお願いいたします。
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