第9話 お帰りですか? お土産はなあに?
※ ※ ※ ※ ※
「驚いたよ。食堂の営業が始まると、あの調味料のセットが、テーブルごとに全種類が置かれるそうだ」
「塩はまあ良いとして、問題は砂糖とコショウだ」
「イヤイヤ、あの白いサラサラした塩もかなりの品です」
「確かに、あの純度だと問題よ」
「コショウってのは、希少なスパイスなんだろ?」
「そうでしょうね」
「町では見かけないし」
「貴族の食事でも出るでしょうかねー。上級貴族ならありそうですけど」
「それにしても薄味じゃない料理は久しぶりだわ。塩にソース、それにしょう油とか言ったのも欲しいです」
「リョウター様が言うには、あの塩は料理に振りかけられるよう小瓶などに入れて出される物らしい。食卓塩という名で、湿気止めに炭酸マグネシウム? を加えた品だそうだ」
「道の駅の食堂では、塩だけじゃない。白すぎる砂糖もコショウもキロ単位で買うそうだ」
「……キロかー。息が止まるな」
「アァ、キロなんだ。フー、金額を考えると震えるな」
「そうだよな。一瓶の塩が銀貨一枚だろ、砂糖は王国金貨一枚とコショウが王国金貨五枚になるぞ」
「他にもあったしね」
「まてまて、だとするとテーブルに置くプレートには、お宝セットが乗っている事になるんだよなぁ?」
「だよねー」
「一つの調味料セットだけで、カルロヴィの町なら2~3カ月は暮らせるよな」
「ウン」
「20のテーブルに、すべて並ぶとなると一財産になる訳だな」
尚、王国ミスリム貨一枚が100万円、王国金貨一枚が10万円、王国銀貨一枚が1000円、王国半銀貨一枚が500円。銅貨一枚で100円、鉄貨一枚で10円、賤貨は一枚で1円の感覚だが、今ではあまり使われておらず、お釣りなどは無いかおまけされるとの事だ。
尚、ミスリルは普通に生活しているとあまり見る事は無いと説明された。異世界通貨とは言え、単位や交換率、有る有るだよな。ウンウン、ここら辺はお約束通り「チャンとなろう」を遵守しているんだろうか? マァ、俺っちには分かりやすくて良かったがね。
「じゃ、土産に貰うか?」
「フム、リョーター様と話した感じでは頂けそうですね」
「お土産をおねだりするんですか?」
「そうですね。でも、ディアナの言い方では身も蓋もありませんよ」
「ちょっと図々しいかも知れませんが、トライしてみても」
「ウン。断られればそれも良しとして、リクエストしてみよう」
「ちょろそうなんてのは失礼かも知りませんが、リョーター様はちょろそうですしねぇ」
「なんかロザーリア以外の胸を見ているし」
「そうそう。目線を感じるのよ」
「モーほっといてよ。大きなサイズだからと言って良いとは限らないわ。ブツブツ」
「マァ、それはそれとして残る4人で胸を張ってお願いしよう」
「止めを刺すとは、さすがシモナ」
「情け容赦ないですね。普通はフォローしますよねー」
「「「ウン、ウン」」」
「高価な品じゃないという事は有るのかな」
「まさかー、冗談じゃない。砂糖にコショウですよ。考えられません」
「どうせなら、小瓶より大袋入りの方がよさそう」
「アリーヌ、よく考えた。褒めてやる」
「一人で5~6キロは持てるな」
「でも荷物が多いのは危ないのでは? 青き深淵の森を抜けるんですよ」
「大丈夫だ。塔の転移門を抜けても、ミレナに途中までだが案内を頼めた。なんと恋バナ2時間+恋テクニック2時間で手をうってくれたんだ」
「恋バナか」
「エェ、先ずはキュンとする異性の仕草でしょ。次は恋愛の失敗談ですね。ミレナにとっても失敗談を聞く事でこれからの恋愛に生かせる教訓を得られますし」
「なら、理想のデート話もだな」
「ウンウン、もしも~するならこうしたいなんてね。必須ですよ」
「リアリティがありまくりです」
「彼氏や好きな人との近況なんてのは、どう」
「結婚の話ですね。5人とも結婚を意識し始めて焦っていますし」
「結婚ですねー。どうしたらできるかいつも話していますから」
「彼が居たら居たで、記念日やイベントの過ごし方も気になるしね」
「イベントの話は参考になるわ!」
「オー、真剣だね」
「男性にされたサプライズを聞くだけでも羨ましいですからねぇ」
「夜遊びの話もね」
「遊んだ時の恋バナや、夜遊びした時の話は一種の武勇伝ですから」
「夜中まで遊んで、やらかしてしまった話を聞いてばかりではつまらないですしね」
「私なんか、知り合いの恋愛や噂話ばかりです」
「そうね。盛り上がるけど。私も、他人の別れ話か有名人の熱愛話だしね」
「必ず盛り上がるのは、他人の浮気や不倫の話よね。共通の友達の結婚話や、告白したかどうかの話まで!」
「恋愛という名がつくもので嫌いな人はいませんからね」
「内緒ですが、下ネタも意外としますから」
「過去のエッチ体験を笑いながらね」
「ハハハ、有る有る」
「皆、語るねー」
「話題には不自由しないみたいで良かったですね」
「恋バナ2時間+恋テクニック2時間ではとても足りないですよー」
「時間じゃなくて日にちになるよな」
「でも、ミレナ。エルフですものね。なかなか女子会と恋バナに縁が無いんでしょうね」
「だろうな。長命な種族特性でエルフの数自体が少ないですしね。年頃の異性と言うのは数えるほどだろう」
「同い年なんてのは、0なのかもしれませんねー」
「少し可哀想ですね」
「ならば、大いに話をしてやろうじゃないか」
※ ※ ※ ※ ※
「道の駅あおい町」に買い出しに出てから翌日の昼、冒険者パーティーの皆が帰ると言いだした。採取依頼期限はとうに過ぎているし、自己責任では有るが青き深淵の森で1パーティ5名全員が行方不明となれば冒険者ギルドでも心配はしているだろう。
今回、帰る決め手となったのはエルフのミレナが途中まで一緒に帰ってくれるかららしい。ミレナは理の実の釈明の為にエルフの里に帰らなければならないらしい。森の強者と言われるエルフが護衛になる訳であるから安全確実、まさに渡りに船である。
もっとも遺跡の転移門からは自力での帰還で有るが、カルロヴィの町方向の分岐点の川近くまで案内をするとの事なので九分九厘、無事な帰還が約束されたようなものだ。
妖精のアネットは、魔法を使って何処でも好きな所に現れる事が出来るらしい。もちろん、頭巾によって姿を消す事や転移も得意らしく、そのメカニズムに長じているらしい。
意外な事に、アネットが白い塔(遺跡都市の転移門)の操作手順を知っており、転移門も動かせるそうである。さすがは妖精であると少し見直しのだ。フム、妖精と言うのは空間系の魔法に強いという事なのかな?
「依頼の、トコリコの根。採取失敗したね」
「依頼より命ですよ」
「悪い事ばかりじゃなかったですし」
「リョーター様に会えましたし」
「そうそう、美味しい物も食べれましたからね」
「そうね。カルロヴィの町を出てからだいぶなるからね」
「ここに何時までもいる訳にはいかないしー」
「ウン」
「さすがにギルドも心配ぐらいはしているだろう」
「予定より10日以上遅れていますからね」
「ミレナが言うには、転移門からだとカルロヴィの町に帰るにも7・8日はいるらしいですよ」
「護衛が居ても、森を抜けるのに8日かかる。ちゃんと準備して行かないと」
※ ※ ※ ※ ※
「リョウター様、ずいぶんとお世話になりました」
「ホント、助かった」
「ありがとうございます」
「キャンプ道具一式も貰った事だし、後は食料だけですねぇ」
「さらりと、おねだりするとは。ハイハイ、直ぐに用意するよ」
「イヤー本当、迷惑かけるな」
「良いって事よ。じゃ俺っち、今から買い物に道の駅に行って来るわ。お土産も用意するから楽しみにしてな」
皆さんも、若い女の子達5人と妖精1人にエルフ1人(この場合、エルフが500才以上だとかアネットが300才近くだとしても)にはお気を付け下さい。俺っちのように、下手に女の子に見栄張ると思わぬお金が飛んで行きますからね。
昔、先輩に連れられて行った割り勘での女性が一杯いる所では、危うくシャンパンとフルーツの追加をする所であった。実に恐ろしきは女の人のおねだりで有る。
お土産は、向こうでは中々手に入らないか、あっても高額だと聞いた物だ。ナーロッパ基準だな。リクエストも有った事だし。実際、「チャンとなろう」小説に書いてある通りに、冒険者達も砂糖やコショウなんかを喜んでいたからね。ウム、やっぱ、予言の書だと言うのも有りだな。しかし、オミヤの指定とわなー。
ところで、冒険者達だが小柄なロザーリアでも結構荷物を運べると言っていた。でも、肩に担いで運ぶんだろうからさすがに何十キロとはいかないだろう。
キャンプ場のいらなくなったレンタル品で、6人用テント一式、シュラフ、毛布、コッヘル、包丁、大き目の鍋と焦付かない加工のフライパン。(意外な事にゴム長靴は追加で欲しがっていた)。これだけ持って、プラスお土産である。俺っちなら挫折しそうな重量である。
重さもそうだが金額の計算もしないとな。帰りの食糧はさすがに町から出してもらえるとは思わないから、俺っちのおごりになるんだろうね。リクエスト品が無ければ田中店長を見つけて頼まないと。
スーパ●カブにまたがって一走り。ブーン、ブーン。
※ ※ ※ ※ ※
「これ、パーティーの食糧だろ。無くしたと聞いていたからさー。やっぱり外人さんは小麦粉なのか? パンケーキでも焼くのかな?」
「そうです。あったら、助かると言ってましたんで」
「イヤ良いけどさ。こんな少しだと配達が出来なくてごめんなー。そうだ、予算が無いなら、もっと安いのとか有るけど、塩は25キロ入りじゃだめなのかい?」
「さすがにその量は」
「そうかい。森君の頼みだし、来週まで待ってくれれば、うちの流通に乗せるから仕入れ値で分けたげるんだけど」
「いや、そんなに待っていられないもんで、普通の値段で良いですよ。ダンボール箱2個貰って、このまま積んで帰ります」
購入予定の食塩 は1キロで110円だ。並塩だと 1キロ90円のがあったけど、お土産だから110円のを選んで10袋で1100円なり。砂糖は特売のが有ったので1キロ200円のが10袋で2000円なり。
一番価値があるだろうコショウは1キロ入り3700円の袋。食事処のストックから持って来てくれた。ちなみに、これ1キロだよ。業務用を、どうすんのと言われた。
あと、主食になるだろうパンケーキ用の小麦粉10キロ。1キロx10袋。カルロヴィの町まで9日の距離だと聞いたが、ある程度なら狩りも出来るだろうとの事だ。何気に逞しい人達だ。
エルフのミレナには、同じく同量のふっくら膨らむ甘くて美味しいホットケーキミックス粉を渡す事にした。エルフと言うのは狩猟民族なのだから、ナチュラルマッチョである。弓を鍛え続けてきたので、大胸筋と背筋カッチカチなのである。10キロぐらいなら体力的に全然OKだろう。
なぜ、ホットケーキミックス粉だけで良いのと聞いたが、ご機嫌を取る為にとか言っていたが良く分からん。急いで帰らなければならないらしく、荷を減らして10キロである。尚、塩、砂糖、コショウは次回でいいそうだ。フム、またの機会があればだがな。
パン専用ではないが、美味しいと言っていたので途中の食事用に1キロの小麦5袋をサービス。特売のが有ったので1キロ280円のが15袋で4200円。全部で11000円(税込み)。ウーン、一万円越えたか。
ソースとしょう油は、馴染みが無いので今は渡さなくともいいだろう。特に、しょう油は、レシピや出汁が無いと、料理に使ってもらえないしな。
でも、マヨネーズはかなり気に入っていた様なので各自1個ずつだけど俺っちから冒険者達へのプレゼントしたんだ。
もっと欲しいとゴネル奴が約一名いたが、結局は安かった時に買い置きしておいた分と合わせて皆で7個も渡したんだ。ウーン。このオミヤは、一応気持ちなので別会計にして請求しない方へと。
残念ながらした事無いけど、聞いた話では今時は女性と一緒なら、飲み代とかデート代とかだったらもっとかかるらしいからなー。マァ、曲がりなりにも5人の女の人や、筋肉質だったけどエルフとお話したんだし1万円なら安いのかも知れん。
※ ※ ※ ※ ※
「ウーン、話を聞いるからな。これ、お土産で渡すんなら森君のおごりなんだよね。仕方ない。ヨシ、まとめ一万円という事でかんべんな」
「田中さん、負けてくれるんですか。なんか、すいません」
「税金分ぐらいだけどね。気は心ってやつさ」
「ありがとうございます。助かります」
「イヤイヤ、てれるじゃないか。ちょっと待って。確か2階にー、まだ有ったはずだけど……訳ありなんだけどね」
2階のお土産品コーナーには、角砂糖などを保管しておくガラス製のシュガーポットがおいてあるそうだ。
「あぁ、これもパ-ティーのお土産にしたら」
そう言って渡されたのが、ちょっとカッコ良いデザインのガラス製のシュガーポット。これを11個も貰える事になった。残念ながら、道の駅には角砂糖は置いて無かったけどね。
これ、大きな声では言えないが、実は売れ残りである。田中さんが、キッチンの必須アイテムですよと業者に言われて箱買いしたそうだ。
半分ぐらいは売れたそうだが、残りの半分は何時までも売れ残ってしまう。所謂、不良在庫になってしまった品だ。物は確かにおしゃれな感じで、キッチンの雰囲気をがらっと変えてくれる品なのだがねー。
今回、角砂糖は入って無いけど、本来ならばガラスの中に入れる角砂糖の色やデザインを見て楽しむ物だそうだ。
重みがあって安定感もあり、凝ったデザインのシュガーポットで有る。来客の時にお茶と一緒に出してもよさそうな逸品と言えなくも無い。
人の親切はありがたく思わないと、社会人として恥ずかしいからね。マァ、保管用なら密閉性の高い物が良いはずだ。砂糖が固まりにくくなる物なら外見は何でも良いだろう。
サァ、戻ろう。おっと、アネット達にお団子を忘れる処だった。あいつ好きだからなー。今日は7本購入。1本足らないが、焼きたては7本だったので仕方ない。
次が焼けるまで待っているのも何なんだし……。あの体で串に5個さしてある団子、2個は食べるだろうしな。仕方ない、俺っちの分からやるか。
帰ろ帰ろ。俺っちのスーパ●カブは力持ち。ブーン、ブーン。
※ ※ ※ ※ ※
「モグモゲ」
「モグモグだろう」
「そうだった。このポップコーンと言うのは香ばしいのですねー」
「少し焦げてませんか?」
「そうかなー」
「ウム、そのようだなシモナ。でも結構いけるぞ」
「すまんかった。モゴモゴ」
「美味しい、ご飯。有難う」
「色々、ご迷惑をおかけましたね。ゴクゴク」
「ウン、ウン。パク」
「そだねー。ポリポリ」
「私も、そろそろ帰らないと。彼女たちは転移門から8日で森を抜けられるが、エルフの里に戻るのに私の足でも10日はいるからな。これ、嫌いじゃない味だ」
「そだねー。お師匠の実家ならそのぐらいだね。ゴックン」
「最後になったけど、お礼に結界魔法かけておいたわ。と言ってもミレナさんがね。アイデアは出したんだけど、私ではとても魔力が足りなかったの。でも、ミレナさんが丁度良い魔石を持っていたすね。今頃は発動しているはずよ」
などと殊勝な話ではあるが、皆の口の中はポップコーンで一杯である。午後の優雅なティータイムにポップコーンとも思ったが、明日には帰ると言うのでコーラと一緒におやつとして出したのだ。
ポップコーンを作るにあたって、そばに居たアネットに作り方を説明して火にかけた鍋を見ているように頼んだ。飲み物は某コーラが良いという事なので自販機で人数分購入に出た。
某コーラを抱えて帰ってみると、案の定、鍋のふたからポップコーンが溢れ出している。ウン、途中で、あいつで大丈夫だったのかと思ったんだが、期待を裏切らない行いである。
「すぐに火からおろせ!」
アネット。やっぱり、見ているだけだったな。マァ、少し焦げているが、これも風味だとして、気にせずに出す事にしたんだ。で、話の続き。
「弟子が迷惑をかけたようなので魔石の事は気にしなくともよい。それに弟子ともども世話になったしな。そうだアネットの魔よけの指輪をやろう」
「エー! お師匠」
「迷惑料だ。出せ。リョーター殿、妖精の指輪だからそれなりの力が有る。結構、能力拡張も出来るぞ」
「プンプン」
「うるさい! キャンプ場の境界と草原。奥には青き深淵の森が有るしな。気が向いてその向こうに行く時に、必要になるだろう」
「エ? エ? なんで?」
「なんでって、好奇心?」
「無い無い」
「そ、そうか。マ、魔獣除けの指輪と言っても、今、刻んである術式ではオークかオーガまでぐらいしか効かんからな。サイキュロプスは無理かも知れん」
「そうなんですか。でも、気が向くとは思いませんが……」
「強い魔獣が襲って来る可能性も有るからな」
「確かにそうか。魔よけになるという事なら有難く頂きます」
「アァ、そうしてくれ。この草原にはじきに一角ウサギや大角シカが戻って来るだろうしな」
「女の敵のゴブリンやオークもね」
「今までは、私が居た事もあって魔獣は近づかなかったからな。居なくなると襲って来るかも知れん」
「フーン」
「冒険者達もお礼がしたかったらしいが手持ちがない。そこで、この地にはソフト結界を張って防ごうと、ロザーリアから相談が有ったんだ」
「ハァ」
「魔素が少ない土地なので1年ぐらいしか持たないがな。切れる前には、この状態も何とかなっているだろう。そうだな、アネット」
「ハイ、お師匠。ルンルン」
「あんまり明るく返事するなよ。信憑性が0になるじゃないか」
お礼の魔法とは結界魔法の一種らしい。キャンプ場の境界と草原。奥には青き深淵の森。その間にはプルプル震える空気層みたいなのが地上50センチの所にゆらゆらしている。
あれが、ソフト結界と言うものなのか。これで魔獣なんかはキャンプ場に入ってこれないらしい。どこかのゲームに出て来る、妖精とエルフが使う事が出来る専売特許みたいな魔法らしい。
このソフト結界と言うのは、そこにあたるといつの間にか反対方向に進んでいると言う物らしい。堅い結界だと、魔獣はともかく小鳥なんかが当たると可哀想だからね。そんなのが出来ていた訳だ。
効力はエルフの保証付き。長いのか短いのか分からんが、1年は持つそうだ。それまでには、アネットが時空間の歪を何とかするだろうし、出来なくとも1年経ったら掛けなおせば良いらしい。
でも、どうやってかは俺っちには分からん。あの返事ではアネットが当てになるとは思えんしなー。その時は、ミレナが魔法を掛けに来てくれるのかなー?
「明日の朝、早出するんなら今夜はゆっくりしてくれよ」
「ありがと、リョーター。お別れだね」
「アネット。お前は、残ってろ」
「エーン、みんなと居ないと寂しいし、一緒じゃないとご飯もおいしくないの」
「お前、自分のしでかした事が分かっているのか」
「エーン。分かんない。お師匠、どうして?」
「忘れたのか? 世界樹の実の紛失が誰のせいかを。かなり怒っているだろうからな。お父様に上手く説明出来たら、迎えに来てやる。と言う訳で、すまん。リョーター殿、アネットを少し預かってくれ」
「マァ、預かるのは構わんけど。食べる量も知れてるしな。しかしアネット。お前、飯の事しかないのか?」
「ぷー」
「ほっぺたを膨らましても変わらんぞ」
「じゃ、預かるわ。皆、すぐに夕食にするからな」
「「「ハーイ」」」
※ ※ ※ ※ ※
「今晩は何かしら?」
「待ち遠しい」
「ディアナもロザーリアも、はしたないですよ」
「そういうシモナもそわそわしてますよ」
「朝一番に出ますからねー」
「イレナ。そんな事で気配察知の技を使うんじゃない」
「お待たせ。出来たから来てね」
と言う訳で、今晩は俺っちにとって中級バージョンのオムライスである。この他に上流、超上流、スーパーエクセレントとあるが、冒険者達にそれほど気を使わなくても良いだろう。
尚、スープはインスタントだが前回のコンソメからコーンポタージュ粒入りにしてある。ウン、オムライスにスープ。これに、サラダを付けるのでまさに王道。豪華絢爛の食卓と言えよう。
では、ご飯が炊けたようなので、炒めた鶏肉と具を投入してケチャップライスを作ろう。長年の修行の技を見よ。
1個1個包むのは面倒なので、8人数分の卵を食堂の備品に有った大き目のフライパンで2回に分けて焼く。切り分けた後は銘々皿につけておいたケチャップライスの上に、横滑りさせて完成である。
包まれていなくてもオムライスである。時短料理では有るが邪道では無い? 異論は認める。チューブのケチャップで巨大なハートを描けば出来上がりである。最後の仕上げになる大きなハートはアネットに描かせた。
さすがに、美味しくなーれーの掛け声は教えなかったが、有ればそれなりに美味さが増すのかも知れん。何しろ、アネットは本物の妖精なんだから素養は十分あるはずだからな。
「このオムライスと言うのは絶品ですね」
「ホント、ケチャップと言うんですか、お口に中に広がる酸味と旨味のバランスの良さ」
「決め手はバターの香りと卵でしょうね。この味は中々のものです」
「確かに」
「お替わりー」
「許せ。お替わりは無いのだ」
「「「ガーン」」」
「もはやガーンなど慣れたわ! 皆の者、嘆く事は無いぞ。良いか! 代わりに用意した物が有るのだよ。フフッフ、これを見よ」
「何ですか?」
「恐れ、おののけ! そして敬え。このデザートの名はアイスクリームである」
大人数用のボックスアイス2リットルタイプから、銘々皿に取り分けて出してやる。味はバニラ。しかもミルクの風味をいかしたコクのある味わい。これも王道である。
「召し上がれ。アァ、アネットは俺っちと半分こな」
「「「ハーイ」」」
「これを食べてお片付けしたらコテージでお休みな。ミレアにも化粧セット渡しておくね。歯磨きセットも入っているからね。使い方は冒険者さんに聞いて。俺っちより詳しそうだから。じゃ、また明日。お休み」
「「「おやすみなさい」」」
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