第8話 道の駅に、買い出しに行こう。

 ※ ※ ※ ※ ※


 今から近くの「道の駅あおい町」に食料の買い出しである。何しろ8人の食事である。アネットは半人分だけど。今朝までに備蓄の食料をほぼ食いつくしたからな。


 さて、東の入り口から、3キロ位離れた県道沿いに「道の駅あおい町」が有る。今時の道の駅は、何でも有ると言っても過言ではない。チョットしたスーパー程の品揃えである所も多いだろう。

 俺っちも、たまにバイクで買い出しに行く。もっとも、俺っちにとってはショッピングが出来る唯一の場所と言っても良い。生活維持の為には必須なのだ。


 それはともかく、ご機嫌な事に年中無休であり朝市も週一で開かれおり早くから営業している。地方という事も有って夜には客足が絶えるのだが……。そして、かなり早い時間に閉まるのが残念ではある。


 残念と言えば、「道の駅あおい町」には温泉が無い。だが、心配無用である。「日帰り温泉あおいの湯」がある。マァ、国道まで出て15キロ程行かないといけないのだがね。


 普段、風呂はキャンプ場のコインシャワーで済ませている。ここのコインシャワーは、お湯が出るんだよ。電熱式なので使えるけど、事務所の給湯室に有る湯沸かし器はプロパンガス式だし小さな台所と言った感じなのである。


 コテージとロッジにもお風呂があるんだが、残念ながら改修工事という事でボンベは2カ所のコテージ以外は回収されているんだ。冒険者達を案内したのはその内の一つなのだ。


 全部のボンベが回収出来なかったのは、集配トラックに積み込めなかった為でまた次回という事らしい。町内の業者さんだからその辺は融通が利くからね。


 そんな事も有って、冒険者達は8人まで泊れるロッジより、一回り小さいがお湯の使えるコテージに案内したという事なんだ。お湯が出ると何かと便利だろうからね。


 俺っちも、どうしても必要ならコテージのお風呂が使って良いんだけど、後の清掃が面倒なんで使わない事にしていたんだ。一人だと勿体無いし、稼働させるまでに時間も要るからね。


 あと、うっかりして湯冷めして風邪をひく訳にはいかないんだ。何故かというと、風邪薬を買うにしてもドラックストアまで片道2時間もかかるんだからね。


 あおい町にあるお医者さんまでは1時間かからないけど、受付で待たされるので診察が終わるまでに半日かかるんだ。薬局はすぐ隣に有るので処方箋はOKなんだけど。マァ、無医村では無いから、そこんとこは有り難いけどさ。


 朝は、もちろん食べさせた。なんと8人分だよ。マァ、朝食は健康に良いらしいからな。それに自炊レベルが上がっているからそれほどの手間でも無いし慣れたもんだよ。皿とコップを厨房から運ばないといけないんだがね。


 冷凍していたパック詰めしたチンごはんと、インスタントみそ汁。これは譲れない手作りの卵焼き、結構うまいと自負しているんだ。


 そして定番の納豆。副菜の漬物は「道の駅あおい町」でおばちゃんにもらったの。キャベツを千切りにしてマヨネーズをかけただけのサラダ? 箸は苦手だろうと思ったので、食堂のカウンターからスプーンとフォークを持って来た。


 でも、アネットの師匠のミレナだけは不思議と箸を使えるんだよな。アネットに聞いてみたら、昔、お師匠は東方の国で覚えたと言っていたそうだ。女の人に年齢を聞く愚は侵せないけれどここだけの話、500年以上生きていれば色々経験しているんだよと言っていた。


「みそ汁? スープなのは分かる。が、パンはもう無いのか?」

「みたいですよ」

「これは、リョウター様がいつも召し上がる朝食のスタイルだそうです」

「ホー」

「焼き魚と海苔? があればなお良いそうです」

「魚は炙った物だろうが、海苔とは何だ?」

「サァー?」

「ここに出てなければ関係ないじゃん」

「それはそうだが」

「それよりも早く食べましょう。このセット、一汁三菜? 四菜だったかな。とにかく健康に良いそうですよ」


「いただきまーす。なんだ? みんな、ジロジロ見るなよー」

「掛け声をかけるんですね。フーン」

「天にお見えになる、我らが全能の……」

「さすが神官。ロザーリアは、ぶれないな」

「リョーター様の世界ではいただきますと、唱えてから食べるのか」

「ごく普通にな」

「では我らも」

「「「いただきます」」」


「マ、食べれればなんでも。ウ。このナットウと言うのは……」

「印象的な味だな」

「豆の発酵食品らしい。お肌にも、お通じにも良いって」

「しょう油を入れ過ぎるなよ」

「ウン。匂いはともかく、体に良いならばこれはこれで良いかもしれんな」

「そうだよ。若干、匂うが味は良い。慣れると癖になりそうだ」


「オイ、キャベツのマヨネーズだけを舐めるなよ。無くなっても……。仕方ない、追加してやる。一回だけだぞ」

「美味しい。卵焼き、少し甘いのが良い」

「モグモグ」

「止めんか、アネット。冒険者達から聞いたが、モグモグは褒め言葉では無いそうだぞ」

「お代わりはないぞ。食べ過ぎはいかんからな」

「ガーン」


 だからー。いったいどこの言葉なんだ。ホント、知りたいよー。


 みんなも慣れない卵かけごはんより、ちょっと焦げたけど、卵焼きの方が良いだろうし。アーァ、アネット。もう卵焼き食べちゃったのか。お師匠に半分取られたって。俺っちのを少しやるよ。一人2切れだと言ったら、誰も分けてくんないみたいだからな。泣くなよー。


 念の為に公表しておくが、俺っちは倹約はしているがケチでは無い。ストックが無いんだよ。しかし、俺っちの6日分の朝飯が、一瞬で無くなるとはな。冷蔵庫の在庫を考えるとトホホだよ……。道の駅に買い出しに行くのは決定である。


 ※ ※ ※ ※ ※


「待っている」

「気をつけて下さいね」

「世話になるな。よろしく頼む」

「待つ」

「待ってますわ、お土産忘れないで」

「ゴハンー」

「行ってこい」

「ルンルン」


 約一名を除いてみんなで見送ってくれた。そんなに心配しなくとも大丈夫だから。「道の駅あおい町」に行くだけで、ここは日本なんだから。盗賊や魔獣は居ないから。イヤ、盗賊ぐらいは居るかも知れんが。

 マァ、脅威だとしてもシカやイノシシぐらいで(クマは真剣に怖いけど)ある。どちらかと言えば、都会に出没する犯罪者の方がよっぽど怖いんだから。


 ホ●ダのスーパ●カブは力持ち。ブーン、ブーン。着いた。サァ、「道の駅あおい町」だ。生産者直売コーナー、食品コーナー、パン屋、団子屋さんの順に攻めて行こう。フフフ、後悔するのだなアネット。俺っちの耳は高性能なんだ。ルンルンと言っていたお前には、土産のお団子は無しだからな。


 今日は量が多いのでバイクの後ろに積めるよう、ダンボールを貰わないとな。先ずはキャシュコーナーで、幾らか現金を下ろさないと食料が買えん。町長が、お・も・て・な・し費用を早く出してくれるのを期待しよう。レシート、忘れずに財布に入れなくちゃ。


 エーと買い物リストはと。サラダ用野菜を多めかー。贅沢な事に、キャベツだけではいかんらしい。冒険者と言うのは肉食系だと思っていたが、そうでも無いらしい。ウン、レトルト系も沢山いるな。10キロ袋のお米は当然だが、食パンに菓子パンと、甘い物は好きらしいからな。


 皆、喜ぶだろうな。笑いいながら食べているし、よっぽど美味しいんだろうな。オッと団子屋さんだ。ここのお団子は冷めても美味いんだよ。後は忘れない様にと、マジックで手のひらに書いてきたんだ。マヨネーズ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「オ、森君。おひさだね。元気してた?」

「はぁ、有難うございます。田中さん」


 この町には、町長をはじめ、やたら田中姓が多いんだ。で、この田中さんは町長の田中さんの弟さんで「道の駅あおい町」の店長さん。


「またまた、堅苦しいんだから。で、買い出しかい。昨日、兄貴から聞いたよ。登山者パーティーのお世話だって?」

「エェ、道に迷ったみたいです。登山者パーティーとはちょっと違うんですが人助けですし、時間的に遅かったから移動もできなくて、ロッジを開いて泊まってもらいました」

「偉いなー」

「仕方ないですよ。困った時はお互い様ですしね。田中町長にも、おもてなしの心でって言われましたから」

「マ、がんばってよ。オッと買い出しだね」

「ハイ、リスト作ってきました」

「感心だね。そうだ、明細とレシート忘れないようにな。後で、役場で清算する様な事、言ってたよ。町長」


 町長、ご配慮有難うございます。でも、立て替えなんですよね。給料日まで足りるかなー。


 ※ ※ ※ ※ ※


 地元の農家さんが持ち寄った、採れたての新鮮な野菜や食材が手に入る場所が「道の駅あおい町」だ。野菜や果物が、安くて美味しいのは当たり前。キャンプ場からの買い出しにも近くて便利。新鮮で瑞々しい野菜や肉に魚がある。もちろん、季節の果物も置いてある。


 物産コーナーにはお土産品は言うに及ばず、ご当地グルメや地酒、加工品が満載。朝から賑わう直売所が有る。中でも地元のおばちゃんが作った、お漬物が最高である!


 山間の割には敷地が広く、直売所から食事処、遊具もあり家族連れでも、十分満喫できる。行楽シーズンには、ツアーバスも立ち寄るほど有名だそうだ。そいでもって売店のお団子は9時半がねらい目。冷めてもおいしいけど、焼きたてならパクパクいける。


 それに売店ではピザも売っている。種類もそこそこあって、少し待つけど頼めば注文後に焼きたてを作ってくれる。大人でも1枚で十分。売店のソーセージとハムの盛り合わせパックもお値打ち。

 パン屋もあるし、焼きあがった食パンを好みのサイズに切ってくれるサービスがある。ただし、焼き立てのカットは難しいと言われたけど。尚、惣菜パンもそこそこある。


 他にも、湧水が汲めるところが駐車場横にあり、チョットした隠れスポットになっている。ここの水は冷たくて美味しいので、ポリタンクを持って来ている人もいるんだ。

 後は女子トイレが、とってもキレイだとか? 女子トイレには、入ってないので分からんがきっとそうなんだろう。


 食事処も併設していて人気なのは懐石風の青の森御膳。麦飯と五穀飯が選べるのだ。野菜のかき揚げ他、茶碗蒸し付きである。食堂の感じも新しい日本料理店のようで、地元の人にも評判で法事の後の食事会にも使うらしい。営業時間は季節により異なるとの事、ここら辺の夜は早いので、営業時間に注意。


 駅周辺の観光スポット1番は、 車でなら20分ほどで「日帰り温泉あおいの湯、古今集の里」に着く。和歌をテーマにしている。三十六歌仙にちなんだ複製絵巻は見応えあり。

 駅周辺の観光スポット2番は、車で35分の青の滝。落差25m、幅3mの滝である。周辺には散策路があり紅葉の風景が美しい。


 町の名物として売り出しているのは高校生とコラボして開発した名産品「青野町、極楽茶」香りが違うそうである。

 それと、「いなかアイスクリーム」という名のアイス。高原の牛乳や卵など、地元食材を使って作るアイスである。夏だけの季節商品あらず、通年通して人気でもっちりアイス感がたまらん。


 そうそうバウムクーヘンも名物かな? 生みたての卵で作る生バウム。トマト味、ゆず味を販売。満足プリンもあったけ。土日祝限定のご当地プリン。濃厚でクリーミーな味わいだ。


 直売所と売店は朝9時~夕方5時までだけど、お食事処 のレストランは午前11時~午後3時と少し早く閉まる。観光案内所は午前10時~午後4時と、まあこんなである。


 ※ ※ ※ ※ ※


 よし、揃ったな。帰ろ。しかし皆、飯ウマ、と言っていたな。確かに褒められると満更でもないな。母さんの気持ちが少しわかったわ。サンドイッチのポテトサラダ美味しかったと言っていたし、朝食のサラダに掛けたドレッシングも気に入ったみたいだな。やっぱ、マヨネーズ味を食べさせたからな。


 マヨネーズは、はまったら抜け出せないよなー。マヨラーになると何でも大量にかけて食べたり、マヨネーズには合わないと思われる食物にも、あえて使うらしいしな。


 俺っちのせいなんだろうなー。可哀想にマヨラーにしてしまったかも知れない。ディアナ、すまんな。骨は拾ってやる、レシピを渡すからマヨラーとして生きていくんだな。


 ここで、唐突だが手作りマヨネーズのレシピ。作り方は単純。素材の味が直接的に影響する。材料(約160g分)は卵黄1個、酢大さじ1、レモン汁小さじ1、塩小さじ2/3、マスタード大さじ1、サラダ油110gである。


1.ボウルに油以外の材料を全て入れ、しっかりと混ぜる。油が古かったり、酸化していると臭いが気になったり、味が劣化する。


2.サラダ油を少しずつ加えて、泡だて器でしっかりと撹拌していく。まろやかさを出す為、マスタードとレモン汁を加えてもいい。粒タイプならスパイシーで美味しい。お酢だけでなく、レモン汁も加えると爽やかになる。しかも、まろやかになるのでオススメ。


3.全てのサラダ油を加えて、全体が白っぽくなり、とろみがついたら完成。分離を防ぐには材料を常温に戻す事。材料の温度が低いと、分離しやすい。全ての材料を常温に戻すのが秘訣だな。油は一気に入れると分離しやすいので、少しずつ他の調味料と混ぜ合せる事。


 出来るなら電動ミキサーやハンドブレンダーで撹拌した方が分離しづらい。泡だて器の場合は、油を加えるごとにしっかりと混ぜると良い。


 ※ ※ ※ ※ ※


 何故、急にマヨネーズのレシピかって、それはねーウンウン、俺っちが悪かったよ……ディアナ、そんな顔で見るなよ。ゴメンなー、忘れたんだよ。他はちゃんと買ってきたんだけど……。だから、材料は有るから今マヨネーズ作っているんだよ。


 少し待っていてくれ。な、泣くなよ。簡単だろ、レシピも渡すからちゃんと覚えておけよ。異世界にだって鶏みたいな卵が有るだろう。そうだ、卵はクリーンの魔法で奇麗にしないと腹を壊すぞ、絶対に独り占めしようとして、クリーンの魔法をケチるんじゃないぞ。


 でも、クリーンの魔法って有るのかなー。生活魔法系なんだろうなー。浄化と言っても、アンデッドを浄化する魔法とは違うと思うし。マァ、これだけ言っておけば、おバカな事はしないだろうが……しないよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る