第4話 キャンプ場。オープンです。

 ※ ※ ※ ※ ※


 季節は、冬に向かっている。春には工事が始まる事になっているが、今、「あおい町キャンプ場」は拡大と設備改修の為に、一時閉鎖している。近くには「道の駅あおい町」と、少し離れているが「日帰り温泉あおいの湯」がある。


 俺っちはキャンプ場の臨時管理人として一人、こころ穏やかに日々を過ごしているはずで有った。割のいいバイトで稼ぐはずだったのだ。そう、妖精と、冒険者が来るまでは。当てが外れるどころでは無い。


 あおい町キャンプ場は、町営であるが土地はあるのでキャンプ場としては結構広い敷地だと思う。地の果てと言うほどでも無いが、大都市の近郊では無いので来場者はお泊まりがベターとなる。設備は少し古いが宿泊は十分出来る。日帰りバーベキュー会場としてはチョット向かないと言った所である。


 だが、設備自体は多少古くてもかなり充実している。催し物が出来る中央広場があるし、グランド・テニスコート・キャンプファイアー会場・小さな池も有る。傘の様な屋根付きの広場前の管理棟には売店、自販機があり、場内各所には炊事場、トイレ、洗面、が設置され一通りの物が揃っている。


 夢よ、再び。を狙うのだろう。来春の改装後には、コテージ6棟・ロッジ9棟・バンガロー5棟・オートキャンプサイト・テントサイトが沢山と、割と大きなキャンプ場になる予定である。


 もちろん、国内某チェーン傘下のおしゃれなレストランと喫茶コーナーが入り、男女別の水洗トイレ、コインシャワー、ランドリーも作り直すそうだ。当然ネットも繋がるし、ドックランも出来ればペットもウエルカムな近代的なキャンプ場に変わる予定である。


 キャンプ場の名前も変わる予定なので、名入れしてある備品も新しくとも処分予定である。よって事務所で貸し出しているキャンプ用品は大量に交換されるか、破棄される予定になっている。もったいない気もするが、新装開店と同じで今のレンタル品が処分されるのはご時世である。


 また、寝袋等は、アレルギー対策の為に最小限となりほぼ無くなる予定だ。当然、ペット用の毛布等もないので、寝具が必要な場合は各自で持ってこなければならない。


 それはともかく何という事だ。この目の前の冒険者たち5人は、妖精の様に消えてない。事務所の窓越しに5人の姿が見られる。少し時間が経てばあるいはと思ったが、とうとう現実を受け入れなければならない様だ。マァー、こういう時には、役場には電話の一本でも入れておくべきだよな。森が出現したのもたいがいだが、人が5人も来たもんな。


 ※ ※ ※ ※ ※


「もしもし?」

「ハイ、あおい町。町長、田中です」

「エ、町長さんなんですか? 森良太です」

「森、森、あー森君か?」

「ハイ、そうです。キャンプ場の臨時管理人をやらせてもらってます森です」

「そうだったね。ハイハイ、お疲れさん。珍しいね。で、何か有ったの?」

「エーと、実は2時過ぎなんですけど、5人の女性パーティーが森の方から歩いて来られて」

「そうなんだ」

「で、2人の方がケガをされてましたので、応急処置と言おうか救急手当と言うか。あと、荷物も無くされたそうです。エェ、それにもう夕方ですし、道の駅じゃない……あおい町のバスはもう出てないし、次は朝だし」

「エー! チョッと待って。ケガしているって? 救急車、呼ぼうか?」

「いえ、そんなひどく無くて、打ち身と擦り傷のようで医者が必要だとは……。簡単な手当てだったので、事務所の救急キットで間に合いました。ハイ」

「そうかー。ホントに良かったのかね?」

「エエ、それにこの時間では歩いて町には行けないと思いますので、落ち着くまでロッジで休んでもらったほうが、良いかなって……」

「そうかー」

「そんなんで、空いているロッジに泊まってもらって良いですかね?」


 フー。いくら役場の職員が少ないといっても、なんで、町長が電話に出るのかな。緊張したな。ウーンやっぱ、メールと違って電話は苦手だわ。話、伝わったかな? パーティーが来た事、ちゃんと話したよな。5人の女の人だっていうのも忘れなかったし。よし忘れは無いよね。


「ああ、もちろん良いよ。ご苦労さんだったね。そうかー5人だったかね、ゆっくり休んでもらって。そうだ、売店に置いてあった物で要るなら出してあげて。鍵の場所は知っているよね」

「ハイ、知ってます」

「場合が場合だからねぇ。ウーン……経費で落とすから、気にしなくていいよ。がんばってよ。ただ、何に使ったか明細を書いといてね。後で、まとめて役場の方で清算するからね」

「ハイ」

「エーと買い物となるとー、そこから近いのは道の駅しか無いよね? じゃ、話しを通しておくから。明細とレシート忘れずにね」

「ハイ、分かりました。食事も、無料で出して良いんですよね?」

「それで良いよ」

「では、適当に出しときます」

「確か、携帯は圏外だったから。家に、連絡入れるなら、その電話使かってもらっていいから。処で、その人達って地元の人なの?」

「いえ、異人さんです。パーティー組んで、森の中を歩いていたそうです」

「またまた、異人さんって、外人さんの事だね。そうか、パーティーって登山家なんだね。ウンウン。取り敢えず、日本の、お・も・て・な・しで頼むよ。時間もなんだから、急いで見に行かなくても良いよね? そっちで、出来るならよろしくね」

「ハイ、了解しました。がんばります」


(町長、有難うございます。でも、何か買ったら立て替えになるんですよね。仕方ないなー、ここに有る物で間に合うかな。人助けだしなー)


「どうせ、キャンプ場は休業中なんだし。なんなら、一週間でも十日でも構わんよ。そのかわり、何だったかな、そうそうイン●タグラムだったかな? ネットで宣伝してねって。●イッターもありかな? ユーチュ●ブもいいな。タイトルは、日本のすごい親切な町長さんにお礼をしたい。とか、何とかね」

「ハァ」

「評判になったら、取材があるかも知れないし。マスコミ受けも良いし、選挙も近い事だし。マスコミ取材があるかも知れないしね。ウン、それで行こう!」

「町長、町長! 電話。心の声が出てます」

「あぁ、そうか。もちろん冗談だよ。じゃ、よろしく!」


 冒険者達が携帯を持っているとはとても思えないけどなー。でもまぁ日本の地方自治は厳しいらしいし、町長、次の選挙大変だからなー。と役場で聞いたし。なによりも人助けだもんな。お・も・て・な・しで行くか!取り敢えず、一部分だけど。キャンプ場、オープンだな。


 ※ ※ ※ ※ ※


 そう言えば妖精のアネットとの、意思疎通に使ったコピー用紙がそのままだと思いだした。一部500枚入りのコピー用紙は500円以下で買える物である。安売りでなら、二部買えそうな物でもある。これを意思疎通の補助に使うか。いくら天才的なジェスチャーでも通じん事も有るからな。


「名前を、教えてもらおうか」


 と言って、自分を指さして繰り返しリョウターと言っていれば通じるもんだ。5人の喋っている事は、分かるので尚更だ。合っていると思うが、謎解きをしている間にちょっとだけだが各人の性格がわかった気がする。


 尚、紙による意思の交換は、5人の画力不足によって不可能と判断した。コピー用紙を随分と無駄にしたが、俺っちのせいではない。


 シモナは、パーティーリーダーで決断力がありそうだ、金髪で苦労性みたいだな。そこそこ美人さんでもある。TシャツのサイズはLだろう。尚、バストサイズについてはこの御時世であるので未記載としておく。Tシャツのサイズで推測していただくしかない。


 ディアナは、戦士という事で前衛をやっている様だ。脳筋のようだが金髪の超美人と言っていい。見るからに筋肉量が豊富で3Lサイズで確定であろう。


ロザーリアは、神官系の魔法使いらしい。いいとこのお嬢様みたいな感じであり黒髪で背が低い。魔力を使うにはかなりの魔素エネルギー? がいるそうである。特に聖職者の使う、聖と癒しの魔法は燃費が悪いのでお腹が直ぐに空くらしい。まあまあ美人だな。Sサイズである。


 アリーヌは魔法使いでそこそこ有能らしく王都の学院で魔法を学んだそうで、赤毛の小柄ではあるが胸の大きな女性である。Lサイズよりで立派な物をお持ちで有る。尚、念の為に申し添えるがメガネはかけていない。もっとも、彼女達の世界にメガネが有るがどうかは知らないのだが。


 最後のイレナは、シーフをやっているらしく慎重派である。やはり金髪で少し痩せているが、やっぱりかなりの美人と言える。Lサイズでややスレンダーな感じがする。


 5人は北欧系の美人さんという事に間違いはない。アー俺っちは、自慢じゃないが美人耐性が低い体質なんだ。言い訳じゃないけど体質だから評価が甘くなるのは仕方ないんだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「カルロヴィの町から5日。青き深淵の森とはいえ、ほんの入り口だったはずなのに」

「オークの群れがいたなんて、酷い目に遭った」

「群れの事はギルドも知らなかったでしょう」

「しかも、逃げ込んだ先が転移門だからなー」

「あの遺跡に逃げるなんて思いもしませんでした」

「でも、おかげで命拾いしたから」

「アァ、そうだな」

「まさか、今でも動くとは思わなかった」

「行き先を誰も知りませんからねぇ。しかも、こんな奥深くまで迷い込むとはな」


「荷物と依頼は諦めるしかないな」

「そうだね。5人全員で無事逃げられただけでも、運が良かったと思わないと」

「ホント、塔から出た時はどうなるかと思いましたが」

「幸運だった。人の住む地がこんなに近かったんだからな」

「ロザーリアの占いも、まんざらでもないな」

「おなか空いた」

「分かった分かった。占いに魔力を使ったんだろ」

「ウン。ごはん、まだかな?」


「しかしここ。見れば見るほど不思議な所ですかね」

「そうだな。この岩の様な壁はどうやって作ったんだろう」

「土魔法にしてはおかしいですしね」

「オイ、彼だぞ」

「戻って来たか」

「ロッジに行って、ブレーカーを入れてくるとか言っていたが? 何の事だ?」

「さぁ? でも布を沢山抱えて用意して来ると言ってましたけど……」


 ※ ※ ※ ※ ※


「じゃ、こちらへ。ロッジに案内します」

(…、……。…… ……)

ウンウン、チャンと後から付いて来るね。


「皆、移動するぞ。注意を怠るなよ」

「「「「了解」」」」

やっぱり、冒険者と言うのは違うな。なんかピリピリ感がするよなー。


「入口で、靴を脱いで下さい」

(……、…… …………)

俺っちが靴を脱げば分かるだろう。


「これが電気で、あちらがベッド、トイレはこちらに」

(………、………、…… ……)

これは分からなくてもしょうがない。俺っちも電気の事は詳しく無いから、スイッチの入り切りぐらいかな。洗浄トイレは説明文を見てもらおう。


「タオル、バスタオルはここ。5人分です。アァ、電気と風呂のスイッチを入れておきますね」

(…、………、…… 。………。…、…… ………… …………)

冒険者でも女の人だから、きっとお風呂に入るよな。シャンプーとリンス、化粧水の説明しないといけないのかな……。


「後で、軽い食事と、飲み物を持ってきますね」

(…、………、…… ………… ……)

俺っちもお腹空いたよー。彼女達の生活環境とはかなり違うみたいだから一通り説明しないと困るだろうからな。俺っちが女の人にお風呂の説明をする事になろうとは世の中分からんもんだ。もうちょっと頑張るか。しかし、早く説明を終わらせてご飯を食べたいなー。

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